「どうすれば、自分を『大切に』できるのか」特集
第1弾は、タトゥーシールデザイナー、
Iwaya Kahoさんのインタビューです。

タトゥーには、少しいかめしいイメージが
あるかもしれません。
しかし、岩谷さんがつくるタトゥーシールには
「毎日頑張る自分のためのお守りや励まし」
にしています、という声が寄せられます。
かわいらしく繊細な作品を生み出すことで知られる
岩谷さんは、お話をうかがっているうちに、
意外にも「スポ根」な方だとわかってきました。
「自分として生きること」、それから
「選ぼうとすること」について
新たな発見を与えてくれた、熱くすがすがしいお話を
全6回でお届けします。
聞き手は、ほぼ日の松本です。

>Iwaya Kahoさんプロフィール

Iwaya Kaho(いわやかほ)

ポートランドのタトゥー文化に影響を受け、
2015年、タトゥーシールブランド
「opnner(オプナー)」を立ち上げる。
「タトゥーというのは、
体が変わろうと人生を共存できる
最高の励ましであって、永遠のジュエリーです」
というコンセプトのもと、
オリジナルのタトゥーシールを制作・販売。
書籍やカレンダーなどの作品も発表。
銭湯とのコラボレーションをはじめ、
幅広い分野で注目を集めている。

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第2回 200%の力

──
以前、岩谷さんがopnnerについて書かれた
webの記事で、
「あなたがあなたでいるために励ましを送りたい」
とおっしゃっていたのが印象的でした。
今って、「自分が自分でいること」が難しい世の中
なのかなと感じていたので、
すごくその言葉に惹かれて。
岩谷
今の社会では、誰もが
いつでも自分らしくいられる方を
選べるわけではないから、
「自分らしくいるのが正しい」というと、
また別の押しつけになってしまうとも思っています。
選びたい方を選べなかったり、
選択肢自体与えられなかったりする場合も
ありますよね。
選べないことが多いからこそ、小さなことでも、
人が何かを「選んだ」と実感できたときに
その選択を応援したい、みたいな気持ちが
あるかもしれません。
私にとって、タトゥーを入れることは
「そのときの決意の記録」でもあるんです。
だから、opnnerのタトゥーシールを見ることで、
「決めた自分」「選ぶことができた自分」を
思い出せることもあるのかな、と。

──
なるほど、そういう意味の
「励まし」でもあったのですね。
岩谷
なので、必ずしも「自分らしく生きるのがいい」
と思っているわけではなくて、
その人が「自分じゃなくならない」ために
力になれたらいいなと感じています。
「自分が自分でいること」が難しい、
ということでしたが、
具体的にはどんなときにそう思いますか? 
──
私は、例えば、人から認められる容姿や
求められる「ふつう」に寄せていく過程で
「自分でいること」の難しさを感じます。
自分らしさを捨てないといけないように
思ってしまって。
岩谷
あぁ。
その、自分らしさを捨てないと社会に迎合できない、
みたいなときって、「捨てたなぁ」という実感は
ありますか? 
──
「捨てたな」というか・・・・
「しょうがないかぁ」と思います。
諦めてしまうというか。
岩谷
きっと、その「しょうがないか」には、
「我慢できてしまうから、気づかないうちに
自分の声を無視している」という場合が
あるんじゃないでしょうか。
たぶん「自分にとって、本当に大事なこと」は、
実際に守り通せるかはわからなくても、
「これは守ろう、守りたい」
と考えられると思うんです。
だけど、例えば
「就活では髪を黒くしないといけない」
みたいな「当たり前」として決まっていることに
突き当たると、
本心では「今は金髪にしたいな」
と思っていたとしても、
「まあ、それくらいなら我慢できるし、
しょうがないか」と、
割とあっさり本心を抑えてしまいますよね。
──
あぁ、たしかに。
自分が諦めていること自体、
認識していなかったときもあったと
今気づきました。
そういう、「些細なこと」
と無意識に切り捨ててしまっている選択の
積み重ねで、
自分らしさが失われていくように
感じていたのかもしれません。
岩谷
私も実は一度、「売れそう」な、
広く迎合されそうな柄を
試しにつくってみたことがあるんです。
でも、「売れそう」なデザインに寄せようとすると、
「本当はこれじゃなくて、
あっちのほうがかわいい」と思っている
もうひとりの自分が見ている! と感じました。
そのときに、
「この柄が一生私のことを見ているんだ、
怖~!」と思ってしまって(笑)。
それで、「やめよ」って思いました。
「自分にバレてる。柄にも見られてるし」って。
それ以来、自分が本当に好きなほうへ向かうことで
置いていってしまうものがあるのだとしたら、
構わず「置いてこ」って思っています。
──
「自分が好きだと思えるほうを選ぶ」
というスタンスを保っていらっしゃるんですね。
岩谷
好きだと感じるほうを選べるということ自体が
嬉しいですし、ありがたいです。
今の自分は、「世の中ではこれが流行っているけど、
私が好きなものはこれです」という姿勢を
見せられる立場だとも感じています。

