石井裕さんのプロフィール
MITメディアラボ 石井裕先生の研究室。
コンピューターミュージックの
ミュージシャン達は
ステージでいったい何をしているのか。

2011-05-16
このまましゃべり続けて
問題ないですか?
2011-05-11
卓球台を作ったきっかけ、
アメリカでの出発点。
2011-05-17
彼は屈折してたかもしれないけど
独創的なものを作り上げていました。
2011-05-12
チロリン村も、
ケペル先生も、通じない。

2011-05-18
あの世とこの世の
境がない。
2011-05-13
詩の世界を
科学者は追いかけるべきだ。
2011-05-19


第1回 このまましゃべり続けて 問題ないですか?

2010年の暮れ、
ボストンを訪れた糸井重里は、
チャールズリバー沿いに建つ
理系の最高峰といえる大学、
マサチューセッツ工科大学
(Massachusetts Institute of Technology
 通称MIT=エムアイティー)
のメディアラボを訪れました。



MITメディアラボは、
情報技術研究の先端を走る研究所です。



そこでは、さまざまなプロジェクトが
進行しています。
「人間とテクノロジーの協調と交流」
「人によりよい未来をもたらすための
 テクノロジーデザイン」
こうしたミッションを中心に
多くの研究が、興味深いアプローチで
くり広げられています。

なかでも、石井裕先生の研究は、
形のない情報を
実体感あるインターフェースにしてみせ、
人間とコンピュータの距離を
縮めようとしています。
さらには、あたらしい芸術活動や
コミュニケーションの形態を
生み出していく──そういうことが
プロジェクトの根幹となっています。

石井裕先生はMIT教授、
現在はMITメディアラボ副所長。
卓球が得意で、
初対面の人を相手に
いきなりマイラケットを持ち出します。
卓球の球も速いが
会話のスピードも速い。
(対談の回を追うごとに速くなります)
このコンテンツでは、対談の一部を
動画でごらんいただけますので
会話の速球感も、ぜひおたのしみください。
本文のほうは、読むスピードを
いつもの1.5倍速ぐらいにして
目で再生していただけるとちょうどかと思います。



では、石井裕先生と糸井重里の対談をはじめます。



石井 まずはざっと
我々の施設をごらんいただきましょうか。
MITメディアラボの建物がデザインされたのは
10年以上前なんですが、
そのあとドットコムバブルのバーストで
建設がフリーズしてしまって。
糸井 フリーズですか。
石井 ええ、10年間ぐらいフリーズしました。
ここはもともと
ペンペン草が生えてるような
野原だったんですが、
その後、なんとか再建しまして──で、
ごらんのとおり、
メディアラボのフロアは
階段でつながってます。



ガラス越しにいろんな部屋が見えるし、
行き来もしやすい。
隣にもビルがありますが、
そこも通路でつながっています。

で、ここがぼくの研究室。





簡単にオーバービューを
説明させていただいて
よろしいですか?
糸井 お願いします。


石井 コンピューターの情報というのは、
基本的にピクセルで表現されます。
糸井 はい。
石井 なぜかというと、
「ビジュアル」が
コンピューターの表現の
メインストリームだからです。
ビジュアルということは、
インタンジブルです。
糸井 はい。
つまり、目で見えるだけのもの?
石井 そうです。それをいかに、
直接触れて感じられる
「タンジブル」
(実態のあるもの、触れられるもの)
にするかが、我々の研究テーマです。

たとえば──我々は、よくそろばんを
モデルとして使うんですけども──
そろばんは、10進数が
フィジカルなタマでもって
表現されているため、
我々はそれに直接触れることができます。



一方で、コンピューターの表現は、
スクリーンの中にありますので、
インタンジブル‥‥すなわち、実体がない。
リモートコントローラとしての
マウス、キーボードを介してでなければ、
操作できません。
糸井 直接は触れられない。
石井 そうです。
それをいかに超えるかが、
我々の研究テーマのひとつなんです。
糸井さん、どうぞこれに
さわってください。


糸井 はい。
石井 ちょっと回していただけますか?
糸井 こう、回す‥‥?
石井 例えば、このふたつの棒が
東京とボストンにあったと考えてみましょう。
糸井さんが棒を回すと、ハイ、
この動きがこちらにも。


