日本全国の美術館・博物館の
コレクションを見に行くシリーズ第14弾は、
続・東京都現代美術館。
前回の訪問時、時間が足りなくて
全フロアを拝見できなかったので、
「もう一回!」取材させていただきました。
「歩く、赴く、移動する」というテーマの
1階のコレクション展を
前回とおなじく水田有子さんが、
3階の特集「横尾忠則―水のように」を
藤井亜紀さんが、
やさしくおもしろく教えてくださいました。
担当は「ほぼ日」奥野です。どうぞ。

 

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第4回  渡り鳥、木の枝、満月の夜の石。

ワタリドリ計画(麻生知子、武内明子)《シリーズ 深川の旅》2020/「MOTコレクション 歩く、赴く、移動する 1923→2020」展示風景(2023) Photo:Masaru Yanagiba ワタリドリ計画(麻生知子、武内明子)《シリーズ 深川の旅》2020/「MOTコレクション 歩く、赴く、移動する 1923→2020」展示風景(2023) Photo:Masaru Yanagiba

水田
このあたりは、ワタリドリ計画という
麻生知子さんと武内明子さんの
二人の作家のユニットによる作品です。
 
渡り鳥って、暖かい場所や餌を求めて
移動していきますよね。
同じようにワタリドリ計画のおふたりも
日本各地へ出向いて、
いろんなものを見たり、
おいしいものを食べたりしていまして。
──
おお、すばらしい。
その「渡り鳥活動」を作品化している。
水田
そうなんです。
各地での出会いや体験から作品をつくって、
その地で展示を行うというプロジェクトです。
 
こちらは「旅の手彩色絵葉書」という、
学生時代の課題からはじまって、
いまも続けているシリーズです。
モノクロ、セルフタイマーで撮影した
土地土地の写真に、
油彩で手彩色をしています。
写真の上に絵の具を重ねることで、
街に流れる時間の重なりも感じますね。

MOTコレクション「歩く、赴く、移動する 1923→2020」ワタリドリ計画(麻生知子、武内明子)《旅の手彩色絵葉書 [ワタリドリ計画「シリーズ 深川の旅」]》(部分)2020 展示風景 MOTコレクション「歩く、赴く、移動する 1923→2020」ワタリドリ計画(麻生知子、武内明子)《旅の手彩色絵葉書 [ワタリドリ計画「シリーズ 深川の旅」]》(部分)2020 展示風景

──
リヒターにも写真と絵を組み合わせた
フォトペインティングがあるし、
ソール・ライターも
写真に絵の具を重ねていましたけれど、
ちょっと独特の感じになりますよね。
水田
この色合いに
どこかノスタルジーのようなものも感じます。
マスクをしている姿が写っていますが、
コロナ禍の2020年に、
ワタリドリ計画のおふたりが
ここ清澄白河に降り立って
絵画や木彫、陶作品や映像など、
本当にたくさんの作品を残していってくれました。

MOTコレクション「歩く、赴く、移動する 1923→2020」ワタリドリ計画(麻生知子、武内明子)作品展示風景 MOTコレクション「歩く、赴く、移動する 1923→2020」ワタリドリ計画(麻生知子、武内明子)作品展示風景

──
はい。
水田
こちらは、光島貴之さんという、
10歳のときに全盲になられた作家さんです。
木の板に釘や鋲などを打ってつくられた、
手で触れることができる作品で、
清澄白河の駅から東京都現代美美術館まで
歩いた経験、
そのときに受けた感覚や体験などを
作品にしていて。

光島貴之《ハンゾウモン線・清澄白河から美術館へ》2019 Photo: Takashi Fujikawa 光島貴之《ハンゾウモン線・清澄白河から美術館へ》2019 Photo: Takashi Fujikawa

──
いいんですか、触って。
水田
はい、ぜひぜひ触ってみてください。
手の感触から
いろいろな光景が浮かんでくるでしょうか。
この細い釘のラインは、
光島さんが歩いた軌跡を表していたり、
このあたりは、
清澄庭園で鳥が飛び立つようすが
表現されていたりするそうなんですよ。

