ことしで50周年(!)を迎えた
月刊「かがくのとも」編集部にお邪魔して、
科学とは何か、
科学を学ぶってどういうことか、
物語とはどうちがうのか‥‥
いろいろ、うかがってきました。
それは、生きる世界を肯定するちから。
新しい何かを知ることは、
世界に友だちがふえる、みたいなこと。
600号を超える過去の表紙を前にして、
じつに楽しい時間でした。
全7回、担当は「ほぼ日」奥野です。
「かがくのとも」編集部のみなさん
左から
田中健一(たなかけんいち)
社歴28年、かがくのとも編集部9年。
思い出に残る「かがくのとも」は
『たんぽぽ』、
『しっぽのはたらき』、
『からだのみなさん』、
『じょせつしゃ』、
『おそらにはてはあるの?』
『あなた
『だんめんず』。
大穂いぶき(おおほいぶき)
社歴8年、かがくのとも編集部4年。
思い出に残る「かがくのとも」は
『はははのはなし』、
『サンタクロースって ほんとに いるの?』。
川鍋雅則(かわなべまさのり)
「かがくのとも」編集長。
社歴26年、かがくのとも編集部に17年。
思い出に残る「かがくのとも」は、
『とりになったきょうりゅうのはなし』。
二神泰希(ふたがみやすき)
社歴11年、かがくのとも編集部6年。
思い出に残る「かがくのとも」は
『しっぽのはたらき』、
『あなた
『どうぐ』、
『たんぽぽ』、
『こうていぺんぎん』、
『わたし』。
第5回
加古里子さんの、やさしさ。
- ──
- 加古里子さんが、
子どもたちの気持ちに寄り添えたのは、
どうしてだと思われますか。
- 田中
- ひとつには、若いころから、
子どもと、よく出会っていましたよね。 - ふれあっていた、というか。
- ──
- そうなんですか。実際に。
- 田中
- 加古さんって、東大の学生時代から、
セツルメントといって
経済的に困難な地域に進んで入って、
勉強もままならない子どもたちに、
紙芝居をつくって見せていたんです。
- ──
- ああ、そういう方だったんですか。
- 田中
- とくにやんちゃな子どもたちを相手に、
彼らがずっと座って聞いていられる、
そういうお話づくりを、
訓練のように、
学生のころに繰り返していたそうです。
- ──
- その動機は、何だったんでしょうか。
- 紙芝居屋さんになりたかったわけでは、
なかったと思うんですが。
- 川鍋
- 1920年代生まれの加古さんには、
「戦争に、加担してしまった」という
忸怩たる思い、
世代的な後悔の念があったんですよね。 - だから、とくに子どもたちに対しては、
罪滅ぼしではないけれども、
先を行く人間としての使命感のような
気持ちがあったんだろうと、
昨日の「日曜美術館」で言ってました。
- ──
- あ、そんなタイミングよく(笑)。
でも、そうだったんですね。なるほど。
- 大穂
- いわゆる軍国少年として過ごして、
少なからず、
戦争に対して抱いてきた気持ちが、
敗戦で一変してしまう。 - 価値観がひっくり返ってしまったとき、
子どもたちへの思いが、
湧き上がってきたということです。
- 田中
- これも加古さんですけど、
『あなたのいえ わたしのいえ』
という本も、素晴らしい。
- ──
- 1969年ですから創刊の年の3冊め。
つまり、創刊第3号ですね。
- 田中
- 子どもたちの「いえって、なーに?」‥‥
という素朴な質問に対して、
その機能だとか役目、特質などを、
わかりやすく説明している本なんですけど。
- ──
- ええ。
- 田中
- これも、戦争が終わって破壊を受けて、
家らしい家がぜんぜんないときに、
子どもたちに向かって、
君たちの住んでいる粗末なバラックも
りっぱな家なんだよという、
そのことを伝えたくて描いたそうです。
- ──
- へええ‥‥。
- 田中
- つまり、家というのは
日射しや雨から住人を守ってくれる
屋根がありますね、と。 - 風だって吹きつけますから、
壁もあったらいいですね‥‥と言って。
- ──
- はい。
- 田中
- そんなふうにして、
これだけのものが備わっていたら、
もうじゅうぶん、
りっぱな家と呼べるんですよって。
- ──
- まなざしが、やさしいですね。
- 田中
- やさしいんです。徹底的に、やさしい。
- 弱い立場の人、困っている人、辛い人、
苦しんでいる人‥‥
そういう人たちに向き合っていく姿勢。
- ──
- はい。
- 田中
- 子どもの目の高さにまで屈んで、
目と目を合わせて話す人だと思います。 - 五味太郎さんという作家も、
そのことを非常に意識している方です。
- ──
- あ、そうなんですか。
- 田中
- 大人と子どもは平等だ、
ということを強く意識しておられます。 - 無意識の上から目線みたいな言葉には、
敏感に感づかれますから。
- ──
- 子ども向けの絵本を描いているから‥‥。
- 田中
- 加古さんにも、五味さんにも、
本当に見習わなければと思っています。
絵本の編集者として。 - 子どものための本なんて、
ああじゃなければ、つくれないと思う。
- ──
- 加古さんの作品で言いますと
1972年の『だんめんず』という本が、
とっても気になりました。 - いろんなものを切ってみた、という?
