18歳でデビューしてからというもの、
あの印象的なポカリスエットの広告、
サカナクションや
星野源さんや米津玄師さんのМV、
大河ドラマ『麒麟がくる』の
メインビジュアル‥‥などなどなど、
みなさんもきっと、
どこかで目にしているはずの作品を
次々と作ってきた奥山さん。
さぞ「撮影漬け」な日々なのかなと
思いきや‥‥。大切なのは、
シャッターを切ることよりむしろ、
一回の打ち合わせ、一通のメール、
ひとつひとつコミュニケーションだと。
その創作論、全5回でおとどけします。
担当は「ほぼ日」奥野です。
- ──
- 奥山さんの「わからない」の話、
抽象的ですけど、おもしろいですね。
- 奥山
- ぼくたち人間が
いちばんわからないのは何だろうと
考えたとき、
それは人間じゃないかと思うんです。
- ──
- 人間が、
最後までわからないのは、人間。
- 奥山
- それは「自分自身」についてもそうで、
思いもよらない自分って、いますよね。 - 自分のことだから、
みんなわかってる気になってますけど、
こんな感情があったんだとか、
こんなことを思っていたんだとか、
こんな表情をしてるんだとか。
- ──
- 自分で自分に、ハッとするようなこと。
あります、たしかに。
- 奥山
- でも、言葉って断定性が強いので、
あの人はああいう人ですから‥‥って、
人間をはじめ、
多面的な存在を画一的にまとめちゃう。 - 写真でも映像でも、
他の表現でもそうかもしれないですが、
画一的に集約されない伝え方って
きっとあるはずなのに、
たとえば誰かタレントさんを撮るとき、
「この人って、こういう人だよね」
というところに、
わざわざあてはめちゃうようなことが、
よくあると思うんです。
- ──
- その人のパブリックイメージどおりに、
画一的に描いてしまう、ということ?
- 奥山
- はい。どのポスターを見ても、
誰が撮っても、同じような顔をしてる。 - もちろん、
厳密に「同じ顔」というわけじゃなく、
醸し出すもの、
表情が同じという意味ですが。
- ──
- 何とか系とか、何々派とかでくくって。
- 奥山
- 何の意味があるんだろうと思うんです。
- 同じ表情を撮りたいのなら、
1枚の写真を使いまわせばよいのでは、
という気持ちにさえなります。
- ──
- たしかに。
- 奥山
- 被写体の方が、
毎回、別々の写真家に撮られるのなら、
当然、
いろんな見え方をされて然るべきだと、
ぼくは思うんです。
- ──
- そうですよね。うん、うん。
ぼくらの勝手なカテゴライズを超えて。
- 奥山
- 人間だって、動物だって、自然だって、
そう簡単には「わからない」はずですよね。
だから
先に「何とか系」とか「何々派」って
「カテゴリー」があって、
そこへ向けてシャッターを切るんじゃなく、
そんな括りを
超えていくような写真になっていないと、
もったいないと思うんです。
- ──
- もったいない。
- 奥山
- そう思いながら人と向き合っているので、
よく、ぼくの写真に対しては
「えっ、これ、あの人だったんだ」とか、
「あの人っぽく見えない」と言われます。 - でもそれは、いい意味だけじゃなくって、
たまに、
ネガティブに言われることもあるんです。
- ──
- そうですか。
- 奥山
- とくにクライアントワークで
「あの人って、こういう表情もするんだ」
という感想を
言っていただくことも多いのですが、
それすらも、こんどは
自然体という言葉でくくられるんですね。 - そういうことじゃないよなと思っていて。
- ──
- 人間は、カテゴライズして「理解」して、
管理下に置いて、安心したい動物だから。 - たしかに自然体ってどういう状態なのか。
- 奥山
- たぶん、その人が、これまで
ずっと描かれてきたある一面ではなくて、
もっと多面的に見えるというか‥‥
こういう表情もするんだ、と。
つまり、
人間の多面性を捉えているから「自然」、
「人間っぽく見える」
という意味なんだろうなと思っています。
- ──
- なるほど。
- 奥山
- 記号とか情報に変換することのできない、
人間のもつ、人間らしさ。
ようするに
「わからなさ」みたいなものが写ってる。 - そういうことなのかなと、解釈してます。
- ──
- お話をうかがっていると、
写真家の奥山さんがやっていることって、
実作業の面でも、
考え方の面でも、
かなり「編集」的領域と重なってますね。
- 奥山
- そうかもしれません。
- ──
- 撮影するという行為が、
シャッターを切る‥‥瞬間だけじゃなく、
その前後を、相当含んでるというか。
- 奥山
- そうですね、広告のお仕事でも、
今回は何を伝えるべきかというところから
お話させていただくことが、
ぼくの場合は、ほとんどなんです。
- ──
- 自分はぜんぜん知らない世界なんですが、
広告の撮影って、
いわゆる
クリエイティブディレクターの指揮下、
きっちりしたラフがあって、
その「設計図」に沿って撮るみたいな、
そういうイメージってあると思うんです。
- 奥山
- はい、そうだと思います。多くの場合は。
- でも、ぼくに頼んでくださるみなさんは、
まず「気持ち」を共有してくれる。
こういう気持ちを表現したい、
伝えたいんだけど、
どうすればいいだろう‥‥という感じで、
投げかけてくれることがほとんどで。
- ──
- へええ‥‥。
- 奥山
- なので、最初から
ビジュアル的な話にはならないんです。
- ──
- それは、いつからそうなったんですか。
- 奥山
- はじめての出稿量の多い広告は、
たぶん「ポカリスエット」なんですけど、
クリエイティブディレクターの
正親篤(おおぎあつし)さんが、
最初の打ち合わせのときに
「高校生の青春を全力で肯定してほしい」
と、おっしゃったんです。
- ──
- えっと‥‥それだけ?
