石井 |
まずはざっと
我々の施設をごらんいただきましょうか。
MITメディアラボの建物がデザインされたのは
10年以上前なんですが、
そのあとドットコムバブルのバーストで
建設がフリーズしてしまって。 |
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糸井 |
フリーズですか。
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石井 |
ええ、10年間ぐらいフリーズしました。
ここはもともと
ペンペン草が生えてるような
野原だったんですが、
その後、なんとか再建しまして──で、
ごらんのとおり、
メディアラボのフロアは
階段でつながってます。
ガラス越しにいろんな部屋が見えるし、
行き来もしやすい。
隣にもビルがありますが、
そこも通路でつながっています。
で、ここがぼくの研究室。
簡単にオーバービューを
説明させていただいて
よろしいですか?
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糸井 |
お願いします。
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石井 |
コンピューターの情報というのは、
基本的にピクセルで表現されます。
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糸井 |
はい。
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石井 |
なぜかというと、
「ビジュアル」が
コンピューターの表現の
メインストリームだからです。
ビジュアルということは、
インタンジブルです。
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糸井 |
はい。
つまり、目で見えるだけのもの?
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石井 |
そうです。それをいかに、
直接触れて感じられる
「タンジブル」
(実態のあるもの、触れられるもの)
にするかが、我々の研究テーマです。
たとえば──我々は、よくそろばんを
モデルとして使うんですけども──
そろばんは、10進数が
フィジカルなタマでもって
表現されているため、
我々はそれに直接触れることができます。
一方で、コンピューターの表現は、
スクリーンの中にありますので、
インタンジブル‥‥すなわち、実体がない。
リモートコントローラとしての
マウス、キーボードを介してでなければ、
操作できません。
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糸井 |
直接は触れられない。
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石井 |
そうです。
それをいかに超えるかが、
我々の研究テーマのひとつなんです。
糸井さん、どうぞこれに
さわってください。
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糸井 |
はい。
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石井 |
ちょっと回していただけますか?
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糸井 |
こう、回す‥‥?
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石井 |
例えば、このふたつの棒が
東京とボストンにあったと考えてみましょう。
糸井さんが棒を回すと、ハイ、
この動きがこちらにも。
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糸井 |
ホントだ、
石井先生が動かすとこっちも動く。
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石井 |
電話では声が伝わりますが、
これは動きが伝わります。
伝わるだけじゃなくて、
向こうから同時に押し返すこともできる。
ぼくがこうしてナーバスな動きをすると‥‥
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糸井 |
あ、感じます、感じます。
うわ、長い棒の端と端を持って
話してるみたい。
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石井 |
触覚で同時にコミュニケーションしている。
これは
「世界に同じものが複数あって、
それが同期されてる」
というコンセプトを実現した作品です。
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糸井 |
はい、はいはい、なるほど。
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石井 |
電話で家族と話すとき、
「ちょっと疲れてるのかな?
怒ってるのかな?」
ということがわかります。
それと同じように、相手のニュアンスが
触覚でもって伝わります。
これはね、
「信号送りながら受信してる」んですよ。
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糸井 |
あぁ、そうか。
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石井 |
同時に双方向で
信号を送ることができて、
それを自然に受け止めることができる。
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糸井 |
あっちからも「してる」ということを感じながら
ぼくも押してるわけですね。
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石井 |
そうです。
触る電話という、そんな感じですね。
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糸井 |
セクシーだなぁ!
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石井 |
まぁ、そうですね。
たいてい、おじさんは
そういうこと考えますね。
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一同 |
(笑)
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糸井 |
これは、
好きな人とやったら、
たまんないんじゃないでしょうか。
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石井 |
そういうことです。
では、次です。
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糸井 |
次‥‥あ、これ、
見たことあるやつだ。
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石井 |
これは「ミュージックボトル」です。
ボトルの蓋を
開けてみてください。
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糸井 |
音楽が。
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石井 |
蓋を開けると音楽が流れる、
閉じると音楽が止まります。
このアイデアは
われわれ人類が何千年も使っている
ボトルというもののアフォーダンスを
デジタルの世界にエクステンドするものです。
‥‥いやあの、
英語の羅列ばっかりですみません。
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糸井 |
いえいえ。
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石井 |
日本を離れて16年、
日本語をすっかり忘れてしまって。
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糸井 |
いやいや(笑)。
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石井 |
webで、ぼくの日本語の講演を
お聞きになるとわかりますけど、
英単語ばかりです。
接続詞だけ日本語で、
ほとんど意味不明って感じです。
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糸井 |
そうなんですか。
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石井 |
ええ、意味不明です。
でね?
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糸井 |
はい。
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石井 |
「ミュージックボトル」は
非常にシンプルなメタファーです。
ガラス瓶を使うことによって、
蓋の開閉の動きがわかりやすくなります。
この応用のひとつが、
メディケーション(投薬)です。
歳をとると
いろんな薬を飲まなきゃいけないけど、
どの薬を飲んだか
覚えられないでしょう。
この「ミュージックボトル」の原理を
薬瓶に応用すると
薬の瓶の開け閉めをトラッキングできます。
それをホームサーバーから
病院や薬局に送ることによって、
服用のパターンを管理したり、
リフィルのタイミングを
患者さんに知らせたりできます。
実際、薬って、
お医者さんで処方してもらっても
その50%は飲まないとも言われています。
その状態ではお金が無駄だし、また、
より病気が悪化したりする。
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糸井 |
そういう問題に応用できるということですね。
これは、とにかくスイッチを
「瓶の開け閉め」に変えただけ、
ということでしょうか。
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石井 |
そう、それだけです。
非常にミニマルなデザインです。
オープニングとクロージングが
プレイとミュートの機能になっている、
ただそれだけ。
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糸井 |
先生の作られるものって、
コンセプトが先なんですか?
それとも、
「スイッチが変えられるんだ」
というような
技術的なことが先なんですか?
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石井 |
たいていの場合、コンセプトが先です。
ぼくのアイデアは基本的に、
コンセプト駆動です。
ぼくらは何千年も
香水を入れたり、水を入れたりして
ボトルをコンテナとして使っています。
そういった、ぼくらの知ってる
なつかしいものたちを
どういうふうに使えるかを考えて
アイデアを発展させていくのです。
例えば、この中に
物語を読んでくれる
『アラジン』のジーニーのようなものがいて、
蓋をはずすと物語がはじまる。
あるいは、糸井さんの瓶があったとすれば、
糸井さんがぶつぶつつぶやきはじめる。
そこにブッシュ元大統領を持ってきて、開ける。
そうするとダイアログがはじまったり、
そういう広がりも考えられます。
‥‥あの、このまましゃべり続けて
問題ないですか?
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糸井 |
いやいや、どうぞどうぞ、お願いします。
(つづきます。動画もどうぞ)
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