これは一通のメールから実現したコンテンツです。
千葉県佐倉市の「国立歴史民俗博物館」ではたらく
女性から届いたそのメールは、
中止になった企画展の図録を
「ほぼ日カルチャんWEBショップ」で
販売できないでしょうか、という内容でした。
企画展のタイトルは、「昆布とミヨク」。
ミヨク?
韓国語で「わかめ」という意味だそうです。
つまり「昆布とわかめ」。
どういう企画展が開催されるはずだったのか、
メールをくださった玄角愛さんと
企画展の担当者、松田睦彦さんにお話をうかがいました。
インタビューをお読みいただく前に、呼びかけをひとつ。
「ほぼ日カルチャんWEBショップ」での
販売を希望する方の募集を、この機会にはじめます。
インタビュー #2
似てるけど、違う。
違うけど、似てる。
- ───
- 松田先生にうかがいます。
「昆布とミヨク」という
インパクトのある企画展のタイトルですが、
このタイトルは
どういった経緯でつけられたのでしょう。
- 松田
- まず「ミヨク」というのは、
韓国語で「わかめ」のことです。
- ───
- ええ、今回知りました。
- 松田
- 日本では、お祭りとか、おめでたい席ですとか、
儀礼では「昆布」を使うんですね。
- ───
- はい、そうですね。
- 松田
- 一方、韓国では、
儀礼などで登場するのは「わかめ」なんです。
- ───
- 同じ海藻だけどちょっと違う。
- 松田
- そう。
昆布とわかめは似たような海藻です。
- ───
- 恥ずかしながら、
昆布とわかめの区別が曖昧でした。
- 松田
- そういう方も多いと思います。
昆布とわかめは、
なんとなく似てるんだけど、違う。
違うんだけど、なんとなく似ている。
その関係が日本と韓国みたいだな、という。
- ───
- ああー。
- 松田
- そういうことで、
タイトルにもってきました。
- ───
- 日本と韓国の生活文化を比較する展覧会の
シンボルとして。
- 松田
- そうです。
- ───
- この企画展を思いついたのは、
松田先生でしょうか。
- 松田
- ええ、日本側のわたしと、
韓国側の担当者とで企画しました。
韓国の「国立民俗博物館」というところとの
共同開催なんです。
- ───
- なるほど。
- 松田
- 以前から館同士の交流はしていまして、
せっかく交流しているのだから
いっしょに展示をやろう、
というのがそもそものはじまりですね。
- ───
- おそらくは、
長い時間をかけて準備をされた。
- 松田
- そうですね、共同研究というかたちで
3年間いっしょに研究をしまして。
- ───
- 3年。
- 松田
- ええ。
- ───
- 3年ですか、準備期間は。
- 松田
- 研究にプラスして、展示準備で1年半ほど。
足かけ5年ですね。
- ───
- 5年。
‥‥ありきたりな言い方ですが、
ほんとうに残念なことで。
- 松田
- 残念です。
なんとかならないものかと
最後まで試行錯誤はしていたのですが、
資料の借用の期間もありますし、
次の企画展示も決まっていますので、
会期を伸ばせない、公開できないと
最終的に決断したのは、
もうほんとうに、つい最近のことでした。
- ───
- 見ていただきたかったですね。
- 松田
- ええ。
- ───
- 日本中、いや世界中の博物館や美術館、
ちいさなギャラリーや劇場など、
数え切れないほどの場所で、
この時期にそうした決断がされたわけで。
- 松田
- ええ、この企画展に限ったことではありません。
- ───
- ほんとうに‥‥。
- 公開されることはなかったわけですが、
あらためてこの企画展の
趣旨をうかがってもよろしいでしょうか。
- 松田
- 日本と韓国の博物館での企画ですので、
両国の生活の文化を比較することが
基本となる展示でした。
とくに、わたしと韓国側の担当者、
どちらも研究していた、「海」。
- ───
- 海。
- 松田
- 海に関わる生活文化を対象にして
日韓比較をしてみようと。
- ───
- はい。興味深いです。
- 松田
- 比較をしてみると、
やはり似ている部分と似ていない部分と、
いろいろと見えてくるんです。
その背景には、
地理的に近い位置関係にあるとか、
歴史的な交流があるとか、
どんな魚を好んで食べるとか、
さまざまな要素がからみ合っています。
日韓の海や漁にまつわる展示に触れて、
似てると考えるのか似ていないと考えるのか、
来場者に考えていただこうと。
そういう趣旨がありました。
- ───
- なるほど。来場者に考えてもらう。
それと同時に
松田先生ご自身には、
この展示を通じて伝えたいことも
あったのではないでしょうか。
- 松田
- わたしとしては、そうですね、
ぜんぜん違うように見えても
どこかで似ている部分があると感じたのが、
おもしろかったです。
ですのでやはり、
お互いに異質な文化ではないということが
届けばいいなと、
個人的にはそんなことを思っていました。
- ───
- それは‥‥
さきほど玄角さんがおっしゃっていた、
「違いを知るというよりは、
どう影響を与えあったかがおもしろかった」
という感想と重なりますね。
- 松田
- そうですね。
玄角さんのお話、うれしかったです(笑)。
- 玄角
- わあ、よかった(笑)。
- ───
- よかったです!
ひとりのお客様としての玄角さんに、
ちゃんと伝わっていたわけですね。
- 松田
- はい。そうですね。
- 玄角
- ありがとうございます。
ホッとしました(笑)。
- 松田
- それともうひとつ伝えたいことは、
どうしても近代の植民地の話があるんですね。
- ───
- はい。
- 松田
- 日本人と韓国人が直接混ざり合う機会が
明治に入ってからありますので、
その影響も実は、
生活文化の中にぐっと入り込んでいます。
そういった歴史の事実を認めながら、
反発し合うのではなく
お互いに自分たちの文化を振り返る。
と、そんな機会を提供するところまで
できたらいいなと。
それが最終目標でした。
- ───
- そのテーマについても、
韓国の方々とお話を重ねたのですね。
- 松田
- かなり慎重に話し合ってきました。
民俗学の研究という見地から
どこまで踏み込めるかということでは
お互いに限界はあります。
そこを見極めながら、
でも理解し合うために
ここまでは表現できるのではないかと、
ことばの選び方ひとつひとつまで
話し合ってきました。
- ───
- 思いがひとつになった感覚はございましたか。
- 松田
- ええ。
すくなくとも韓国の博物館の人たちとは。
ほんとうに真剣に、
同じ方向を向いて展示ができたと思います。
(つづきます)
2020-06-04-THU
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