ことしで50周年(!)を迎えた
月刊「かがくのとも」編集部にお邪魔して、
科学とは何か、
科学を学ぶってどういうことか、
物語とはどうちがうのか‥‥
いろいろ、うかがってきました。
それは、生きる世界を肯定するちから。
新しい何かを知ることは、
世界に友だちがふえる、みたいなこと。
600号を超える過去の表紙を前にして、
じつに楽しい時間でした。
全7回、担当は「ほぼ日」奥野です。
「かがくのとも」編集部のみなさん
左から
田中健一(たなかけんいち)
社歴28年、かがくのとも編集部9年。
思い出に残る「かがくのとも」は
『たんぽぽ』、
『しっぽのはたらき』、
『からだのみなさん』、
『じょせつしゃ』、
『おそらにはてはあるの?』
『あなた
『だんめんず』。
大穂いぶき(おおほいぶき)
社歴8年、かがくのとも編集部4年。
思い出に残る「かがくのとも」は
『はははのはなし』、
『サンタクロースって ほんとに いるの?』。
川鍋雅則(かわなべまさのり)
「かがくのとも」編集長。
社歴26年、かがくのとも編集部に17年。
思い出に残る「かがくのとも」は、
『とりになったきょうりゅうのはなし』。
二神泰希(ふたがみやすき)
社歴11年、かがくのとも編集部6年。
思い出に残る「かがくのとも」は
『しっぽのはたらき』、
『あなた
『どうぐ』、
『たんぽぽ』、
『こうていぺんぎん』、
『わたし』。
第6回
絵であることの利点とは。
- ──
- 写真でもなく、テキスト中心でもなく、
絵であることのよさって、
どういうところにあると思われますか。 - 何となくですが、科学というと、
絵よりも実写みたいな気持ちもあって。
- 川鍋
- そうですね、たとえば、
この「ひこうき」を描いた絵本の場合、
この画角で、
こういうふうに見せたいという意図は、
絵だからこそ実現できます。
- ──
- なるほど。写真じゃ難しい画角ですね。
- 川鍋
- あるいは、昆虫の生態の作品だったら、
作者の見せたい部分に、
しっかり確実にフォーカスできますね。
- ──
- あー‥‥絵は「強調と省略」が容易。
- 川鍋
- 写真の場合は、
どうしてもピンがきてなかったりとか、
撮りきれなかった部分が
出てきてしまうと思うんですけれども、
絵の場合は
「こういう構図で見せよう」という
作者なり編集側の意図に、集中できる。
- ──
- 絵のほうが、科学が強調したい部分を、
効果的に見せられる‥‥こともある。
- 田中
- アニメーション監督の高畑勲さんは、
『おもひでぽろぽろ』を、
あれだけ写実的に描いたわけですが。
- ──
- ええ。
- 田中
- 高畑さんが言っていたことで、
自分自身、非常に参考になったのは
「絵で描くと、平生見なれたものも
見過ごしてしまわず目が留まるんだ」
って。
- ──
- 見過ごしてしまうもの。
- 田中
- たとえばミカンの絵本をつくる場合、
ミカンの写真とミカンの絵と、
どちらをしげしげと見ますか‥‥と。
- ──
- あー、絵ですね。しげしげは。
- 田中
- そう、写真の場合は「ミカンだね」で
機械的に処理しちゃうところを、
絵で描かれると、
「えっと、これはミカン‥‥だよね?」
と、一瞬「目が留まる」んです。
- ──
- たしかに。
- 田中
- そう考えると、
似顔絵というのも、おもしろいですよ。 - 多くの場合、表面的な表情というより、
内面をとらえたものですから。
- ──
- ああー、そうか。なるほど。
- ゴッホが描いた自画像なんてまさしく、
そのときどきの
「自分の内側」を描いてるんでしょうし。
- 田中
- そうそう。
- ──
- 以前さかなクンにうかがったんですが、
学会の論文みたいなものに添えるのは、
写真じゃなくて、絵なんだそうですね。 - それはやっぱり、
写真だと、微妙な差がわからないけど、
絵なら魚の特徴を「強調」できるから。
- 田中
- まさしく、そのとおりですよね。
- 川鍋
- でも、だからといって、
写真より絵がいいってことじゃなくて、
写真には写真のよさがあって、
写真だからこそ見せられるものもある。
- 二神
- 写真の利点は、何と言っても、
そのゆるぎのない「証拠性」ですよね。
- 田中
- そうだね。
- ──
- たしか「かがくのとも」の唯一の増刊、
あの表紙のツキノワグマの写真なんて、
あれは、写真であってこそ、ですよね。 - ツキノワグマが木に登って
こっちを見ている、あの光景のおもしろさ、
見たことのなさ。
- 川鍋
- たしかに。
- ──
- 逆に、絵でしか無理だと思ったものに、
『すいか』という作品があります。
- 大穂
- ああ、ありましたね。
- ──
- 中身を読んだわけじゃないんですが、
スイカの本なのに、
表紙にスイカが描かれてない‥‥
というか、
「まっ白なすいか」が描かれていて。
- 二神
- じつに斬新な作品です。
- 最初期のスイカの絵本なんですけど、
白黒で描いているんです、スイカを。
- ──
- 中ページも、モノクロなんですか?
- 二神
- そうです。
- ──
- スイカの絵本なのに?
