台北に移住して十数年、
台湾で出版した本がベストセラーになったり、
台湾のテレビ局で番組を持ったりと、
一貫して大好きな台湾のことを
日本に紹介しつづけている、青木由香さん。
「ほぼ日」も台湾特集のとき、
ずいぶんお世話になりました。
青木由香さんのつくるガイドブックや
雑誌の台湾特集を持っていけば、
旅のたのしさは約束されたも同然。
朝から晩までおいしいものを食べ続けられるし、
かわいい日用品、食材にお茶にお菓子まで
おみやげのチョイスにも間違いがありません。
台湾の現地の空気を
ぞんぶんに味わうことができるけど、
決していきすぎることなく、本当にちょうどよく
台湾を楽しむ旅が体験できるのです。
そしてすぐにまた台湾に行きたくなるという。
そんな青木さんが台湾の今がみえる
「まど」を作ってくれました。
台湾にこれから行こうと思っている初心者の方も、
何度も台湾にいったベテランの人も、
どうぞ青木さんのまどべにお集まりを。

>青木由香さん プロフィール

青木由香(あおきゆか)

神奈川県生まれ。
多摩美術大学を卒業後、世界各国を旅行。
2003年に台北で語学を学ぶとともに、
写真、墨絵などの制作をはじめる。
2005年には、台湾の出版社より
日本人の目から見た台湾の面白さを書いた
『奇怪ねー台湾』を出版し、ベストセラーに。
2008年には、ビデオブログの『台湾一人観光局』が
台湾でテレビ化され人気を博して、
日本人としてはじめて、
台湾のTV賞の最優秀総合司会部門に
ノミネートされた経験も。
現在は、台湾と日本を行き来しながら、
取材や視察のコーディネートなど、
さまざまなメディアに台湾を紹介する仕事をしている。
2015年には、
台北市にアートギャラリー
「你好我好(ニーハオウーハオ)」をオープン。

SNS
facebook:你好我好
facebook:青木由香

著作
奇怪ねー台湾
台湾 ニイハオノート
好好台湾 (MARBLE BOOKS)
最好的台湾
台湾のきほん 不思議の島のゆるガイド
おもしろがりタイ! 癒やされタイ! 幸せ大国 タイ王国

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台湾メディアに沖縄のホテルを。

 
台湾でコーディネーターをやっていると
いろんなお話をいただきます。
日本に台湾を紹介、ではなく、
「台湾に日本を紹介する」という仕事も。
 
うちなんちゅ(沖縄出身者)である旦那の古い友人が
沖縄・古宇利島のホテルのニューオープンに携わっていて
「台湾の方にも知ってもらいたい」
とご連絡をいただいたのが始まり。
宿泊して、記事を上げてくれる台湾のメディアを
お繋ぎするミッションをいただきました。
 
ホテルの名前は、「YAWN YARD」
直訳すると「あくびの庭」。
で、コンセプトは「泊まれる庭」。
お話をいただいた頃はまだ建設中で、
この2024年9月から正式オープンの施設です。
 
当然、建物やお部屋の写真がまだない。
そんな未知の場所へ
台湾のメディアをお迎えするのですが、
「YAWN YARD」のインスタを見ると
素敵さがダダ漏れしている。
「この感じに合いそうな、素敵な人たちに
見てもらえるところにせねば!」と、
数あげてリーチ数を稼ぐインフルエンサーではなく、
体験を自分の言葉にしてくれる品のいい若いママと
質のいいカルチャー系WEBメディアを探しました。
アプローチ後、第一希望の方たちが
お受けしてくれることになり、一安心。
私も試泊のお招きを受け、下見を兼ねて、
家族で滞在させていただきました。

「YAWN YARD」のホームページにあるイラスト。行く前は完成図の写真はないので、これを見て勝手にキャンプ場をイメージし、勝手に犬だと思っていたのがテーブルだった‥‥というポンコツな私の想像力。 「YAWN YARD」のホームページにあるイラスト。行く前は完成図の写真はないので、これを見て勝手にキャンプ場をイメージし、勝手に犬だと思っていたのがテーブルだった‥‥というポンコツな私の想像力。

