18歳でデビューしてからというもの、
あの印象的なポカリスエットの広告、
サカナクションや
星野源さんや米津玄師さんのМV、
大河ドラマ『麒麟がくる』の
メインビジュアル‥‥などなどなど、
みなさんもきっと、
どこかで目にしているはずの作品を
次々と作ってきた奥山さん。
さぞ「撮影漬け」な日々なのかなと
思いきや‥‥。大切なのは、
シャッターを切ることよりむしろ、
一回の打ち合わせ、一通のメール、
ひとつひとつコミュニケーションだと。
その創作論、全5回でおとどけします。
担当は「ほぼ日」奥野です。
- ──
- ひとつの言葉がすべてを生んだ
ポカリスエットの話‥‥おもしろいです。
- 奥山
- こういう話をすると。
ただ自由にやっているだけですよねって、
思われがちなんですけど。
- ──
- ちがいますよね。きっと。
- 奥山
- ポカリスエットのときにわかったのは、
現場で「自由に撮る」ためには、
そのときまでに、
被写体も含めた「つくり手」の側で、
核になるコンセプトや
ここだけは外せないよねという認識を、
しっかり共有しておく必要がある、
ということなんです。
- ──
- なるほど。
- 奥山
- そのあたりが全員に共有されていないと、
いざ撮る段階で可能性が広がらないし、
現場の瞬発力、
人と人が交わるときの偶発的な煌めきも、
捉えられない気がするんです。 - その場でしか起きない奇跡的な出来事って、
やっぱり、あると思うんです。
その瞬間をしっかりつかまえるためには
事前の綿密なコミュニケーションが必要。
カメラを構えてはじめて、
こうかもしれない、
ああかもしれないと話し合っても、
間に合わないどころか、
どんどん瞬間を逃して、
あせり、可能性を狭めてしまう。
- ──
- 現場に追いつかない、みたいな。
- 奥山
- そうです。だから、
撮る前の準備に時間をかけているんです。
- ──
- それも、1ヶ月2ヶ月に1件くらいしか、
撮影を入れられないくらいに。
- 奥山
- 単に時間をかければいいという話でも
ないんですけど、
相手の立場に立って考えたら、
どんな言葉だったら伝わるだろう、とか。
そういうことを考えていると‥‥。
- ──
- ええ。
- 奥山
- 極端に言えば、1通のメールのほうが、
シャッターを押すより大事なときもある。
- ──
- おお。
- 奥山
- 撮影前のコミュニケーションの蓄積の結果が、
写真になったり、
映像になったりしているだけだと思うんです。 - それはきっと写真以外の美術作品でも、
建築のプロジェクトでも、
最終的には、
誰かと誰かのコミュニケーションの集積が、
かたちになっているんだと思う。
- ──
- 創作とはつまり、個人の業というより‥‥。
- 奥山
- 人と人のコミュニケーションの結果だと、
ぼくは、思っています。 - 写真や映像の撮影現場で
撮る人にすべてを託せる状態というのは、
撮る前に、
全員がすべてを共有しているから、です。
- ──
- ああ‥‥そうなんでしょうね。
- 奥山
- だからぼくは「打ち合わせが撮影」だと
思っているくらいです。
- ──
- そこからシャッターは切られはじめてる。
おもしろいなあ。
- 奥山
- 実際に撮るときは「最終確認」なんです。
とにかく、その場を「楽しむ」だけ。 - リラックスして、
ある意味「適当」な気持ちで臨まないと、
空気を内包した豊かな表現を
生み出せないし、
感情に突き刺さる写真は撮れないんです。
- ──
- 何だか、楽器の演奏の話みたいですね。
- 奥山
- はい、そうじゃないと、
その場が「情報」に集約されてしまう。 - 楽しいなあ、「パシャ!」‥‥って、
友だちを撮るような、家族を撮るような、
感情に即した撮影が理想です。
- ──
- 多くの、ふつうの人にとっての写真って、
そういうものですしね。
- 奥山
- ですよね。
- でも、うしろに何十人も控えていようと
友だちを撮るように、
自由に、瞬発力で写真を撮るためには、
その場にいる人たちが、
どんなふうに
出鱈目に走り回っても逸れない檻‥‥を、
つくっておく必要があるというか。
- ──
- 檻。
- 奥山
- 檻というと言葉が強いんですけど、
そういうイメージがあります。信頼の檻。 - つまり、ある種の囲いをつくったうえで、
そのなかで思う存分、
自由にボールを投げて遊んでる感じです。
- ──
- 奥山さんの新しい写真集は、
12年間のクライアントワークをまとめた
ぶあつい作品集ですけど、
拝見したとき、
奥山さんの庭があるんだなと思ったんです。
- 奥山
- 庭、ですか。
- ──
- 作品によって、当然ですが、
クライアントもタレントさんも違いますし、
当然、メッセージも、
それぞれに伝わってくるんですけど、
でも、
みんな奥山さんの「庭」で遊んでるんだと。 - 何だか、そんな感じを受けたんです。
いまの「信頼の檻」の話は、
その感覚に、どこかつながると思いました。
- 奥山
- なるほど。
- ──
- でも、その「信頼の檻」から、
それでも逸脱しちゃうものってないですか。
- 奥山
- ああ‥‥。
- ──
- 事前の予定とか計画とか想定の範囲内から
スルッと逸脱しちゃう、
「えー、何だこれ?」みたいなもの。 - 自分の場合は、わりとそれに期待していて、
たとえば今日でも、
本当は写真集の話を聞きにきたわけですが、
そうじゃない、でもおもしろい話を、
こんなにもたくさん、聞けているわけです。
で、記事の核になるのは、そっちなんです。