- 二神
- はい。
- スイカの生長を描いてるにも関わらず、
スイカといえばの赤い果肉や、
緑と黒のしましまの皮の模様なんかは、
いっさい、出てこないんです。
- ──
- そう聞くと、すごい作品だなあ(笑)。
- 田中
- たぶん、伝えたいテーマ以外の部分を
省いていった結果、
あんなふうになったんでしょうけど、
スイカの絵本をモノクロで‥‥って、
なかなか勇気が必要だったでしょうね。
- ──
- 伝えたいテーマ‥‥。
- 二神
- スイカの「デーン」とした大きさとか、
形などを印象に残したかった、と。
- ──
- ああ、そうなんですか。
- 田中
- つまり、作家の意図を、
もっともふさわしいかたちで見せたら、
ああいうことになった。
- 川鍋
- かなり実験的な作品だったと思います。
- きっと‥‥編集部でも、
いろいろ揉めたんじゃないかな(笑)。
- ──
- 編集長、その絵が見えてますね(笑)。
- 二神
- ただ‥‥このような表現にすることで、
スイカって実際、
どんな模様だったかと想像しませんか。
- ──
- ああ、します!
- 大穂
- 本物のスイカ、見たくなりますよね。
- 二神
- スイカのしましまなんて、
意識もしないくらいおなじみですけど、
描かないことで意識をさせて、
興味を持たせる‥‥という意味では、
スイカの絵本として、
すごーく成功しているのかも。
- ──
- なるほど‥‥最後まで白黒なんですか。
- 二神
- たしか、そうです。
- ──
- 安易に「回答」を載せないんですね。
- 二神
- 読者のために答えを取っておいてます。
現実のスイカでたしかめてみてねって。
- ──
- でもこれ、8月号だからいいですけど、
もしも冬に読んだら、
次の夏まで、おあずけじゃないですか。
- 大穂
- ほんとうですね(笑)。
- ──
- ちなみに、田中さんが
担当として思い出に残っている
「かがくのとも」は何ですか。
- 田中
- 自分が担当したなかでは、
『へんしんするゆび』という本です。 - ちょっと変わってるんですけど‥‥。
- ──
- 真ん中に穴が開いてますね。
- 田中
- これは「かがくのとも」に来る前から、
ずっとあたためてきたんですが、
なかなか、実現できなかったんですね。 - というのも、その前にいた
「おおきなポケット」って月刊誌は、
いくつも企画が載る雑誌だったので、
ひとつの企画のためだけに、
真ん中に穴を開けることができなくて。
- ──
- でも、なぜ本に穴を開ける必要が‥‥
うわあ、そういうことかあ。
- 田中
- ほら、鏡に写ってるよ‥‥ですとか。
ソーセージになっちゃった‥‥とか。
- ──
- 靴下に穴が空いちゃった、とか!
- 田中
- そう(笑)。
- ──
- おもしろーい(笑)。かわいいなあ。
- で、これも「かがく」だというのが、
素敵だなあと思います!
- 田中
- はは、ありがとうございます(笑)。
- 宇田敦子さんという方が作者ですが、
すばらしいクリエイターで。
- ──
- 宇田さん。
- 田中
- ずーっと実現したかったんですけど、
何度ラフを描いても通らず、
「もうダメかもしれません」
とかって宇田さんに泣きついても
「何とかなりますよ、ハハハ」って。 - で、いつの間にか、
こうして、形にしちゃったんですよ。
- ──
- なるほど(笑)。
- 田中
- この人、きっとおもしろい着地点に
行きつくだろうと信じて、
自分は音を上げながらも、
宇田さんの後ろにくっついていって。 - 編集会議でも、
みんなからアイデアをもらいながら、
ようやく実現したんです。
- 川鍋
- 紙の本だからこその企画、ですよね。
これ、電子書籍じゃ絶対無理だから。
- ──
- そうか。いや‥‥紙の本って、
まだまだ可能性が詰まっていますね。
- 田中
- そう思います。工夫しだいなんです。
- 映像にも電子媒体にもできないこと、
こんなふうにできちゃうんです。
- ──
- 本の真ん中に、穴をあけるだけで。
- 田中
- そう。
- ──
- こんなにもかわいくて、おもしろい本が。
- 田中
- できちゃうんです(笑)。
創刊号から2019年9月号まで
全表紙スライドショー
501号→600号
(つづきます)
2019-08-28-WED
-
『かがくのとも』の展覧会、開催中!
いま、『かがくのとも』創刊50周年を記念した、
「かがく」の展覧会が開かれています。
「しぜん」「からだ」「たべもの」「のりもの」
という4つのカテゴリーから
「かがく」の楽しさを伝える内容になってます。
監修は、生物学者の福岡伸一さん!
自分の心臓の音が聞ける体験コーナーや、
絵本の原画展示、ミンミンゼミやクマゼミなど
いろんな蝉の声を聴き比べられるブースなど、
『かがくのとも』らしい「かがく観」満載で、
とっても、おもしろいですよ。
子どもたちはもちろん、大人にもおすすめです。
五味太郎さんの『みんなうんち』Tシャツなど、
グッズもナイスでした!
9月8日(日)まで、会場はアーツ千代田3331。
入場料や開催時間など、
詳しくはオフィシャルサイトでご確認ください。