 
沖縄北部にある古宇利島は、
橋でつながる小さな離島です。

古宇利島側から見た、島にかかる橋。周囲7.9メートル。車で一周ぐるっとしても15分。人口400人ほどの小さい島。 古宇利島側から見た、島にかかる橋。周囲7.9メートル。車で一周ぐるっとしても15分。人口400人ほどの小さい島。

 
畑、海、田舎の沖縄の風景の素朴な島。
最近は良さげなレストランもいくつかできてきて、
沖縄の友人たちの話だと、
ちょっといい感じになってきているのだとか。

トケイ浜。すごい遠浅の海には、大きな熱帯魚が人間に脅えもせず泳いでいる。サンゴや岩が痛いので、マリンシューズは必須。 トケイ浜。すごい遠浅の海には、大きな熱帯魚が人間に脅えもせず泳いでいる。サンゴや岩が痛いので、マリンシューズは必須。

 
空港から車で2時間弱。
長い橋を渡り、島の坂を少し走ると、
道路沿いに木造の建物が見えてくる。
その建物にスチールの棒を曲げて作った
英文?がついていて、よく見ると下の方に
「YAWN YARD」の字を発見。
目立つように看板をつけまくる台湾から見たら、
これは、まさに「很低調」です。
「很低調」は、「非常に控えめ」の意味。
おしゃれで、意識高い文化系台湾人には
この「很低調」の矢は、高得点に刺さります。

全く主張する気なし!(2024年8月現在)フロント棟のワイヤーの英字を凝視して初めて「ん? ここか!」とわからせる程度の承認欲求。「商売する気あるのか?」と思われる「低調」ぶり。 全く主張する気なし!(2024年8月現在)フロント棟のワイヤーの英字を凝視して初めて「ん? ここか!」とわからせる程度の承認欲求。「商売する気あるのか?」と思われる「低調」ぶり。

 
中に入れてもらうと、木のいい香り~。
台湾人が、大好きな檜です。
台湾檜とは種類が違うのか、少し違う香りに感じます。
そして目に飛び込んでくる、
なにかの作品? 部屋の中に石が!

このあたりで採石された琉球石灰岩を、那覇で加工。つまりは、巨大な石をわざわざ運んで持って行って、わざわざ持って帰ってきている。こんな話が、台湾メディアの好物。台湾の人に鼻息荒く語ってほしいネタ。 このあたりで採石された琉球石灰岩を、那覇で加工。つまりは、巨大な石をわざわざ運んで持って行って、わざわざ持って帰ってきている。こんな話が、台湾メディアの好物。台湾の人に鼻息荒く語ってほしいネタ。

部屋の表面全部が、檜。強く香るでもなく心地よい。冷蔵庫、金庫、クローゼット、バーは全て檜の向こう。 部屋の表面全部が、檜。強く香るでもなく心地よい。冷蔵庫、金庫、クローゼット、バーは全て檜の向こう。

 
この石、平たく言うとウォーターサーバー。
水道が付いていて、浄水されたお水しか出ません。
呼吸するように水をじゃぶじゃぶ飲む飲む台湾人には、
飲料水不足の心配がないのは嬉しいこと。
おしゃれ&実用性に衝撃を喰らうでしょう。

お部屋でささーっとウェルカムティーを入れてくれました。名護で肥料を発酵するところから茶葉を育て、製茶もする「金川製茶」の紅茶。お菓子は、琉球伝統菓子の薫餅(くんぺん)をアレンジした「クンペンモダン」。 お部屋でささーっとウェルカムティーを入れてくれました。名護で肥料を発酵するところから茶葉を育て、製茶もする「金川製茶」の紅茶。お菓子は、琉球伝統菓子の薫餅(くんぺん)をアレンジした「クンペンモダン」。

 
ふたつの部屋があって、ホテルというより、
「2棟1セットのヴィラ」と言ったほうが
わかりやすいかも。
ウェルカムティーをいただいた部屋から
もうひとつの部屋に行くには、一回外に出る。
キター! 庭だ!

