ウォルター・ウィック × 糸井重里  A Pure Joy For Me  『ミッケ!』の作者と翻訳者の対談。
 
#2 思いのようなものが反映されている。
 
糸井 『ミッケ』の世界って、
明るいテーマのものもありますけど、
けっこうダークなものもありますよね。
ダークなテーマのものを、
怖がらせるんじゃなくて、
感覚的にたのしめるようにするっていうのは
なかなか苦労があるんじゃないかと思うんですけど。
ウィック あの、じつは私、暗闇が怖いんですよ。
糸井 そうなんですか?
ウィック だって、暗闇のなかだと、
いろんなものを感じ取ることができないから。
『ミッケ!』をつくるときも、
できるだけ暗闇だけのページに
ならないように心がけています。
「このページは暗いから探すのが難しいな」
というふうにはしたくないんです。
まぁ、ときどきは雰囲気を盛り上げるために
暗闇をつかってしまうんですけど、
なるだけ暗闇はつかいたくないんです。
糸井 なるほど。
ウィック たとえば、シリーズのなかに
『こわーいよる(Scary Scary Night)』
という1冊があるんですが、
あれは、古くから伝わるシンプルな詩に
インスパイアされてつくったものなんですね。
「くらーいくらい 森の中に、
 くらーいくらい おうちがあって
 くらーいくらい おうちには、
 くらーいくらい おへやがあって
 くらーいくらい おへやには、
 くらーいくらい とだながあって‥‥」
というものなんですが、
この詩を本の材料にしてみませんかって
出版社のほうから話があったんですけど、
「くらーいくらい(dark dark)」
っていう本にはしたくなかったんです。
それで私はそれを
「こわーいこわい(scary scary)」
に変えたんです。
糸井 怖いのがイヤなんじゃなくて、
ほんとに「暗闇」がイヤなんですね(笑)。
ウィック はい(笑)。
とはいえ、それぞれの場面をつくるために
暗闇はつかわざるを得なかったんですけど。
糸井 そうでしたか。
『ミッケ!』にはダークな世界観もあるから
ウィックさんが暗闇を苦手だというのは
ちょっと意外でした。
ウィック ダークなテーマが出てくるのは、
私が一時期、ヨーロッパのゴシックに
興味を持っていたというのもあるのかもしれません。
17世紀のヨーロッパのゴシック文化、
ドクロとかガイコツとか、あるいはお城の建築とか、
そういうものを吸収するために
私はヨーロッパで多くの時間を費やしました。
糸井 あー、なるほど。
ウィック そういった様々な文化と、
さきほどお話しした古くから伝わる詩を組み合わせて
『こわーいよる』はできたんです。
糸井 お話をうかがっていると、
やはり、ウィックさんご自身の
作家としての個性や思いが、
本のなかに強く反映されているんだな、
ということがよくわかります。
ウィック そうかもしれません。
最新刊の『タイムトラベル』にも、
私の思いのようなものが反映されているんです。
というのも、以前、
大きなオモチャ屋さんに行ったとき、
一方の棚は、ぜんぶ女の子用のオモチャで、
もう一方の棚は、ぜんぶ男の子用のオモチャが
並べられていることに気づいたんです。
オモチャ屋さんだけでなく、
玩具メーカーも、男の子用と女の子用を
はっきり区別してつくっているようでした。
でも、なんといいますか、
私は、自分がつくるお姫様は、
オモチャ屋さんに並んでいるような
「いかにも女の子っぽいもの」に
したくなかったんです。
私は、自分が思うようにつくりたい。
やはりこれは、子どもたちに向けた
私の芸術的な表現ですから。
過剰にガーリーなお姫様や
暴力的なロボットをつくりたくはないんです。
だから、古いヨーロッパの文化に対する
私の興味を本に反映させることはあっても、
子どもたちの好みをマーケティング的に
反映させることはないと思います。
糸井 ああ、ぜひ、そうあってほしいです。
ウィック でも、それはお姫様やロボットを
つかわないということじゃありません。
実際、私はそういう
子どもたちが大好きな要素をつかっています。
ただ、男の子と女の子の世界が
区別されたものではなくて、
両方の要素を物語のなかで融合させるように、
そして、男の子も女の子もいっしょに
たのしめるようにしたいんです。
たとえば『タイムトラベル』のなかで、
私はいろんなものを対照させています。
過去と未来、そして、男の子と女の子‥‥。
ふたつのものを融合、行き来させるものとして、
水晶玉と宇宙船をタイムマシンのように用いています。
そうやって互いの違いを認め合う。
そして、最後のページを開くと、
じつは、男の子と女の子は、
同じ部屋で遊んでいた、というふうに。
糸井 なるほど、なるほど。
ウィック こういう本ですから、私はこの本のタイトルを、
最初、『お姫様とロボット』にしようとしていたんです。
ふたつの世界を融合させるいいタイトルだと思いました。
でも、アメリカの出版社からダメだと言われた。
タイトルに「お姫様」なんてついている本を
男の子は絶対に買わないっていうんです。
しかたなくタイトルは変えましたが、
そういう商業的なやり方は、なんというか、
生活のなかの多様性を損なうように思えるんです。
だから、私はできるだけ、それを取り戻そうとしてます。
ただし、あまり説教くさくならないように、
押しつけがましくならないようにして。
糸井 そうですね、だって、「遊び」ですからね。
ウィック そうです、そうです!
糸井 ウィックさんがおっしゃったことは、
とても大事なことだと思うんです。
『ミッケ!』は長く続いているシリーズですけど、
やっぱり、ひとりの作家の持つイメージが
ずっと続いているのが大事なことだと思うんです。
いろんな人の意見を聞くのは
もちろん大切なことだけど、
その大勢が作家になれるわけじゃない。
やっぱり、ひとりが責任を持ってやることが
とっても重要なんじゃないかなって思います。
ウィック うれしいです。そう言っていただいて。


(つづきます)
 
こんなものをつくってみました。 すごく時間があまってたらあそんでください。  ほぼにち ミッケ!
2013-02-27-WED
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