- 田中
- いやあ、あれもおもしろい本ですよ。
- まず読んでいて楽しいし、
やっていることがまさしく科学だし。
- ──
- 断面にしたい願望、ありますもんね。
- 田中
- そう(笑)、みんな、
お母さんが野菜を切っているところ、
見たことあるでしょう、と。 - 野菜をふたつに割ったら、
中の種のようすがわかりますよ、と。
- ──
- ピアノなんかもバサッと切っちゃって。
- 田中
- 花瓶に挿した花が1本、萎れてます。
どうしてだと思いますか? - そこで、花瓶をタテに切ってみたら、
枯れてる1本だけ、水に届いてない。
- ──
- ああー、なるほど。
- 田中
- おもしろさと、理屈が両立してます。
- 自分の生きているこの世界の理屈が、
やさしくおもしろく、わかるんです。
- ──
- このへんの本はだいぶ初期ですから、
みなさんからしたら、
先輩の編集者さんがつくられた作品。
- 田中
- そうですね。
どなたが担当したのかわかりませんが。
- ──
- でも、名前もわからない先輩の傑作が、
理想の一冊、目標の一冊として、
すぐ手元にあるのはうらやましいです。
- 大穂
- 本当ですね。恵まれていると思います。
- 田中
- いつか模倣のレベルでも到達できたら、
いいなあと思うけれど、
なかなか‥‥超えられないだろうなあ。
- ──
- そう思われますか。
- 田中
- もちろん、いつか超えたいんですけど。
- ──
- ええ。
- 田中
- その時代の作者や編集者の興味や関心、
何を見ているか、
どんなことを感じているか‥‥
その塊のようなものから、
本というのは、できているわけですね。 - つまり‥‥その時代時代の制約の中で
うまれるわけですけれど、
苦難の時代を乗り越えてきた、
加古さん世代の
作家さんや編集者の「すごみ」って、
やっぱり、あると思うんです。
- ──
- なるほど。
- 田中
- 単純に、
創刊号の『しっぽのはたらき』以降、
平山和子さんの『たんぽぽ』も、
加古さんの『だんめんず』も、
『あなたのいえ わたしのいえ』も、
どれも50号以内の作品ですから。
- ──
- わあ。
- 田中
- 創刊して、2〜3年以内につくられた、
つまり50年も前につくられた
それらの傑作が、
いまだに単行本で版を重ねてるんです。 - ちょっとやそっとじゃ、かなわない。
- ──
- それだけ過去の作品を、
現代に本をつくる編集者のみなさんが
深くリスペクトして、
未だ大切に参考にされてるというのも、
すばらしいことですよね。 - だってもう、そんなに昔の本なのに。
- 田中
- そう。つくりかたも変化しているんです。
- ようするに、創刊当初の本を見ていると、
当時の子どもたちが
野山の動物や昆虫や植物たちと、
日常的に親しんでいることを前提にして、
つくっていたりするんです。
- ──
- ああ、なるほど。
- 田中
- 今は、なかなかそのことを前提にしては、
本ってつくれないと思います。 - でも、そうやって時代背景が変わっても、
未だに参考になる。色褪せない。
- ──
- 古典、クラシックになってるんですね。
- 田中
- ただ、偉大な作家や先輩編集者が、
当時の空気を吸い込んでつくった作品を、
単に引き写したり、
ものまねをしようとしていたのでは、
当然、ダメだと思います。 - そんなことをしようとしたら、
まず現代の著者さんが怒ると思いますし。
- ──
- そうですよね。
- 田中
- 過去の傑作に対しても、
これからうみだされる作品に対しても、
どっちにも失礼。
- ──
- なるほど。
- 田中
- そうじゃなく、目標とする作品から
学ばせていただきながら、
これからの時代の、
新しい作品を生み出していかないと。
- ──
- 過去と未来に、リスペクトを持って。
- 田中
- はい。
創刊号から2019年9月号まで
全表紙スライドショー
401号→500号
(つづきます)
2019-08-27-TUE
-
『かがくのとも』の展覧会、開催中!
いま、『かがくのとも』創刊50周年を記念した、
「かがく」の展覧会が開かれています。
「しぜん」「からだ」「たべもの」「のりもの」
という4つのカテゴリーから
「かがく」の楽しさを伝える内容になってます。
監修は、生物学者の福岡伸一さん!
自分の心臓の音が聞ける体験コーナーや、
絵本の原画展示、ミンミンゼミやクマゼミなど
いろんな蝉の声を聴き比べられるブースなど、
『かがくのとも』らしい「かがく観」満載で、
とっても、おもしろいですよ。
子どもたちはもちろん、大人にもおすすめです。
五味太郎さんの『みんなうんち』Tシャツなど、
グッズもナイスでした!
9月8日(日)まで、会場はアーツ千代田3331。
入場料や開催時間など、
詳しくはオフィシャルサイトでご確認ください。