- 奥山
- あ、もしかしたら想像されている
檻の大きさが
ちょっとちがうかもしれないです。 - ぼくが話していたのは、
逸脱も含めてよしとできるような、
そんな大きさなんです。
つまり、気持ちとか概念、コンセプトが
ズレないための檻、という感じです。
- ──
- なるほど。
- 現場でその逸脱OKの判断ができるのも、
きっと、
時間をかけてコミュニケーションをして、
信頼を重ねてきたからでしょうね。
- 奥山
- そうだと思います。
- 何度も何度もコミュニケーションを重ねて、
あらゆる気持ちを共有したうえで、
現場では
それらをぜんぶ忘れちゃうような催眠術を、
自分たちにかけている感覚です。
以前、しばらくの間、
写真を撮るのを忘れちゃったこともあって。
- ──
- どういう状況ですか(笑)。
- 奥山
- サッカーをしながら人物を撮ってたんです。
- サッカーをしているときに
目の前の人と、
人として向き合う真っ当な方法って、
「サッカーを楽しむこと」じゃないですか。
- ──
- たしかに。
- 奥山
- 撮る側も同じボールを追いかけて、
フィジカルな意味でも一緒に動いていると、
気持ちを共有しやすいんです。 - で‥‥サッカーをやってたら、
何かもう、楽しすぎちゃったんですよね。
気がついたら、
写真も撮らずサッカーをやっていました。
- ──
- ふふふ(笑)。
でも、だから撮れた写真もありますよね。 - 撮らない時間があったから、撮れた写真。
- 奥山
- そうなんです。ぼくの場合、
とくに写真は、
やっぱり「撮影自体」が二義的なんです。 - ぼくにとって写真や映像を作ることって、
第一義的には、
気持ちを共有することなんだと思います。
- ──
- 写真家、カメラマンって、
機械のスキャナーとはちがいますもんね。 - 設計図を綺麗にスキャンする人じゃなく、
その場で弾けている何かを
瞬間的につかみとる‥‥みたいな人だし。
- 奥山
- そうですね。
- ──
- それに相手が感情を持つ人間だからこそ、
到達する高みってある気がするんです。
- 奥山
- あ、そう思います。
- ──
- いまの話、
相手がコンピューターじゃ難しいですし。 - AIがどんどん人工知能が進化して、
たとえば
撮影のアドバイスをくれたりとかしても、
こういいう話は、成り立たないと思う。
ポカリスエットの広告も、
相手が「人」で、
感情や気持ちをやりとりできたからこそ、
うまれた傑作なんだと思いました。
- 奥山
- そうだと思います。本当に。
- でも、もともとはそうだったというか、
人と人がものを作っている以上、
そういうやり方こそ、
本来的なんだろうなとは思うんですけど。
- ──
- そうですよね。
- 奥山
- 相手を、どれだけ信頼できるか。
相手に、どれだけ、信頼してもらえるか。 - 言葉にすると当たり前すぎるんですけど、
相手の気持ちに立って、
相手もぼくの気持ちに立ってくれて‥‥
それを繰り返すうちに、
気づいたら何かがうまれていたというか。
その集積が、こんど出る本なんです。
- ──
- あの新しい作品集の「ぶあつさ」は、
やり取りしてきた
コミュニケーションや気持ちの
「ぶあつさ」でもあるということですね。
- 奥山
- 版元の青幻舎の方や
ぼくのマネージャーに
クレジットをまとめていただいてますが、
すごい量なんです。
それだけで、20ページくらいある。 - それも、ひとつの作品だと思っています。
- ──
- クレジットも、作品。
- 奥山
- はい、大げさじゃなく。
- 実際、この本を見返すとわかりますけど、
ぼくひとりのアイディアがすごかった、
みたいなことってひとつもないんです。
ぼくの個性が出ているとすれば、
コミュニケーションを楽しむということ。
- ──
- なるほど。
- 奥山
- 誰かの気持ちを受け止めて、
そのことによって自分の気持ちが動いて、
ちゃんと考えて、
ぼくはこう思うんですって、伝えること。 - それを繰り返していくと、
関わる人たち全員の個性が、混じり合う。
ぼくは、それを撮っているだけ。
ぼくの作品の個性って、
そういうところにあるんだと思ってます。
- ──
- 奥山さんの「庭」にいたのって、
毎回、ぜんぜん別の人ばっかりですよね。
- 奥山
- そうですね。
- ──
- 関わった人たちの個性も、
もちろん混じり合ってるんだと思います。 - でも、それでもやっぱり、
奥山さんの存在を一貫して感じるのって、
関わった人たちも、
奥山さんの個性を大事にしたかった結果、
その証なんだろうなと思いました。
- 奥山
- そうだとしたら、うれしいです。
2022-02-10-THU
-
2010年のデビュー以来、
奥山さんが、これまでの12年間に撮った
広告、雑誌、映画、アパレルブランド、
大河ドラマのメインビジュアル、
俳優やミュージシャンのポートレイト‥‥。
作品制作と並行して
撮影してきた写真が1冊にまとまりました。
あ、これも? ええー、これも!!
そんな写真集です。
何より、この物体としての存在感、強さ。
インタビューでも語られていますが、
この本の分厚さや重量は、
奥山さんが、たくさんの人々と結んできた
コミュニケーションの集積なんだと思うと、
「何という30歳だろう!」
と、あらためておどろき、あこがれます。
そして、この「12年間」が、
奥山さんにはあと何回あるのか思うと‥‥。
ぜひ、手にとってみてください。
この厚みと重みを、感じてみてください。Amazonでのおもとめは、こちら。