たった1個の細胞からなる、単細胞生物。
菌類でも、動物でも、植物でもありません。
実は、ごくありふれた生物で、
例えば、東京でも、明治神宮とか新宿御苑とか、
緑が多い場所なら普通に見ることができます。
(家の庭や住宅地の街路樹にだっているかも)
クワガタムシを育てていたら、
虫カゴの土の中から粘菌が発生した!
なんてことも珍しくありません。
土の中でひっそりと生きている、
小さい小さい原生生物の多くがアメーバ生物で、
その過半数が粘菌だというデータもあるくらいです。
ちなみに「粘菌」の名がつく生物は、
「真性粘菌」「原生粘菌」「細胞性粘菌」
と、3つの種類があるのですが、
一般的に「粘菌(変形菌)」と言われているのは、
主に「真性粘菌」です。
胞子から粘菌アメーバが這い出て、
(1粒の胞子から1匹生まれます)
異なる性同士が出会って「結婚」すると、
やがて変形体に成長します。
・オシアイホネホコリの変形体
朽ちた落葉の上を、ねばねば、ぬるぬるの変形体が進んでいます。
初めて見る人は、これが生物だとは思えないかもしれませんね。
まさに、これぞ、名前通りの、粘菌!
朽ちた落葉の上を、ねばねば、ぬるぬるの変形体が進んでいます。
初めて見る人は、これが生物だとは思えないかもしれませんね。
まさに、これぞ、名前通りの、粘菌!
・種類不明の変形体
立ち枯れた木の、折れた部分に姿を現した変形体。
枯木の中で生息していた変形体が、子実体をつくるために、
明るく乾燥している「外界」へ這い出てきたものと思われます。
そして、この変形体こそが、立ち枯れた木の、折れた部分に姿を現した変形体。
枯木の中で生息していた変形体が、子実体をつくるために、
明るく乾燥している「外界」へ這い出てきたものと思われます。
知の巨人、あの南方熊楠を虜にし、
北海道大学の中垣俊之教授らをして、
2回も「イグ・ノーベル賞」の栄誉に導いた、
粘菌の最も粘菌たる状態だと言えるのです、はい。
(詳しくは拙著をご覧いただくか、おググりあそばせ)
え? 宮崎駿の『風の谷のナウシカ』(漫画)で見た?
そう、いい場面で粘菌が描かれているんですよねえ。
単細胞生物は小さいから顕微鏡無しには見えない、
というイメージを持っている方もいると思いますが、
粘菌の変形体は、肉眼で見ることができます。
粘菌を英語で言うと、slime mold ですが、
変形体は、まさに玩具のスライムのように、
ぬるぬる、べとべと、ねばねば……。
南方熊楠曰く「混沌たる痰」(笑)。
外観は、細い管が網目状に伸びていて、
その上を透明なゼリーが覆っている、という感じ。
管の色は、白、黄色、赤など種類によってさまざまです。
すわ、粘菌の変形体発見! と、喜び勇んで近づいて、
それが、鳥の糞だったときのショック!
お察しいただけるかと……。
東京や大阪など、大都会での粘菌探しは、
色々と似たものが落ちているからスリル満点です(笑)。
・オシアイホネホコリの変形体
扇のようになっている部分が、進んでいる方向です。
てんでんばらばら、あちこちに広がっていますが、
基本的には1匹?の生物なので「管」でつながっています。
扇のようになっている部分が、進んでいる方向です。
てんでんばらばら、あちこちに広がっていますが、
基本的には1匹?の生物なので「管」でつながっています。
・ブドウフウセンホコリの変形体
オレンジ色の変形体が、ブナハリタケを食べているところ。
ブドウフウセンホコリはきのこを食べる粘菌として知られており、
栽培しているナメコも被害にあったりします。
オレンジ色の変形体が、ブナハリタケを食べているところ。
ブドウフウセンホコリはきのこを食べる粘菌として知られており、
栽培しているナメコも被害にあったりします。
・種類不明の変形体
苔むす程に年月が経過した風倒木の中から、
変形体が這い出してきて、子実体をつくりつつあるところ。
翌日再び訪ねて種類を同定すればよかったと今更ながら思います。
苔むす程に年月が経過した風倒木の中から、
変形体が這い出してきて、子実体をつくりつつあるところ。
翌日再び訪ねて種類を同定すればよかったと今更ながら思います。
・キイロタマツノホコリの変形体
ぬるぬる、ねばねばした、半透明の変形体から、
珊瑚状の黄色い子実体に変わりつつあるところです。
これを見て、気持ち悪いと思う人もきっといるでしょうね(笑)。
変形体は、基本的に、高温多湿を好みます。ぬるぬる、ねばねばした、半透明の変形体から、
珊瑚状の黄色い子実体に変わりつつあるところです。
これを見て、気持ち悪いと思う人もきっといるでしょうね(笑)。
変形体を探すなら梅雨時期、子実体を探すなら梅雨明けが、
(子実体になって胞子をつくるには乾燥した環境が必要)
いちばん効率的かもしれません。
北国や標高が高い地域には、秋に活発に活動する種類や、
さらには、雪の下で変形体として過ごし、
春の雪解けとともに子実体をつくる、その名も、
好雪性粘菌、というやつらもいます。
・ルリホコリの仲間の子実体
好雪性粘菌のルリホコリの仲間の子実体(「球」の直径は約1mm)。
生物とは思えない美しい金属的光沢に目が釘付けです。
雪解け時期にそわそわする粘菌ファンの気持ちがわかります。
1日中眺めていたくなるほど美しいでしょ!
