シリア料理のレシピ集『スマック』著者の
アナス・アタッシさん、
同書の日本語版を刊行した翻訳家で
編集者の佐藤澄子さんと、
シリアの料理を食べながら、話しました
(アナスさんは後半からZOOMで登場)。
シリアという国のこと、
シリアの人びとのこと。
料理がつなぐもの、料理が感じさせるもの。
食べる前に抱いていたシリアのイメージが、
変わりました。
ゆたかで、あたたかい時間でした。
何よりも、シリアの料理が、おいしかった。
もっと食べたいので、
こんどは自分でつくってみようと思います。
担当は「ほぼ日」奥野です。
- ──
- 本の名前にもなっているスマックって、
調味料だということですが、
シリアではポピュラーなんでしょうか。
- 佐藤
- はい。これがないとはじまらない‥‥
というものだそうです。 - 見た目も味も「ゆかり」に似ています。
ちょっと酸っぱい。
肉や魚にかけたり、サラダなんかにも。
- ──
- はじめて食べるのに、
なんだか、なつかしい感じがしました。 - シリアの人たちって
こういうごはんを食べていたのかあ。
そもそも
どうしてシリア料理のレシピの本を。
- 佐藤
- 外国のレシピ本の翻訳して出したいと、
いろいろ探してて、たまたま見つけて。
だからもともと
シリアに傾倒していたわけでもなくて。
- ──
- そうなんですか。たまたま。
- じゃあ、いろんな国のレシピ本を見て、
どれにしようかな‥‥と。
- 佐藤
- はい。でも、料理本を訳そうと思って
真面目に読みはじめると、
これが、なかなか難しくって‥‥。
- ──
- 難しい。
- 佐藤
- 海外で有名な料理家さんのレシピ本も
いろいろ試してみたんですが、
日本人の味覚に
レシピが合わなそうだったり、
手に入りにくい素材が必要だったり。 - で、難しいなあって思っていたんです。
そんなとき、この本に出会ったんです。
- ──
- アナスさんの『スマック』の原著に。
- 佐藤
- そう、著者が「料理家」じゃなくて、
実のお母さんのレシピ‥‥つまり、
お母さんの頭の中にしかないレシピを
文章化した本で、
何だか、すごく読みやすかったんです。 - なにより‥‥ちょっとつくってみたら、
簡単で、おいしかったので(笑)。
- ──
- そもそも、どこかの国のレシピの本を、
日本語に翻訳して
出版したいと思ったのは、なぜですか。 - お聞きしていると
「あの料理が美味しくて大好きだから、
レシピ本を出したい!」
という動機じゃないみたいですけれど。
- 佐藤
- わたしは、まず「翻訳」がやりたくて。
- 過去には、スリランカの
ソナーリ・デラニヤガラという人の
『波』という手記を、
翻訳して出版したこともあるんですが。
- ──
- ええ、ええ。
- 佐藤
- 今回、自分で出版社を立ち上げて
翻訳の本をつくりたいと思ったときに、
料理が好きで‥‥というか、
食べること自体が大好きなので、
料理本がいいなあと思ったんですよね。
- ──
- 翻訳という「自分のやりたいこと」を、
レシピ本を題材に実現しよう‥‥
というところから、はじまっていると。 - アナスさんの『スマック』は
もともとは、何語で出ていたんですか。
- 佐藤
- オランダ語と英語です。
翻訳は基本的には英語からやってます。
もちろん「シリア」という国のことも、
さまざまな報道を通じて
気にはなっていたんですけれど、
でも、まずは、
いい料理の本だなと思ったのが先です。
- ──
- シリアと言えば内戦もあったし、
最近では、大きな地震もありましたし。 - でも、まずは純粋に本として惹かれた。
- 佐藤
- はい。シリアというと、
瓦礫に人が埋まってるみたいな画像が、
ネット検索でも上位に来ます。 - でも、著者のアナスくんは、
そうじゃないシリアを伝えたいんです。
お母さんのレシピを通じて、
シリアのふつうの人の暮らしというか、
平和な食卓だって、
もちろん、あるんだよっていうことを。
- ──
- はい。ぐっと想像しやすくなりした。
料理を食べたら、
シリアの「ふつうの日々」のことを。
- 佐藤
- そう、料理って伝わりやすいんですよ。
- 食卓って、ある面、どこも同じだから。
大切な家族と一緒に、
あるいは
仲のいい友だちを呼んで食べるわけで。
- ──
- でも、この本の中でびっくりしたのは、
アナスさんのお母さん、
あるときに、
お客さんを「70人も呼んだ」とかって。
- 佐藤
- そう(笑)。
- ──
- すごくないですか?
- 佐藤
- 70人の女性の会を開いたんですよね。
恐ろしいでしょ(笑)。
お母さんが社交的な人で、
そういう食事会をバンバンやってたと。
まあ、いろいろ話を聞いてみると、
知り合って一族で集まって
みんなでごはんを食べたりすることが、
大好きな人々らしいんです。
- ──
- それにしたって、70人って(笑)。
- 佐藤
- ねえ(笑)。
- ──
- でも、じゃあ、そういう人たちなのに、
いまは内戦で
国内外に散り散りになっちゃってる。 - それは、本当にたいへんなことですね。
- 佐藤
- そうなんです。
集まれなくなっちゃって、寂しいって。
週末、金曜日になると
みんなでおばあちゃんの家に集まって、
ごはんを食べていたんですって。
そういう思い出ばっかりらしいんです。
- ──
- レシピの合間合間で
アナスさんの書いている思い出の話も、
すごくいいんですよね。
- 佐藤
- 料理本に読み物が入ってるケースって、
欧米では、けっこう多いんです。
やっぱり、料理って
アイデンティティに関わってくるから。
アメリカなんかだと、
韓国系の人とかアフリカ系の人たちが
自分たちのルーツをたどったり。
- ──
- 料理と物語は、相性がいい。
- ちなみにナスをよく使うとありますが、
その場合のナスって、
いわゆる日本のナスでもいいんですか。
- 佐藤
- 味はあんまり変わらないと思いますが、
あっちのナスは「デカい」みたい。
- ──
- デカい。サイズが?
- 佐藤
- 最初、レシピ通りにつくったら、
どうもナスの分量が足りない気がして。
アナスくんと
「おかしいね」なんて話していて、
計量してもらったら、
何かね、ぜんぜんサイズが違うみたい。
- ──
- 興味津々なのが「ナスのジャム」です。
それって、甘い‥‥んですよね?
- 佐藤
- 甘いです。
- ──
- パンとかに塗って、食べてる?
- 佐藤
- そう。朝ごはんによく出てくるみたい。
今日は用意していないんですけど、
ナスのジャムには、
たしかに、わたしもびっくりしました。
- ──
- ナス感もありつつ、甘い‥‥。
ちょっと想像しきれない自分がいます。
- 佐藤
- おいしいですよ。とっても。
(つづきます)
2023-07-19-WED
-
アムステルダム在住のシリア人、
アナス・アタッシさんが刊行した
お母さんの料理のレシピ集。
まずは、その美しい料理の写真に
惹かれて手に取りました。
味のイメージはつかなかったけど、
翻訳者であり、編集者であり、
版元でもある佐藤澄子さんが
レシピをもとにつくってくれた
シリア料理が、本当においしくて。
ところどころにはさまる、
アナスさんのコラムもいいんです。
インタビューにも出てきますが、
「スマック」とは、
「これがなければはじまらない」
という、シリアのスパイス。
日本でも手に入るようなので、
ぜひ、おうちでつくってください。
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