23年続く『家族に乾杯』、スジナシ、鶴瓶噺、
無学の会、50歳から始めた落語……。
笑福亭鶴瓶さんは、
「人が決めたことはできない。
つねに「おもろいほう」を取ろうと、
自分でやりたいことを決めてきた」と話します。
このたび、6月28日に開校するほぼ日の學校で、
授業をしてくださる鶴瓶さん。
笑いでいっぱいだった
糸井との打ち合わせの様子から、
鶴瓶さんの「おもろい」を探っていきます。
(鶴瓶さんの授業公開は夏頃を予定しています。)
笑福亭鶴瓶(しょうふくていつるべ)
1951年12月23日生まれ。69歳。
本名は駿河学(するがまなぶ)。
昭和47年2月14日、六代目笑福亭松鶴に弟子入りし、
昭和47年上方落語協会会員として登録。
落語家、タレント、俳優、司会者、
ラジオパーソナリティなど、
さまざまな分野の第一線で活躍中。
笑福亭鶴瓶さん公式サイト、
「つるべ.net」はこちらから。
- 糸井
- 僕も、無学の会のような場所を
2018年から始めたんですよ。
「ほぼ日の学校」と言って。
- 鶴瓶
- うん。
- 糸井
- 最初は「古典を学ぶ学校」というテーマではじめて、
シェイクスピアとか、万葉集とか、ダーウィンとか、
おもしろい先生方に来ていただいて
ほぼ日で授業を開いていたんですね。 - ただ、教室の規模の都合上99人しか生徒を呼べない。
もっと気楽に、
学ぶことができる場所をつくりたいと思って、
6月からアプリで「ほぼ日の學校」を開講することにしたんです。
しかも、今まで先生をやったことのないような人たち
ばっかりをお呼びして。
みうらじゅんも授業をするんですよ。
- 鶴瓶
- ああ、ほんと。
- 糸井
- みうらじゅんは「ベンチャービジネス」について。
- 鶴瓶
- ははは(笑)。
おもろそうやな。
- 糸井
- 矢野顕子が授業してくれたり、
土井善晴先生が出てくれたり、
「あの人のこの話が聞きたいんだよ」
っていうおもしろい授業が集まってます。
僕はなるべく、
「そんなんやりたくないよ」
という人にこそやってもらいたい。
そういう人の授業の方が、絶対おもしろいんですよ。
だから、鶴瓶さんにも授業をしてもらいたくて。
- 鶴瓶
- ……この人、ずるいわ。
逃げられへん。
- 一同
- (笑)。
- 糸井
- 先生って、決まった人だけがやる印象がありますよね。
でも、そうじゃなくて、
この間まで生徒だった人が先生をやる、
みたいなことも大いにあると思ってるんです。
たとえば、うちで社屋の引越しを
2度担当した乗組員がいるんですけど、
彼女は引っ越しのプロと散々打ち合わせをしているので、
「引っ越し」の授業ができると思うんですよね。
- 鶴瓶
- ああ、それおもろいな。
- 糸井
- 鶴瓶さんの話をいつも聞いていて思うのは、
日常にはおもしろいことがたくさんあるのに、
おもしろくなくしてる状況って
いっぱいあるんじゃないかと思っていて。
- 鶴瓶
- うん。
- 糸井
- でも、鶴瓶さんは毎日起こるおもろい話を集めて、
鶴瓶噺としてステージにしてしまってる。
よく考えたら「鶴瓶噺」って、
鶴瓶さんが話すこと以外決まってなくて、
当日何を話すのかわからなくて、
ほんとはイベントとして成立しないですよね。
それをはじめちゃったことは、
すごいことだと思います。
- 鶴瓶
- 2時間ちょっとあるしな。
- 糸井
- それだけ長い時間あるのに、
「とりあえず来て」と言ってるようなもんで。
「なんか、おもろい話をたぶんするから」って。
- 鶴瓶
- 冷静に考えたら、そうやわ(笑)。
- 糸井
- そんなことが成り立つのは、
鶴瓶さんだからですよ。
- 鶴瓶
- 鶴瓶噺のはじまりっていうのも、
兄弟子から権威ある市民寄席に
出てほしいと言われたのがきっかけなんですよ。
古典落語でもせなあかんかなと思ったんやけど、
兄弟子が「パペポで話してたあの話がええわ」と。
落語会で自分の話をするなんて
ええのかなと思ったけど、
兄弟子が言うならと受け入れたんですよ。
それで名付けてくれたのが「鶴瓶噺」。
- 糸井
- おおー。
- 鶴瓶
- そこでやったのが、「琵琶を弾く観音像」という話で。
うちの社長の千佐とのやりとりを話すだけやったんやけど、
それがまあ、ウケてな。
- 糸井
- 新作落語のタイトルみたいだし。
- 鶴瓶
- そうそう(笑)。
それが私落語のはじまりです。
- 糸井
- これも、新しいジャンルですよね。
なんと名付けていいのかわからない
おもろいものを集めて喋るという、
自分の手法をつくってる。
- 鶴瓶
- やりたいことをやってると、
そうなったんやろうな。
決められたことは、ほんまにできひん。
- 糸井
- でも、映画で決まったセリフを言うのは
大丈夫なんですか。
- 鶴瓶
- それは、ルールやからな。
引き受けた時点で覚悟は決まってる。
だけど、紅白の司会をしたときは
「台本を読まない」というのを条件にさせてもらったよ。
- 糸井
- へぇーー。
- 鶴瓶
- それは自分の力を試したいわけではなくて、
歌の感想は、俺の感想で言わせてほしいって思ったんですよ。
だから、秒数だけ教えてくれたらええ、と。
- 糸井
- 生放送だから、尺とか厳しいでしょう。
- 鶴瓶
- 自由に言わしてくれるんやったら、
尺は俺が合わしたると。
秒数を合わせるのは、好きなんですよ。
- 糸井
- なるほど。
- 鶴瓶
- 一回ね、大阪のいずみホールのこけら落としを
やらせてもらったことがあるんですよ。
まだ鶴瓶噺がなかったころで、
オーケストラが演奏するビバルディの「四季」に合わせて、
俺が喋るというものでね。
盛り上がりにメリハリのある楽曲やったから、
終わり数十秒のいちばん盛り上がるところで
ドッと受ける笑いを持っていけるようにやったんよ。
それを、5日間。
- 糸井
- 緻密な芸人ですね(笑)。
- 鶴瓶
- 意外とな。
- 糸井
- 鶴瓶さん、ボクシングをやってたんでしょ?