糸井 ホントだ、
石井先生が動かすとこっちも動く。
石井 電話では声が伝わりますが、
これは動きが伝わります。
伝わるだけじゃなくて、
向こうから同時に押し返すこともできる。
ぼくがこうしてナーバスな動きをすると‥‥
糸井 あ、感じます、感じます。
うわ、長い棒の端と端を持って
話してるみたい。
石井 触覚で同時にコミュニケーションしている。
これは
「世界に同じものが複数あって、
 それが同期されてる」
というコンセプトを実現した作品です。
糸井 はい、はいはい、なるほど。
石井 電話で家族と話すとき、
「ちょっと疲れてるのかな?
 怒ってるのかな?」
ということがわかります。
それと同じように、相手のニュアンスが
触覚でもって伝わります。
これはね、
「信号送りながら受信してる」んですよ。
糸井 あぁ、そうか。
石井 同時に双方向で
信号を送ることができて、
それを自然に受け止めることができる。
糸井 あっちからも「してる」ということを感じながら
ぼくも押してるわけですね。
石井 そうです。
触る電話という、そんな感じですね。
糸井 セクシーだなぁ!

石井 まぁ、そうですね。
たいてい、おじさんは
そういうこと考えますね。
一同 (笑)
糸井 これは、
好きな人とやったら、
たまんないんじゃないでしょうか。

石井 そういうことです。
では、次です。
糸井 次‥‥あ、これ、
見たことあるやつだ。


石井 これは「ミュージックボトル」です。
ボトルの蓋を
開けてみてください。
糸井 音楽が。

石井 蓋を開けると音楽が流れる、
閉じると音楽が止まります。
このアイデアは
われわれ人類が何千年も使っている
ボトルというもののアフォーダンスを
デジタルの世界にエクステンドするものです。
‥‥いやあの、
英語の羅列ばっかりですみません。
糸井 いえいえ。
石井 日本を離れて16年、
日本語をすっかり忘れてしまって。
糸井 いやいや(笑)。
石井 webで、ぼくの日本語の講演を
お聞きになるとわかりますけど、
英単語ばかりです。
接続詞だけ日本語で、
ほとんど意味不明って感じです。
糸井 そうなんですか。
石井 ええ、意味不明です。
でね?
糸井 はい。
石井 「ミュージックボトル」は
非常にシンプルなメタファーです。
ガラス瓶を使うことによって、
蓋の開閉の動きがわかりやすくなります。
この応用のひとつが、
メディケーション(投薬)です。

歳をとると
いろんな薬を飲まなきゃいけないけど、
どの薬を飲んだか
覚えられないでしょう。

この「ミュージックボトル」の原理を
薬瓶に応用すると
薬の瓶の開け閉めをトラッキングできます。
それをホームサーバーから
病院や薬局に送ることによって、
服用のパターンを管理したり、
リフィルのタイミングを
患者さんに知らせたりできます。

実際、薬って、
お医者さんで処方してもらっても
その50%は飲まないとも言われています。
その状態ではお金が無駄だし、また、
より病気が悪化したりする。
糸井 そういう問題に応用できるということですね。
これは、とにかくスイッチを
「瓶の開け閉め」に変えただけ、
ということでしょうか。
石井 そう、それだけです。
非常にミニマルなデザインです。
オープニングとクロージングが
プレイとミュートの機能になっている、
ただそれだけ。

糸井 先生の作られるものって、
コンセプトが先なんですか?
それとも、
「スイッチが変えられるんだ」
というような
技術的なことが先なんですか?
石井 たいていの場合、コンセプトが先です。
ぼくのアイデアは基本的に、
コンセプト駆動です。

ぼくらは何千年も
香水を入れたり、水を入れたりして
ボトルをコンテナとして使っています。
そういった、ぼくらの知ってる
なつかしいものたちを
どういうふうに使えるかを考えて
アイデアを発展させていくのです。



例えば、この中に
物語を読んでくれる
『アラジン』のジーニーのようなものがいて、
蓋をはずすと物語がはじまる。
あるいは、糸井さんの瓶があったとすれば、
糸井さんがぶつぶつつぶやきはじめる。
そこにブッシュ元大統領を持ってきて、開ける。
そうするとダイアログがはじまったり、
そういう広がりも考えられます。
‥‥あの、このまましゃべり続けて
問題ないですか?
糸井 いやいや、どうぞどうぞ、お願いします。



(つづきます。動画もどうぞ)



2011-05-11-WED

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