シリア料理のレシピ集『スマック』著者の
アナス・アタッシさん、
同書の日本語版を刊行した翻訳家で
編集者の佐藤澄子さんと、
シリアの料理を食べながら、話しました
(アナスさんは後半からZOOMで登場)。
シリアという国のこと、
シリアの人びとのこと。
料理がつなぐもの、料理が感じさせるもの。
食べる前に抱いていたシリアのイメージが、
変わりました。
ゆたかで、あたたかい時間でした。
何よりも、シリアの料理が、おいしかった。
もっと食べたいので、
こんどは自分でつくってみようと思います。
担当は「ほぼ日」奥野です。

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第3回 食べたら少し身近になった。

──
佐藤さんが、シリアの料理本に惹かれて
翻訳して出版したいと思っても、
著者のアナスさんにたどり着くまでには、
きっと「旅」がありましたよね。
まずは、どこに問い合わせて‥‥だとか。
佐藤
そうです、そうです。
最初、英語版の出版社に問い合わせたら、
オランダ語版の出版社が版権を持っていて。
契約は比較的スムーズだったんですが、
アナスくん本人が、
アムステルダムの企業に勤務していて。
──
それが、いつくらいのことですか?
取り組みをはじめたころ‥‥というか。
佐藤
翻訳に取りかかったのは、
去年(2022年)の春くらい、ですね。
夏‥‥7月、8月くらいで
すべてのレシピの試作をしたんです。
その結果から、文章を手直したりして。
アナスくんともやりとりして、
秋‥‥たしか9月に校了しました。
──
アナスさんにしてみたら
いきなり日本の翻訳の話がくるのって、
びっくりしたんじゃないですか。
佐藤
あ、そうみたい。
でも「日本から翻訳の話が来てるよ」
って出版社から言われて、
わたしがどんな人かもたしかめずに、
「やる」って言ったみたいです。
アルファベットから
ひらがな・カタカナ・漢字になるって、
わたしたちからしたら、
日本語がアラビア文字に変わるくらい、
劇的な変化だと思うんです。
──
そうですよね、たしかに。
佐藤
写真やレイアウトは変わってないけど、
文字だけが、
ぜんぜん違うものになってる。
で、そのことが、
何か、すごくうれしかったみたいです。

──
よく言われることだと思うんですけど、
最初この本を開いたとき、
シリア料理って、本当に美しいなあと。
でも、シリア料理を
食べた経験がなかったので、
味のイメージがつかめなかったんです。
佐藤
そうですよね、きっと。
──
でも、いま実際に食べたら、
行ったこともない「シリア」のことが、
何だか身近に感じる不思議。
佐藤
シリアの家庭を想像できるような、
そんな感じがありますよね。
──
もう10年くらい前になると思いますが、
『シリア・モナムール』という
ドキュメンタリー映画を見たんですね。
佐藤
ええ。
──
いわゆる「アラブの春」をきっかけに
内戦状態へ入っていったシリアで、
現地の人たちが
自分のスマホとかで撮って
SNSにアップした映像で
構成していたドキュメンタリーでした。
いまだ忘れることができないんですが、
シリアというと、
あのイメージがずっと頭に残っていて。
佐藤
はい。
──
だから、これが適切な表現かどうかは
わからないんですけど、
今日、こうして、
シリアのお料理を食べることができて、
ちょっとホッとしてるんです。
佐藤
たぶん、アナスくんも、
そういう「シリアの、ふつうの幸せ」を、
この本を通じて、
知ってほしかったんだろうなと思います。
──
ああ、そうですよね。
佐藤
世界的に見ても歴史の古いところですし、
偉大な文明もうまれた場所。
内戦で荒廃しているアレッポなんかには、
シルクロードを通じて
さまざまなスパイスが行き来したり、
もともと、すごく豊かなところなんです。
──
ええ。
佐藤
そういう場所が、
内戦で、すっかり破壊されてしまって、
何にもなくなっちゃっている事実に、
わたしも、すごくショックを受けます。
アナスくんたちの一族も、
もうシリアでは集まれないんですって。
──
日本の震災もそうですけど、
故郷が壊れてしまうことの壮絶さって
想像しきれないですよね。
でも、レシピ本として
こうして形にしてくださったことで、
縁もゆかりもなかったぼくも、
シリア料理を食べることができて、
ほんの少しばかりですが、
シリアに思いを馳せることができて。
佐藤
本って、そういうところがありますね。
大げさに言えば
その時点の「何か」が歴史に定着する、
というか。
この本も、買ってくれた人のお宅では、
捨てない限りずっと存在するわけだし。
──
そう思います。
そのおうちで育った子どもにとっては、
実家の味になる可能性もあるわけだし。
そうやって、
シリアから遠くの日本で「残ってく」。
何だか、いいなあと思います。

アナス・アタッシ『スマック』より アナス・アタッシ『スマック』より

佐藤
そういえば、この本に載ってる文章で、
ラマダンのところ、読みました?
──
読みました。おもしろかったです。
佐藤
ねえ。わたしはラマダンのイメージが
ちょっと変わりました。
 
ごはんが食べられなくて、つらい‥‥
みたいなイメージばかりが先行してて。
でも、それは日中の話で。
──
昼間はごはんをつくる時間です‥‥
みたいなことが書いてありましたよね。
佐藤
そうそう、だから、アナスくんも
ラマダンには、
ごちそうをつくってもらえるので、
すごくうれしかったって。
日が落ちたら、家族で集まって、
おいしいものを
おなかいっぱい食べるんだって。 

アナス・アタッシ『スマック』より アナス・アタッシ『スマック』より

──
ラマダンのときにしかつくらない
ご馳走とかデザートとかがあって、
それが
楽しみでしょうがなかった、とか。
あと「豆料理は男の仕事だ」って
書いてあったのが、へえと思って。
佐藤
ああ、たしかに。
──
うちの父は早くに亡くなったんですが、
生前、料理なんかしなかったけど、
春に山から筍をとってきて、
大きな釜で
米糠を入れて茹でるのだけは、
毎年、必ずやってたなと思い出したり。
佐藤
土地や家庭の文化を表すんでしょうね。
食べ物とか、料理って。
焼きナスが臭い‥‥っていうのが、
わたしには、ちょっとおもしろかった。
日本のナスを焼いても、
「臭い」という感覚はないと思うけど、
アナスくんのところでは
「ナスを焼いたらすごくナス臭いから、
おばあちゃんは
すごい遠くで焼いてた」って書いてて。
──
ナスの「焼き場」がある‥‥とかって。
どんな臭いがするのか(笑)。
でもいっぱい食べるんですよね。ナス。
佐藤
そう、いっぱい食べるんです(笑)。

アナス・アタッシ『スマック』より アナス・アタッシ『スマック』より

(つづきます)

2023-07-20-THU

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  • シリアのおうち料理のレシピ集 『スマック』、美しい本です

    アムステルダム在住のシリア人、
    アナス・アタッシさんが刊行した
    お母さんの料理のレシピ集。
    まずは、その美しい料理の写真に
    惹かれて手に取りました。
    味のイメージはつかなかったけど、
    翻訳者であり、編集者であり、
    版元でもある佐藤澄子さんが
    レシピをもとにつくってくれた
    シリア料理が、本当においしくて。
    ところどころにはさまる、
    アナスさんのコラムもいいんです。
    インタビューにも出てきますが、
    「スマック」とは、
    「これがなければはじまらない」
    という、シリアのスパイス。
    日本でも手に入るようなので、
    ぜひ、おうちでつくってください。
    Amazonでのお求めは、こちら