- 鶴瓶
- そうそう。
- 糸井
- ボクシングって時間の制約があるじゃないですか。
3分戦って休んでの繰り返しで、きっちりしてますよね。
そのおかげなんですかね。
- 鶴瓶
- たしかに、時間の感覚を体に刻むことは、
必然的に備わったんやろうな。
だから、秒数以内でどうにかすることは好きやけど、
その中では自分の話は、自由にさせてほしい。
こっちに考えさせてほしいねん。
- 糸井
- なるほどなあ。
鶴瓶さんは、どんな肩書もぴったりこないから、
肩書=笑福亭鶴瓶ですね。
- 鶴瓶
- ほんまにそうやわ。
やけど、自分だけでは気づけなかったことばっかりですよ。
自分で「鶴瓶噺」なんて大層な名前付けられへん。
- 糸井
- 思えば、無学の会も名付けてもらいましたね。
- 鶴瓶
- そうそう。
自分では気付けないんやろうな。
誰かが言ってくれたことを、
そうかあっていいながら一生懸命やってたら、
自然とこんなことをしてたんやと思う。
(つづきます。)
2021-06-28-MON
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笑福亭鶴瓶さんを17年間撮影した、
ドキュメンタリー映画が7月に劇場公開されます。
取材ノートは34冊、カメラを回した時間は1600時間。
ふだん鶴瓶さんがテレビで見せることのない、
ストイックで複雑で、恐ろしささえも感じる一面が垣間見える、
濃厚で、すぐには消化できない凄みがある作品でした。
肝になるのは、上方落語の最高傑作とよばれる「らくだ」。
師匠である笑福亭松鶴の代名詞であり、
鶴瓶さんは本作で全国ツアーをまわっています。
日常の出来事を2時間しゃべり倒す鶴瓶噺も、
50歳から始められた落語も、
すべてに全力で懸命でやさしくて
たとえようのない大きなエネルギーを放出する舞台を前に、
いつも、笑いながら泣いてしまいます。
映画でも、「らくだ」や師匠や鶴瓶さんの日常が交錯しながら、
今現在に至るまでの止まることのない歩みが映し出されていて、
また、笑って泣いてしまいました。
本作は、コロナ禍で窮地に立たされている映画館に
無償で提供する目的で製作されており、
入場料は、すべて映画館の収益になるという新しい試みです。映画に合わせて、ほぼ同じ歳月をかけて鶴瓶さんを観察されてきた
写真家・大西二仕男さんの写真展も開催されます。
舞台でみせる表の顔と楽屋でみせる裏の顔、
鶴瓶さんの究極のひとり芝居を物語る渾身の80点が展示されます。●映画『バケモン』2021年7月2日全国劇場で公開
http://bakemon-movie.com/撮影・編集・構成・演出:山根真吾
ナレーション:香川照之/音楽:服部隆之
企画・プロデューサー:千佐隆智/プロデューサー:井上啓子/企画協力:吉田佳代
書:大木明子/写真:大西二士男/マネージメント:宇木正大/アシスタント・プロデューサー:藤井愛子
撮影:津村和比古、山本景三、加藤智則、倉田修次/編集:青木観帆/演出補:百田綾香、中城よし子、小林清香
2021年日本/1時間59分59秒/ビスタ・サイズ/5.1chサラウンド/制作:クリエイティブネクサス/配給協力:アスミック・エース/製作・配給:デンナーシステムズ●映画『バケモン』公開記念・大西二士男写真展
笑福亭鶴瓶 17 年の観察記「ウラとオモテと本当の顔」
開催期間は7月14日(火)〜28日(水)、
渋谷のJINNAN HOUSE内 HAUS STUDIO
(東京都都渋谷区神南1丁目2ー5)にて開催されます。