光島貴之《ハンゾウモン線・清澄白河から美術館へ》(部分)2019 光島貴之《ハンゾウモン線・清澄白河から美術館へ》(部分)2019

──
へええ、おもしろい!
Vの字になっていて、鳥の群れみたい。
こんなふうに聞こえたのかなあ。
水田
聴覚や触感、嗅覚、
さらには天井の低いところでは
何だかちょっと圧迫感を感じるという
「対物知覚」などで認識した風景、
光島さんの体験した
「清澄白河」が作品化されています。
──
釘の軌跡を指で追うことで、
光島さんの歩みをたどれるようですね。
水田
このくるくるした太い釘のラインは、
近くを通り過ぎて
光島さんがビックリしたという
「自転車の動き」を表していたりとか。

光島貴之《ハンゾウモン線・清澄白河から美術館へ》(部分)2019 光島貴之《ハンゾウモン線・清澄白河から美術館へ》(部分)2019

──
本当に、視覚以外の感覚を、
フルに動員している感じがありますね。
こういうようなことって
自分も日々感じているんでしょうけど、
こうして、目の見えない光島さんに
可視化してもらうと、
じつは、ぼくらも
いろんな感覚を受けてるんだよなあと、
いまさらながら思ったり。
水田
本当に。
──
渋谷区松濤に「ギャラリーTOМ」という、
手で触れられたりして、
視覚障害者でも美術を鑑賞できるという
コンセプトの
ギャラリーがあるじゃないですか。
 
そこで、盲学校の生徒さんがつくった
彫刻作品を見たんです。
「夜鷹」というタイトルの作品なんて、
もう、まさしく夜鷹なんです。
水田
たくさんのセンサーを使って、
視覚中心に生きている人とは
またちがった認識や体験の仕方で、
対象を把握なさっているんでしょうね。
光島さんの作品もそうですが、
気づかされることがとっても多いです。
──
ほんとですね。
水田
そして、こちらはリチャード・ロング。
イギリスの作家で、
「歩く」という行為そのものを作品とした人です。
こちらの写真《イングランド》は、
デイジーを摘み取りながら歩いた軌跡が、
草原にクロスした直線となって現れています。
──
へええ‥‥こっちの木の枝を並べた作品は
いつかどこかで見たような。
水田
《STICKS》という作品です。
同じランドアートと呼ばれる動向の中でも、
アメリカのロバート・スミッソンが
渦巻き状の堤防を築いた
《スパイラル・ジェッティ》など
大規模な作品に比べると、
とても慎ましやかですが、
どこか、語りかけてくるような作品です。

リチャード・ロング《STICKS》1976 © Richard Long. All rights reserved, DACS & JASPAR 2024   B0732 リチャード・ロング《STICKS》1976 © Richard Long. All rights reserved, DACS & JASPAR 2024 B0732

──
こういった作品には、
作家からの指示書があるんですよね?
水田
はい、この作品には、
絵と言葉による指示書があって、
それに基づいて、
わたしたちが並べているんです。
ヤマトさんといっしょに。
──
へええ、美術品輸送のヤマトさんも!
おもしろいなあ。
指示書の通りに並べるなら、
別に美術の専門家じゃなくてもいい、
ということですか。
素敵ですね。
ちなみに、これら木の枝自体は、
アーティストから送られてきたもの?
水田
1976年の作品ですが、
作家が日本で拾ったものなのではないか、
と思われます。
当時の木の枝を
こうして、何度も並べて展示してます。
──
あ、思い出した。
直島のベネッセ・ミュージアムでも、
見たような気がします。
水田
はい。あります、あります。
あちらは木の枝を円状に並べてます。
 