変形体は、倒木や落葉の上にいる、好雪性粘菌のルリホコリの仲間の子実体(「球」の直径は約1mm)。
生物とは思えない美しい金属的光沢に目が釘付けです。
雪解け時期にそわそわする粘菌ファンの気持ちがわかります。
1日中眺めていたくなるほど美しいでしょ!
バクテリアや菌類や原生生物などを食べて、
ぐんぐん成長していきます。
わずか0.01mmほどの大きさだった粘菌アメーバが、
種類によっては、長さ数メートルの変形体に。
何百万倍も巨大化するんです!
・ミドリフクロホコリの変形体
餌が豊富にいる落枝を見つけて、枝の上をたどって移動中。
どんなに長く伸びていても「管」でひとつにつながっています。
単細胞生物ということは、これが1個の細胞なんです!
口や手足が無い、というか、全身が口や手足というか、餌が豊富にいる落枝を見つけて、枝の上をたどって移動中。
どんなに長く伸びていても「管」でひとつにつながっています。
単細胞生物ということは、これが1個の細胞なんです!
変形体は、時速数cmくらいの速度で移動しつつ、
スライム状の体に餌をどんどん取り込んでいきます。
たとえば、こんな感じに……。
・種類不明の変形体
変形体の動きは、肉眼ではなかなか確認できないので、
1分に1枚撮影した約90枚の写真をつなげて動画にしてみました。
変形体は、正確に言うと、多核単細胞。変形体の動きは、肉眼ではなかなか確認できないので、
1分に1枚撮影した約90枚の写真をつなげて動画にしてみました。
つまり、細胞はたったひとつで分裂しないけど、
細胞の中にある核は分裂を繰り返します。
栄養条件がいいと、8~10時間毎に分裂。
1個が2個、2個が4個、4個が8個……。
ちょっと数学的センスがある方なら、
この途方も無い核の増え方に戦慄するでしょう。
子実体の直径が1cmを超えるマメホコリの場合、
核の数は、なんと、億単位!
これほどたくさんの核を持つ単細胞生物は粘菌だけです。
しかも、数千、数万、数千万の核が、同時分裂!
粘菌、凄すぎるぜ!
・マメホコリの子実体(未成熟)
大きなものでも直径は1.5cmくらいですが、
できたてほやほやの子実体は美しいピンク色なので森で目立ちます。
成熟すると色が茶褐色系に変わり表皮が崩れて中の胞子が飛散します。
変形体の「管」を顕微鏡で観察すると、大きなものでも直径は1.5cmくらいですが、
できたてほやほやの子実体は美しいピンク色なので森で目立ちます。
成熟すると色が茶褐色系に変わり表皮が崩れて中の胞子が飛散します。
粘菌を構成する「原形質」が流れているのが見えます。
(1~2分周期で流れる方向が変わります)
この原形質の流動が生物の中でも破格の速さなんです。
植物の細胞だと、毎秒0.01mmくらいですが、
粘菌の変形体では、毎秒1mm超!
徒歩と新幹線くらい違うってことですな。
・モジホコリの仲間の変形体
顕微鏡にカメラをセットして変形体の「管」を撮影。
思わず声をあげてしまいました(笑)。
顕微鏡にカメラをセットして変形体の「管」を撮影。
思わず声をあげてしまいました(笑)。
(まだまだ続きます)