日本全国の美術館・博物館の
コレクションを見に行くシリーズ第14弾は、
続・東京都現代美術館。
前回の訪問時、時間が足りなくて
全フロアを拝見できなかったので、
「もう一回!」取材させていただきました。
「歩く、赴く、移動する」というテーマの
1階のコレクション展を
前回とおなじく水田有子さんが、
3階の特集「横尾忠則―水のように」を
藤井亜紀さんが、
やさしくおもしろく教えてくださいました。
担当は「ほぼ日」奥野です。どうぞ。
- 水田
- このあたりは、ワタリドリ計画という
麻生知子さんと武内明子さんの
二人の作家のユニットによる作品です。
渡り鳥って、暖かい場所や餌を求めて
移動していきますよね。
同じようにワタリドリ計画のおふたりも
日本各地へ出向いて、
いろんなものを見たり、
おいしいものを食べたりしていまして。
- ──
- おお、すばらしい。
その「渡り鳥活動」を作品化している。
- 水田
- そうなんです。
各地での出会いや体験から作品をつくって、
その地で展示を行うというプロジェクトです。
こちらは「旅の手彩色絵葉書」という、
学生時代の課題からはじまって、
いまも続けているシリーズです。
モノクロ、セルフタイマーで撮影した
土地土地の写真に、
油彩で手彩色をしています。
写真の上に絵の具を重ねることで、
街に流れる時間の重なりも感じますね。
- ──
- リヒターにも写真と絵を組み合わせた
フォトペインティングがあるし、
ソール・ライターも
写真に絵の具を重ねていましたけれど、
ちょっと独特の感じになりますよね。
- 水田
- この色合いに
どこかノスタルジーのようなものも感じます。 - マスクをしている姿が写っていますが、
コロナ禍の2020年に、
ワタリドリ計画のおふたりが
ここ清澄白河に降り立って
絵画や木彫、陶作品や映像など、
本当にたくさんの作品を残していってくれました。
- ──
- はい。
- 水田
- こちらは、光島貴之さんという、
10歳のときに全盲になられた作家さんです。 - 木の板に釘や鋲などを打ってつくられた、
手で触れることができる作品で、
清澄白河の駅から東京都現代美美術館まで
歩いた経験、
そのときに受けた感覚や体験などを
作品にしていて。
- ──
- いいんですか、触って。
- 水田
- はい、ぜひぜひ触ってみてください。
- 手の感触から
いろいろな光景が浮かんでくるでしょうか。
この細い釘のラインは、
光島さんが歩いた軌跡を表していたり、
このあたりは、
清澄庭園で鳥が飛び立つようすが
表現されていたりするそうなんですよ。
- ──
- へええ、おもしろい!
Vの字になっていて、鳥の群れみたい。 - こんなふうに聞こえたのかなあ。
- 水田
- 聴覚や触感、嗅覚、
さらには天井の低いところでは
何だかちょっと圧迫感を感じるという
「対物知覚」などで認識した風景、
光島さんの体験した
「清澄白河」が作品化されています。
- ──
- 釘の軌跡を指で追うことで、
光島さんの歩みをたどれるようですね。
- 水田
- このくるくるした太い釘のラインは、
近くを通り過ぎて
光島さんがビックリしたという
「自転車の動き」を表していたりとか。
- ──
- 本当に、視覚以外の感覚を、
フルに動員している感じがありますね。 - こういうようなことって
自分も日々感じているんでしょうけど、
こうして、目の見えない光島さんに
可視化してもらうと、
じつは、ぼくらも
いろんな感覚を受けてるんだよなあと、
いまさらながら思ったり。
- 水田
- 本当に。
- ──
- 渋谷区松濤に「ギャラリーTOМ」という、
手で触れられたりして、
視覚障害者でも美術を鑑賞できるという
コンセプトの
ギャラリーがあるじゃないですか。
そこで、盲学校の生徒さんがつくった
彫刻作品を見たんです。
「夜鷹」というタイトルの作品なんて、
もう、まさしく夜鷹なんです。
- 水田
- たくさんのセンサーを使って、
視覚中心に生きている人とは
またちがった認識や体験の仕方で、
対象を把握なさっているんでしょうね。 - 光島さんの作品もそうですが、
気づかされることがとっても多いです。
- ──
- ほんとですね。
- 水田
- そして、こちらはリチャード・ロング。
イギリスの作家で、
「歩く」という行為そのものを作品とした人です。 - こちらの写真《イングランド》は、
デイジーを摘み取りながら歩いた軌跡が、
草原にクロスした直線となって現れています。
- ──
- へええ‥‥こっちの木の枝を並べた作品は
いつかどこかで見たような。
- 水田
- 《STICKS》という作品です。
- 同じランドアートと呼ばれる動向の中でも、
アメリカのロバート・スミッソンが
渦巻き状の堤防を築いた
《スパイラル・ジェッティ》など
大規模な作品に比べると、
とても慎ましやかですが、
どこか、語りかけてくるような作品です。
- ──
- こういった作品には、
作家からの指示書があるんですよね?
