「うれしい日はみんなでごはんだ!」
と題して、おいしいごはんをたのしんだ
ほぼ日26回目の創刊記念日。
スペシャルゲストにおよびして、
特別な料理をふるまってくださったのが、
南青山の中華風家庭料理「ふーみん」の
お母さん、斉風瑞(さい・ふうみ)さんです。
かつて事務所とお店が近かったことから、
多くの乗組員が愛用していたお店。
東日本大震災が起こった日に、
ふーみんでごはんを食べさせてもらったという
忘れられないご縁がある、
ほぼ日にとって大事な場所でもあります。
料理をたのしんだあと
すこしばかりお時間をいただいて、お話を聞きました。

>斉風瑞さんプロフィール

斉風瑞(さい・ふうみ)

東京・表参道の『中華風家庭料理 ふーみん』オーナーシェフとして45年間厨房に立った後、70歳をきっかけに勇退。21年に1日1組限定のダイニング『斉』をオープン。著書に『ふーみんさんの台湾50年レシピ』(小学館)などがある。

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04 お客も作っている店。

糸井
メニューを見ていると
長年人気のものもあるし、
ちょっと新しいものもあるし、
いろいろ工夫されてますよね。
メニューのおおもとは、どこなんですか?
斉風瑞
おおもとは神宮前からのものですね。
ただ、自分で考えたレシピは、
ハガキ大に書ききれるくらいの
量しかなかったんです。
糸井
でも、自分で考えたものですもんね。
お料理はお好きだったんですか。
斉風瑞
母が仕事で多忙だったものですから、
5人兄弟の長女でしたし、
家で家族に料理を作っていたんです。
糸井
だから、家庭で家族に食べさせてあげたい、
という気持ちがお母さんの料理にはあるんですね。
斉風瑞
ああ、そうですね。
なので、神宮前は“素人料理”同然でしたよ(笑)。
最初の頃は、夜遅くまで働く方から、
『今日はこんなものを食べたい』と
リクエストをいただいて作ることもありました。
糸井
お客さんも楽しみだったんでしょうね、
夜にふーみんに行くのが。
斉風瑞
お客さまと食べ物談義になることもあって、
「納豆のおいしい食べ方知ってる?」
なんて言われたんです。
「肉と炒めるとおいしいらしいよ」と。
糸井
うわさみたいなものが回ってきて(笑)。
斉風瑞
そう、そう。

糸井
おおもとは台湾の家庭料理が
基礎にあるんだと思いますけど、
納豆を食べる習慣は台湾にないですよね。
斉風瑞
ないです。
台湾で、納豆の料理は見たことなかったですね。
糸井
お母さんは納豆が好きだった?
斉風瑞
いえ、食べず嫌いでした。
でも、当時はメニューの数が少ししかなかったから、
「おいしい」とうわさを聞きつけたら
耳をダンボにして「どうやって作るんですか」
とお客さまに聞いていたんです。
糸井
苦手なメニューだとしても。
斉風瑞
なんでもおいしくしたいので、
工夫することは好きなんです。
あと、気持ちとしては、新しいおいしいものを作りたい、
という思いでいっぱいで。
「納豆は肉と炒めるとおいしいらしい」と言うから、
「どんなメニューですか」、と聞いたんです。
でも、その方は作り方はご存じなかったんです。
糸井
ほう。
斉風瑞
それで、ちょっと自分で閃いたのは、
ひき肉と炒めたらどうかなって思って。
台湾で鳩のひき肉を炒めて
レタスで包んで食べる料理があるんですね。
なので、ひき肉と炒めてみたら、おいしかった。
糸井
今の原型ですね。
斉風瑞
そしたらお客さまが、
「これを白いごはんにかけてみて」とおっしゃったの。
それで召し上がったお客さまが、
「うん、これはおいしい、メニューに入れよう」って。
糸井
お客さんが決めてる(笑)。
斉風瑞
そんな感じだったんです。

糸井
じゃあ、お客さんと何を食べたいのか、
やりとりしながらメニューができていったんですか。
斉風瑞
お客さまと一緒に生まれたメニューが多いですね。
糸井
今日いただいたねぎワンタンも。
斉風瑞
あれも、和田先生がねぎそばを召し上がりながら、
「これにワンタンをいれたらどうかな」と
ポツリとおっしゃったのを、
私は聞き逃さなかったんです。
糸井
さすがですねえ。
最初からあったメニューはどれですか?
斉風瑞
ふーみんそばはありました。
ふーみんそばと、ねぎそばと、
五目うま煮そばぐらいあったかな、
私の好きなものだけです。
それから、ナスのニンニク炒めは、
我が家の定番料理だったので、それもありました。
でも、そんな少しのメニューから始まったんです。
糸井
それでよくお客がつきましたね。
斉風瑞
ほんと(笑)。
糸井
お客さんに言われて、すぐに作れるものですか。
斉風瑞
覚えているのが、お客さまに
「チャーハン作らないの?」って言われて、
「ああ、作りましょうか」って答えたんです。
ずうずうしくね。
だって、チャーハン作ったことないのに。
糸井
えっ。

斉風瑞
びっくりでしょう。
作ったことがなくてもリクエストをいただいたら、
「作りましょうか」って言って作っていました。
もう、若さですね。
今にして思えば、とても恐ろしいです。
糸井
お母さんは20代ですもんね。
斉風瑞
そう。25歳だったの。
糸井
かっこいい!
斉風瑞
いやいや。
糸井
25歳でチャーハン作ったことないのに
「作りましょうか」。
斉風瑞
そう。
一同
(笑)
糸井
それでうまくいってたってことですもんね。
斉風瑞
だから、そういう意味でも、
陰ながらお客さまが、
応援してくださったんじゃないかなって思いますね。
糸井
まるで、お客さんも作ってる店みたいですね。
斉風瑞
おっしゃるとおりです。
糸井
今みたいになりたいと思ってた、というより、
なっちゃったんですね。
斉風瑞
そうですね。

(つづきます。)

2024-07-07-SUN

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  • ドキュメンタリー映画『キッチンから花束を』

    Photography:Wakagi Shingo、ⒸEight Pictures

    斉風瑞さんと「ふーみん」を
    3年半にわたり追い続けた
    ドキュメンタリー映画
    『キッチンから花束を』が
    現在、全国の劇場で公開中です。
    ふーみん50周年をきっかけに
    撮影がはじめられた本作。
    「ふーみん」の歴史と
    50年にわたって愛される理由、
    なによりねぎワンタン、納豆チャーハン、
    豚肉の梅干し煮、豆腐そば……
    など“おいしい”がギュッと
    つめこまれている作品です。
    また、ふーみんママをとりまく人々との
    あたたかいやり取りにも、
    やさしい気持ちになれる映画です。
    ぜひ、劇場でご覧ください。

    監督 菊池久志
    語り 井川遥
    劇場情報はこちら

    Photography:Wakagi Shingo、ⒸEight Pictures