- 奥山
- はい、そこさえズレなければ、
あとはおまかせします、みたいな。 - 高校生の青春を全力で肯定してくれたら、
何を撮ってもいいですからって。
- ──
- そうなんですか。
- 奥山
- とにかく、あの仕事で大事だったのは
「肯定」という「気持ち」でした。
- ──
- ロケ地とかキャスティングとかじゃなく。
「気持ち」。
- 奥山
- あくまで「気持ち」をどう伝えるのか、
その具体化は任せていただいているので、
答えは、撮る人の数だけある。 - その「気持ち」を正面から受けとめて、
その「気持ち」を忘れないで撮ったら、
あの広告になったんです。
- ──
- すごい。
- 奥山
- で、たぶん本当は、
それくらいシンプルなことなんだろうと
思っています。
- ──
- ああ‥‥。
- 奥山
- まず、クライアントの大塚製薬さんが
クリエイティブディレクターの
正親さんのことを信頼しているんです。 - その信じている気持ちが、
絶対に揺るがない安心感になっている。
そして次に、正親さんが、
ぼくに信頼を置いてくれたんですね。
- ──
- ええ。
- 奥山
- そして、最後にぼくが、
その信頼を受けて、被写体を信じて、
どう撮るか‥‥です。 - もちろん、撮影のための準備は
たくさんやりましたけれども、
大きかったのは、
高校生の青春を肯定するんだ‥‥
という気持ちで、全員がつながっていたこと。
- ──
- なるほど。
- 奥山
- 情報とかテクニックとかデータとか、
そういうものよりも、
最後に残る大事なポイントって、
一言で表現できるような
「気持ち」のことだと思う。 - その一言を共有できてさえいればいい。
そのシンプルさだと思います。
- ──
- ラフとか設計図を前にして、
微に入り細をうがって確認しなくても。
- 奥山
- 気持ちを共有することができていれば。
- 逆に、気持ちを共有できていなければ、
どれだけ細かいラフがあろうとも、
たぶん何も撮れないです。
- ──
- 何でしょう、
「高校生の青春を肯定してあげてほしい」
という、
その一言に含まれているものの、豊かさ。 - いやあ、だって、「肯定したい」ですよ。
「高校生の青春」って。
もう、それだけでジーンとくる言葉だし、
「どんなふうにしよう?」
という気持ちが湧きあがってきますよね。
- 奥山
- あの広告を見た人が受け取ったものも、
商品の機能性とか、
おいしさとか、そういうことじゃなく、
やっぱり「気持ち」だったと思います。 - こういう飲料だから飲んでほしいです、
じゃなくて、
ポカリスエットという飲料ブランドは、
手にしてくれる人たちに、
どういった気持ちで寄り添いたいのか。
- ──
- それ、伝わってきますね。すごく。
- 奥山
- それ以前にも、
広告の仕事はいくつかやってましたが、
こういうことが
人に何かを「伝える」ってことなんだって、
ハッキリわかったんです。 - 当時、まだ26歳くらいだったぼくに、
あんなに大事なことを
わからせてくれたクライアントさんや
正親さん、プロデューサーの方‥‥
すべての関係者に感謝が尽きないです。
- ──
- しかも、
高校生の青春を肯定してあげてほしい、
という言葉は
広告コピーなわけじゃないんですよね。
- 奥山
- ちがいます。
- ──
- ようするに「言葉」としては
いっさい表には出てないわけですよね。 - でも、すべてを生んだのはその言葉で。
- 奥山
- ええ。
- ──
- 簡単に言葉でくくられるような表現を
したくはない奥山さんがいて、
でも、他方で、
高校生の青春を肯定してあげてほしい、
というのも言葉じゃないですか。 - 両者の間の違いって、何なんでしょう。
- 奥山
- 気持ちと通じてるかどうか、ですかね。
やっぱり、その言葉が。
- ──
- なるほど。
データや情報やレッテル貼りじゃなく。
- 奥山
- 感情とつながってるかどうか‥‥です。
- 高校生の青春を肯定するということが、
具体的にどういうことなのか、
答えが決められているわけではないですよね。
- ──
- それこそ「わからない」です。
- 奥山
- だから、やっぱり、
気持ちとか感情の話でしかないと思います。
青春を肯定する‥‥って。 - その琴線に触れている言葉に、
ぼくらは、何かを感じ入るんだと思います。
(つづきます)
2022-02-09-WED
-
2010年のデビュー以来、
奥山さんが、これまでの12年間に撮った
広告、雑誌、映画、アパレルブランド、
大河ドラマのメインビジュアル、
俳優やミュージシャンのポートレイト‥‥。
作品制作と並行して
撮影してきた写真が1冊にまとまりました。
あ、これも? ええー、これも!!
そんな写真集です。
何より、この物体としての存在感、強さ。
インタビューでも語られていますが、
この本の分厚さや重量は、
奥山さんが、たくさんの人々と結んできた
コミュニケーションの集積なんだと思うと、
「何という30歳だろう!」
と、あらためておどろき、あこがれます。
そして、この「12年間」が、
奥山さんにはあと何回あるのか思うと‥‥。
ぜひ、手にとってみてください。
この厚みと重みを、感じてみてください。Amazonでのおもとめは、こちら。