 
寝室の部分などは畳になっているけれど、
それ以外の空間は、土間のような作り。
扉は開け切ると、壁にすっきり仕舞われて、
土間がそのまま外と一体化。
庭と室内の境がなくなります。
扉を全開にしてみて「お、泊まれる庭!」と、
やっとコンセプトの意味がわかった。
庭の先にはプール。その向こうに海。泣ける。

プールつきお庭と第二のお部屋。扉を開け放つと海が見渡せる。プールサイドに泊まるような感じ。 プールつきお庭と第二のお部屋。扉を開け放つと海が見渡せる。プールサイドに泊まるような感じ。

椅子も、沖縄の家具工房との合作。テーブルも首里城カラーの弁柄色。裏庭の玉砂利も沖縄バージョン。(右の写真で小さく映る変顔の息子がのぞいているところが、第一の部屋の畳スペースの小窓。プールと反対側から見た図) 椅子も、沖縄の家具工房との合作。テーブルも首里城カラーの弁柄色。裏庭の玉砂利も沖縄バージョン。(右の写真で小さく映る変顔の息子がのぞいているところが、第一の部屋の畳スペースの小窓。プールと反対側から見た図)

 
第二のお部屋のほうは、浴室と寝室があり、
寝室には、庭側から目隠しになるよう障子がある。
大開放にも節度をわきまえている心地良さ。

第二の部屋の寝室も畳。 第二の部屋の寝室も畳。

 
畳は、正方形ではないけど、
太くて強いイグサを使った、
畳縁なしの琉球畳。
外国のお客様にはこういった畳の違いなど、
散りばめられた琉球文化を
強くアピりたいではないですか。
障子もあるけれど、台湾のちびっ子に
穴を開けられませんように。
「穴開けたらたらタダじゃすまねぇ」
とか書けないのが、
おしゃれサービス業の辛いところ。
「穴あけたらキジムナーが怒る」と
言ってみるとか?
キジムナーは、髪の赤い沖縄の妖怪?座敷童?
ちなみに私は最近、
白髪隠しに髪を赤くしているので、
家族にキジムナーと呼ばれている。

プールサイドと繋がるソファスペースも土間風。テレビはなくて、海に浮かぶ船を見たり、流れる雲を見たり。 プールサイドと繋がるソファスペースも土間風。テレビはなくて、海に浮かぶ船を見たり、流れる雲を見たり。

シャワーの向こうが露天の湯船。その向こうがプール。プールで身体が冷えたらそのままお湯をためて入れるので、プールと露天を行って帰ってのエンドレス。アメニティーは、ご近所の今帰仁村で有機栽培のハイビスカスと月桃を使ったプランド「ゆめじん」。ナチュラルな優しい使い心地。大好きな月桃の香りでした。  シャワーの向こうが露天の湯船。その向こうがプール。プールで身体が冷えたらそのままお湯をためて入れるので、プールと露天を行って帰ってのエンドレス。アメニティーは、ご近所の今帰仁村で有機栽培のハイビスカスと月桃を使ったプランド「ゆめじん」。ナチュラルな優しい使い心地。大好きな月桃の香りでした。 

 
そういえば、台湾のホテルのプレスって、
資料がガッツリ用意されているけど、
毎度、詩みたいな文で書かれている。
何が言いたいのかわからないヤツです。
そして、大体、ミニのタイトスカートの
ヒールを履いた女性が広報で、
自信たっぷりに、あらゆるものを自慢してくる。
詩の資料の言わんとする真髄を聞けないで、
いつも終わる。

以前取材した台湾の高級リゾートホテルのスパのメニューの説明文。頑張って日本語の資料を用意してくれたが、もちろん、ポエティック。「春」の「こそこそ」を直してあげたかったが、春がどう来たことにしたいのか? わからなくて直せず。 以前取材した台湾の高級リゾートホテルのスパのメニューの説明文。頑張って日本語の資料を用意してくれたが、もちろん、ポエティック。「春」の「こそこそ」を直してあげたかったが、春がどう来たことにしたいのか? わからなくて直せず。