そして、栗田宏一さんの作品。
日本各地の「土」を採集した
「ソイル・ライブラリープロジェクト」で
知られているのですが‥‥。
──
はい。たしか、もう10年以上前に観た
料理家の辰巳芳子さんのドキュメンタリー
『天のしずく』で、はじめて知りました。
水田
土って、じつにさまざまな色をしていて。
──
ええ、カラフルですよね、驚くほど。
その場その場では「土の色だなあ」って、
何の不思議もなく思うんでしょうけど、
ずらずらっと並べてみると、
赤かったり黄色かったり白かったり、
黒かったり青かったり紫っぽかったり、
カラーチャートみたいに
もう、ぜんぜんちがってるんですよね。
水田
そうですよね。
当館で土の作品も所蔵しているのですが、
こちらは石。
20世紀の最後に煩悩をはらうように、
満月の夜ごとに拾った石を108個、
こうして整然と並べているんです。
 
拾った日付と場所を添えて。
──
きれいです、すごく。
水田
干潮と満潮の差がいちばん大きくなる
満月の夜に海辺に立つ。
潮が満ちて、自分の身体が水に浸かり、
しばらくすると、潮が引いていく。
パフォーマンスから出発した栗田さんは、
そういう行為を続けて、
生命としてのリズムを感じていました。
 
それがやがて、
満月に石を拾うという行為となり、
この《POYA DAY》という作品は、
いまもなお続けられています。

栗田宏一《POYA DAY—満月の夜の小石拾い》1991-99 Photo: Shizune Shiigi 栗田宏一《POYA DAY—満月の夜の小石拾い》1991-99 Photo: Shizune Shiigi

(つづきます)

2024-03-04-MON

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  • MOTコレクション 歩く、赴く、移動する 1923→2020/ 特集展示 横尾忠則―水のように/ 生誕100年 サム・フランシス 3月10日(日)まで開催中!

    今回、取材させていただいている
    MOTコレクション
    歩く、赴く、移動する 19232020
    特集展示 横尾忠則―水のように/
    生誕100年 サム・フランシス」
    の会期は、3月10日(日)まで。
    記事を読みながら展示室をまわると、
    いっそうおもしろいし、理解が深まると思います。
    開場時間など詳しくは展覧会ページでご確認を。
    なお、東京都現代美術館のコレクション展示、
    次会期は
    「歩く、赴く、移動する 1923→2020/
    Eye to Eye-見ること」展
    と題して、4月6日(土)からスタートします。
    1階「歩く、赴く、移動する 1923→2020」も
    いくつかの展示替えがあるとのこと。
    また、オラファー・エリアソンの
    《人間を超えたレゾネーター》も、
    コレクション展では初展示されるとか。
    また、3階の「Eye to Eye-見ること」展では、
    アレックス・カッツやリキテンスタイン、
    そして中園孔二さんの作品も展示予定だそう。
    こちらも楽しみです!

    書籍版『常設展へ行こう!』 左右社さんから発売中!

    本シリーズの第1回「東京国立博物館篇」から
    第12回「国立西洋美術館篇」までの
    12館ぶんの内容を一冊にまとめた
    書籍版『常設展へ行こう!』が、
    左右社さんから、ただいま絶賛発売中です。
    紹介されているのは、
    東京国立博物館(本館)、東京都現代美術館、
    横浜美術館、アーティゾン美術館、
    東京国立近代美術館、群馬県立館林美術館、
    大原美術館、DIC川村記念美術館、
    青森県立美術館、富山県美術館、
    ポーラ美術館、国立西洋美術館という、
    日本を代表する各地の美術館の所蔵作品です。
    本という形になったとき読みやすいよう、
    大幅に改稿、いろいろ加筆しました。
    各館に、ぜひ連れ出してあげてください。
    この本を読みながら作品を鑑賞すれば、
    常設展が、ますます楽しくなると思います!
    Amazonでのおもとめは、こちらです。

    常設展へ行こう!

    001 東京国立博物館篇

    002 東京都現代美術館篇

    003 横浜美術館篇

    004 アーティゾン美術館篇

    005 東京国立近代美術館篇

    006 群馬県立館林美術館

    007 大原美術館

    008 DIC川村記念美術館篇

    009 青森県立美術館篇

    010 富山県美術館篇

    011ポーラ美術館篇

    012国立西洋美術館

    013東京国立博物館 東洋館篇

    014 続・東京都現代美術館篇