──
そうなんですね。
でも、人気が出そうな方よりも好きな方を選ぶ、
というのは、少し勇気が要る気もします。
岩谷
やっぱり、全然売れなかった柄もあるんですよ。
だけど、私はそのとき
「売れそう」か「好き」かを天秤にかけて、
自分が好きな、その柄を選んだほうが胸が張れるから
全然大丈夫って思ったんです。
そのときの自分のムードに嘘をついていないから。
──
はい。
岩谷
それに、そういうふうに出したものに対して
いいか悪いかをジャッジすることは、
他者にも自分にもできないと思っています。
その作品に込めた考えが
私の考えの全てを表しているわけではないからです。
作品をつくるときは、全力でひとつの考えについて
表現しているけど、
それは「その時の気持ち」に
旗を立てるみたいなイメージで、
通過点を記録している感じなんです。
──
ああ、考えは変化していくものだから‥‥。
岩谷
はい。
良し悪しをジャッジしてしまうと、後々
「早かったな」と反省することが多くて。
──
「早かった」ですか。
岩谷
出した作品が、後から
よい形の反応をもらうこともあるんです。
そういうときに、
「今回の作品はあんまりだったな」って
決めつけていなくてよかった、
と感じます。
だから、売れなかった柄もすぐに
切り捨てることはしないです。
即座に大きな反響はなくても
自分にとって意味のある柄は、
売れるために用意した柄よりも説明できるし、
大切にもできる気がします。
──
岩谷さんが、
ご自身の本当に好きなほうを選択して
制作されているからこそ、意味のある柄になって、
使う人も「自分は今こういう気持ちだから
こういう意味の柄を選択したんだ」と
感じられるのかもしれませんね。
岩谷
そういうふうに言っていただくと、
ありがとうございますって思います。
──
そもそも自分の好きなものを選択できるのって、
自信があるからこそ、なのでしょうか? 
岩谷
自信か。
自信については、あまり意識したことが
ないかもしれないです。
自信があるかないかというよりも、
「やったか、やってないか」という事実のほうが、
私にとっては大きいです。
思いっきりやるときもあれば、
あえて、思いっきり「やらない」ことを
選択するときもあるのですが、
私は「部活!」みたいな気持ちがすごく強くて、
200%の力で取り組みたいタイプなので、
その「やり切った」感じが自信に見えるの
かもしれません。

──
力いっぱい取り組むからこそ、
結果的に、自信があったように見えるんですね。
岩谷
もう、本当にありえないくらい悩んで、
動悸が起きそうになることもあるんですよ。
一生懸命にやりすぎて、
腱鞘炎、眼精疲労みたいな状態に
なることもあります(笑)。
──
パッケージなども、
手描きでやっていらっしゃるんだとか。
岩谷
もう、手の抜きどころがわからなくなってるんです。
やっぱりやればやるほど楽しいし、
かわいくなってしまう。
そこで手を抜くんだったら、
もはや私がやらなくてもよいかも、みたいに
考えてしまいます。
それだけ「やり切る」から、
自分のやったことを説明できるんだと思います。
そういうところがたぶん
他の人には自信に見えるんじゃないかな。

──
それを岩谷さんは
「部活」と呼んでいるんですね。
岩谷
そう、もう心が常に
「部活」とか「文化祭」状態です(笑)。
やり切ったね~! みたいな。
改めて考えると、
私にとっての自信は、あんまり他者が
介入していないのかもしれません。
他者からどう見られるか云々じゃない感じがします。
「やったか、やらなかったか」しかない。
勝つか負けるかみたいな(笑)。
どんどん私が「熱血!」な人になっちゃってる
気がしますが。
──
正直、岩谷さんとお会いするまでに持っていた
勝手なイメージと違いました(笑)。
岩谷
つくっている柄は、かわいいとか繊細と
言っていただくことが多いんですけど、
つくる過程は体力仕事なんです。
でも、そうやってボロボロになりながら
出来上がったもののほうが、愛着が湧いて、
思い入れが強い作品になるんですよね。

(続きます)

題字・タトゥーシールデザイン:Iwaya Kaho

2023-07-25-TUE

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