 
取材する側に仕事した感は与えてくれるが、
取材者が何かを感じて書く隙間を
与えないのが台湾の広報。
一方、こちらのYAWAN YARDは
「泊まって、感じてください」のスタンス。
台湾メディアは大量に説明があることに
慣れちゃっているので、台湾から行く人たちは、
いわゆるメディアツアーみたいに
スケジュールがびっちりだと思っているし、
資料がないと書きにくそう。
なんなら、資料丸写しのメディアもあるくらいだし…。
この溝をどう埋めるかも、私の仕事。
ホテルの方に、いろいろお願いして
近隣の資料を作ってもらったり、
「お部屋にご案内するとき、しつこいくらい
自慢しまくってください」
と、自慢事項をお伝えさせてもらいました。
 
「YAWN YARD」については
建物だけでなく、食のこだわりも
特筆したいところ。
食いしん坊な台湾人には重要な部分です。
 
近隣で採れた食材を使った、
沖縄の伝統食をおしゃれに
アレンジした料理が出てきます。
朝晩、海を見ながら外でいただけるので
夕食の日の入り時間に合わせると、
一生の思い出に。

お部屋のカードの表には、その日の天気と日の入り時間が。 お部屋のカードの表には、その日の天気と日の入り時間が。

 
毎食、お重がお部屋に運ばれてきます。
これが和にも洋にも合うし、漆より扱いも楽そう。
持ち運びもあるので、軽く、丈夫にと
制作工房と相談して作ったそうです。
私は売ってほしいと思い、
「売る気はないのか?」と迫りましたが
台湾人も絶対思うはずです。

漆より手入れが楽で軽い。「和」な感じとは違う、飽きの来ないシンプルなデザイン。朝のパンも、鍋の具も、なんでもしっくりくる。 漆より手入れが楽で軽い。「和」な感じとは違う、飽きの来ないシンプルなデザイン。朝のパンも、鍋の具も、なんでもしっくりくる。

透明なオーブンシートに入った沖縄版アクアパッツァが、肉とかと一緒に重箱で運ばれてきて、シャレたホットプレートでぶくぶく温めていただく、とか。前菜を取り出した箱の底にアクリル板が敷かれていて、月桃の葉の上に花草がある、とか。 透明なオーブンシートに入った沖縄版アクアパッツァが、肉とかと一緒に重箱で運ばれてきて、シャレたホットプレートでぶくぶく温めていただく、とか。前菜を取り出した箱の底にアクリル板が敷かれていて、月桃の葉の上に花草がある、とか。

朝のメニュー。ベジタリアンの多い台湾人に嬉しい、琉球版ヴィーガン料理もあります。料理の考案は、全てFood Design Lab 傳饗(でんきょう)のシェフ、上江田崇さん。 朝のメニュー。ベジタリアンの多い台湾人に嬉しい、琉球版ヴィーガン料理もあります。料理の考案は、全てFood Design Lab 傳饗(でんきょう)のシェフ、上江田崇さん。

 
大人はお酒を飲みながら、プールサイドで
ゆっくりごはんをいただく。
と、食べ終わった子供がプールにドボン。

テレビ、携帯、ゲームいらず。これも良い。 テレビ、携帯、ゲームいらず。これも良い。

 
いまは台湾から沖縄に行く人が多すぎて、
台湾発の航空券のほうが高いのですが、
それでも、台湾人の日本贔屓は止みません。
台湾人のほうが日本の遊び方を知ってるし、
日本のあらゆる素敵なところを網羅している
台湾の日本推しインフルエンサーさんに
どう反応されるか、気になるところでしたが、
とっても喜んでいただけました。

若いママ、IReneのインスタ。今はお子さんの教育のため日本在住。日本でも本を出版しているので、信頼度とフォロワーの質が違う。 若いママ、IReneのインスタ。今はお子さんの教育のため日本在住。日本でも本を出版しているので、信頼度とフォロワーの質が違う。

 
こんなちょっと珍しい良いところを
台湾の人におすすめできて、
私もタイトスカートのプレスくらい自慢気です
(日頃ゴムパンばかりですが)。
台湾の人たち、来てくれるといいなぁ。
効果を期待しています。

2024-09-05-THU

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