- 水田
- はい、この作品には、
絵と言葉による指示書があって、
それに基づいて、
わたしたちが並べているんです。
ヤマトさんといっしょに。
- ──
- へええ、美術品輸送のヤマトさんも!
おもしろいなあ。 - 指示書の通りに並べるなら、
別に美術の専門家じゃなくてもいい、
ということですか。
素敵ですね。
ちなみに、これら木の枝自体は、
アーティストから送られてきたもの?
- 水田
- 1976年の作品ですが、
作家が日本で拾ったものなのではないか、
と思われます。 - 当時の木の枝を
こうして、何度も並べて展示してます。
- ──
- あ、思い出した。
- 直島のベネッセ・ミュージアムでも、
見たような気がします。
- 水田
- はい。あります、あります。
あちらは木の枝を円状に並べてます。
そして、栗田宏一さんの作品。
日本各地の「土」を採集した
「ソイル・ライブラリープロジェクト」で
知られているのですが‥‥。
- ──
- はい。たしか、もう10年以上前に観た
料理家の辰巳芳子さんのドキュメンタリー
『天のしずく』で、はじめて知りました。
- 水田
- 土って、じつにさまざまな色をしていて。
- ──
- ええ、カラフルですよね、驚くほど。
その場その場では「土の色だなあ」って、
何の不思議もなく思うんでしょうけど、
ずらずらっと並べてみると、
赤かったり黄色かったり白かったり、
黒かったり青かったり紫っぽかったり、
カラーチャートみたいに
もう、ぜんぜんちがってるんですよね。
- 水田
- そうですよね。
当館で土の作品も所蔵しているのですが、
こちらは石。
20世紀の最後に煩悩をはらうように、
満月の夜ごとに拾った石を108個、
こうして整然と並べているんです。
拾った日付と場所を添えて。
- ──
- きれいです、すごく。
- 水田
- 干潮と満潮の差がいちばん大きくなる
満月の夜に海辺に立つ。
潮が満ちて、自分の身体が水に浸かり、
しばらくすると、潮が引いていく。
パフォーマンスから出発した栗田さんは、
そういう行為を続けて、
生命としてのリズムを感じていました。
それがやがて、
満月に石を拾うという行為となり、
この《POYA DAY》という作品は、
いまもなお続けられています。
(つづきます)
2024-03-04-MON
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今回、取材させていただいている
MOTコレクション
「歩く、赴く、移動する 1923→2020/
特集展示 横尾忠則―水のように/
生誕100年 サム・フランシス」
の会期は、3月10日(日)まで。
記事を読みながら展示室をまわると、
いっそうおもしろいし、理解が深まると思います。
開場時間など詳しくは展覧会ページでご確認を。
なお、東京都現代美術館のコレクション展示、
次会期は
「歩く、赴く、移動する 1923→2020/
Eye to Eye-見ること」展
と題して、4月6日(土)からスタートします。
1階「歩く、赴く、移動する 1923→2020」も
いくつかの展示替えがあるとのこと。
また、オラファー・エリアソンの
《人間を超えたレゾネーター》も、
コレクション展では初展示されるとか。
また、3階の「Eye to Eye-見ること」展では、
アレックス・カッツやリキテンスタイン、
そして中園孔二さんの作品も展示予定だそう。
こちらも楽しみです!本シリーズの第1回「東京国立博物館篇」から
第12回「国立西洋美術館篇」までの
12館ぶんの内容を一冊にまとめた
書籍版『常設展へ行こう!』が、
左右社さんから、ただいま絶賛発売中です。
紹介されているのは、
東京国立博物館(本館)、東京都現代美術館、
横浜美術館、アーティゾン美術館、
東京国立近代美術館、群馬県立館林美術館、
大原美術館、DIC川村記念美術館、
青森県立美術館、富山県美術館、
ポーラ美術館、国立西洋美術館という、
日本を代表する各地の美術館の所蔵作品です。
本という形になったとき読みやすいよう、
大幅に改稿、いろいろ加筆しました。
各館に、ぜひ連れ出してあげてください。
この本を読みながら作品を鑑賞すれば、
常設展が、ますます楽しくなると思います!
Amazonでのおもとめは、こちらです。