糸井 |
『ミッケ』の世界って、
明るいテーマのものもありますけど、
けっこうダークなものもありますよね。
ダークなテーマのものを、
怖がらせるんじゃなくて、
感覚的にたのしめるようにするっていうのは
なかなか苦労があるんじゃないかと思うんですけど。
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ウィック |
あの、じつは私、暗闇が怖いんですよ。
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糸井 |
そうなんですか?
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ウィック |
だって、暗闇のなかだと、
いろんなものを感じ取ることができないから。
『ミッケ!』をつくるときも、
できるだけ暗闇だけのページに
ならないように心がけています。
「このページは暗いから探すのが難しいな」
というふうにはしたくないんです。
まぁ、ときどきは雰囲気を盛り上げるために
暗闇をつかってしまうんですけど、
なるだけ暗闇はつかいたくないんです。
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糸井 |
なるほど。
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ウィック |
たとえば、シリーズのなかに
『こわーいよる(Scary Scary Night)』
という1冊があるんですが、
あれは、古くから伝わるシンプルな詩に
インスパイアされてつくったものなんですね。
「くらーいくらい 森の中に、
くらーいくらい おうちがあって
くらーいくらい おうちには、
くらーいくらい おへやがあって
くらーいくらい おへやには、
くらーいくらい とだながあって‥‥」
というものなんですが、
この詩を本の材料にしてみませんかって
出版社のほうから話があったんですけど、
「くらーいくらい(dark dark)」
っていう本にはしたくなかったんです。
それで私はそれを
「こわーいこわい(scary scary)」
に変えたんです。
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糸井 |
怖いのがイヤなんじゃなくて、
ほんとに「暗闇」がイヤなんですね(笑)。
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ウィック |
はい(笑)。
とはいえ、それぞれの場面をつくるために
暗闇はつかわざるを得なかったんですけど。
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糸井 |
そうでしたか。
『ミッケ!』にはダークな世界観もあるから
ウィックさんが暗闇を苦手だというのは
ちょっと意外でした。
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ウィック |
ダークなテーマが出てくるのは、
私が一時期、ヨーロッパのゴシックに
興味を持っていたというのもあるのかもしれません。
17世紀のヨーロッパのゴシック文化、
ドクロとかガイコツとか、あるいはお城の建築とか、
そういうものを吸収するために
私はヨーロッパで多くの時間を費やしました。
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糸井 |
あー、なるほど。
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ウィック |
そういった様々な文化と、
さきほどお話しした古くから伝わる詩を組み合わせて
『こわーいよる』はできたんです。
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糸井 |
お話をうかがっていると、
やはり、ウィックさんご自身の
作家としての個性や思いが、
本のなかに強く反映されているんだな、
ということがよくわかります。
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ウィック |
そうかもしれません。
最新刊の『タイムトラベル』にも、
私の思いのようなものが反映されているんです。
というのも、以前、
大きなオモチャ屋さんに行ったとき、
一方の棚は、ぜんぶ女の子用のオモチャで、
もう一方の棚は、ぜんぶ男の子用のオモチャが
並べられていることに気づいたんです。
オモチャ屋さんだけでなく、
玩具メーカーも、男の子用と女の子用を
はっきり区別してつくっているようでした。
でも、なんといいますか、
私は、自分がつくるお姫様は、
オモチャ屋さんに並んでいるような
「いかにも女の子っぽいもの」に
したくなかったんです。
私は、自分が思うようにつくりたい。
やはりこれは、子どもたちに向けた
私の芸術的な表現ですから。
過剰にガーリーなお姫様や
暴力的なロボットをつくりたくはないんです。
だから、古いヨーロッパの文化に対する
私の興味を本に反映させることはあっても、
子どもたちの好みをマーケティング的に
反映させることはないと思います。
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糸井 |
ああ、ぜひ、そうあってほしいです。
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ウィック |
でも、それはお姫様やロボットを
つかわないということじゃありません。
実際、私はそういう
子どもたちが大好きな要素をつかっています。
ただ、男の子と女の子の世界が
区別されたものではなくて、
両方の要素を物語のなかで融合させるように、
そして、男の子も女の子もいっしょに
たのしめるようにしたいんです。
たとえば『タイムトラベル』のなかで、
私はいろんなものを対照させています。
過去と未来、そして、男の子と女の子‥‥。
ふたつのものを融合、行き来させるものとして、
水晶玉と宇宙船をタイムマシンのように用いています。
そうやって互いの違いを認め合う。
そして、最後のページを開くと、
じつは、男の子と女の子は、
同じ部屋で遊んでいた、というふうに。
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糸井 |
なるほど、なるほど。
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ウィック |
こういう本ですから、私はこの本のタイトルを、
最初、『お姫様とロボット』にしようとしていたんです。
ふたつの世界を融合させるいいタイトルだと思いました。
でも、アメリカの出版社からダメだと言われた。
タイトルに「お姫様」なんてついている本を
男の子は絶対に買わないっていうんです。
しかたなくタイトルは変えましたが、
そういう商業的なやり方は、なんというか、
生活のなかの多様性を損なうように思えるんです。
だから、私はできるだけ、それを取り戻そうとしてます。
ただし、あまり説教くさくならないように、
押しつけがましくならないようにして。
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糸井 |
そうですね、だって、「遊び」ですからね。
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ウィック |
そうです、そうです!
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糸井 |
ウィックさんがおっしゃったことは、
とても大事なことだと思うんです。
『ミッケ!』は長く続いているシリーズですけど、
やっぱり、ひとりの作家の持つイメージが
ずっと続いているのが大事なことだと思うんです。
いろんな人の意見を聞くのは
もちろん大切なことだけど、
その大勢が作家になれるわけじゃない。
やっぱり、ひとりが責任を持ってやることが
とっても重要なんじゃないかなって思います。
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ウィック |
うれしいです。そう言っていただいて。
(つづきます) |