と思って近づいてみたら、鳥の糞だった……(涙)。
今度こそ、粘菌に違いない!
ひいい、濡れたティッシュだった……(涙)。
そんなことを何回か繰り返して、
ついに本物の粘菌の変形体とご対面!
さて、あなたはどうしますか?
じっくり観察する……。
すかさず写真を撮る……。
近くに棒があったら突っつく……。
突っつく!
あの、ネバネバ、ドロドロの変形体に、
棒を突き刺すとどうなるか?
もちろん、体の一部が棒に付着します。
でも、ご安心を。
粘菌は、それで、傷ついたり、死んだりはしません。
・キイロタマツノホコリ
倒木の中から変形体が這い出してきて(後方)、
徐々に子実体をつくりつつあるところ(前)。
あの南方熊楠が「混沌たる痰」と言うのもむべなるかな。
倒木の中から変形体が這い出してきて(後方)、
徐々に子実体をつくりつつあるところ(前)。
あの南方熊楠が「混沌たる痰」と言うのもむべなるかな。
・ぬるぬるの変形体
地衣類(菌類と藻類の共生体)のツメゴケの上を進む変形体。
子実体を形成する場合には、胞子がより飛散しやすいように、
元いた場所よりも少しでも高い場所を目指すとか。
例えば、変形体を二つに切り裂くと、地衣類(菌類と藻類の共生体)のツメゴケの上を進む変形体。
子実体を形成する場合には、胞子がより飛散しやすいように、
元いた場所よりも少しでも高い場所を目指すとか。
流れ出た原形質が固化して切り口をふさぎ、
およそ30分くらいで、2つの個体として再生します。
4つに切ったら、4つの個体になります。
さらには、切った変形体同士をくっつけると、
またひとつの個体に復活するんです!
すっごい!
そうそう、すっごい!と言えば、
日々、粘菌の研究にいそしむ、
北海道大学の中垣俊之教授らの研究チーム。
「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる研究」
に贈られる、イグ・ノーベル賞を2度も受賞してます。
ん?「賞を受賞」って「馬から落馬」と一緒?
ま、いいや……(笑)。
最初の受賞は、2008年。
単細胞生物である(真性)粘菌に、
迷路を解く能力があったことを発見したことで、
「認知科学賞」が授与されました。
変形体の小片を迷路の各所に置くと、
動き出して、くっつき合って、
数時間後に迷路全体を覆います。
そこで、出口と入口に餌をセット……。
変形体は迷路の行き止まりにあった体を、
餌のある方向に伸ばし直して、徐々に、
出口と入口をつなぐ「正解」ルートに集まり、
最後には、最短距離だけに体を残します。
つまり、迷路を解いた!
2回目の受賞は、2010年の「交通計画賞」。
関東地方を模した台をつくり、
各都市の位置に餌を置いて粘菌がどう広がるかを実験。
(山や川など地形的障害には粘菌が嫌う光を当てます)
結果は、なんと、現在のJR路線と瓜二つ。
粘菌は、効率的なインフラ設計もできる、というわけ。
まあ、多少強引なところもありますけど、
粘菌の「賢さ」がおわかりいただけるかと……。
・ミドリフクロホコリ
落葉、落枝、草など、ところかまわず広がっていく変形体。
少し高くなっている場所では子実体が形成されつつあり、
ごはん粒でつくった小さなおむすびが多数集まったような形に。
また、中垣教授の別の実験によると、落葉、落枝、草など、ところかまわず広がっていく変形体。
少し高くなっている場所では子実体が形成されつつあり、
ごはん粒でつくった小さなおむすびが多数集まったような形に。
飼育している変形体に、毎時10分間など、
粘菌が嫌うストレス(低温、乾燥)を周期的に与えると、
数回目からその時間を予測するようになるとか……。
粘菌には「予測能力」そして「記憶力」もある?
あるいは、変形体の通り道に、
キニーネという粘菌が嫌う物質を置いておくと、
しばらく動かずに様子見をしたあと、
ある変形体は立ち止まって引き返し、
ある変形体はダッシュで駆け抜け、
ある変形体は一部が引き返し一部が乗り越えたとか。
(管で1つにつながった状態)
立ち止まって、悩んだ挙句、
エイヤ~とトライしたり、すごすご引き返したり……。
動物的、というより、なんて人間的な!
脳や神経系を持たない粘菌のような単細胞生物は、
「中央演算装置」も無ければ、リーダーもいません。
部分部分が好き勝手に行動しているようで、
結果として、全体的にうまくいっているんです。
これを「自立分散方式」って言います。
効率の悪い部分が徐々に消えて、
効率のいい部分へ置き換わっていくという、
生物が持つ自立分散方式的なシステムは、
コンピューターなどへの応用が期待されています。
プログラムされたことしか融通が効かない機械に、
生物の自律的な行動様式が加味されれば、
そりゃあすごいことになりそうですよね。
ね、粘菌、面白いでしょ。
知れば知るほどさらに知りたくなってしまうのです。
ちなみに、各種実験で使われる粘菌の変形体は、
ほぼすべて、飼育方法が確定しているモジホコリです。
(他の多くの粘菌は飼育することすら超困難!)
・アオモジホコリの子実体(未熟)
胞子が入った丸い球の直径は約1mm、高さは1.5mmほど。
成熟しつつ乾燥すると、オレンジ色~緑色っぽく~黄色っぽく変化し、
頭部がひび割れ、胞子が放出されます。
胞子が入った丸い球の直径は約1mm、高さは1.5mmほど。
成熟しつつ乾燥すると、オレンジ色~緑色っぽく~黄色っぽく変化し、
頭部がひび割れ、胞子が放出されます。
・イタモジホコリの子実体(未熟)
子実体になったばかりの状態では板のように平たく真ん中に凹みが。
成熟して色が緑から黄色になり、胞子放出体勢になりつつあったのに、
最悪にも雨に降られてびしょ濡れになってしまった、と思われます。
子実体になったばかりの状態では板のように平たく真ん中に凹みが。
成熟して色が緑から黄色になり、胞子放出体勢になりつつあったのに、
最悪にも雨に降られてびしょ濡れになってしまった、と思われます。
・ダイダイモジホコリの子実体
子実体は成熟するとオレンジ色っぽくなりヒビ割れていきます。
黄色ではなく橙色になるから、ダイダイモジホコリ。
左の後ろに見える小豆色の球は、マメホコリの成熟した子実体。
モジホコリは飼育しやすいとはいえ、子実体は成熟するとオレンジ色っぽくなりヒビ割れていきます。
黄色ではなく橙色になるから、ダイダイモジホコリ。
左の後ろに見える小豆色の球は、マメホコリの成熟した子実体。
飼育状況が適さないと、死んでしまったり、
休眠体(菌核)になってしまったり、
(状況が改善されると回復します)
あるいは子実体を形成してしまうのだとか。
(もう変形体には戻れません)
生物学研究者は変形体を重視しますが、
われわれ、一般的な粘菌ファンの多くは、
小さいけど色も形も大きさも多種多様な子実体を、
じっくり見たいと願っているんですよね……。
・シロススホコリの子実体(未熟)
夏時期、倒木の上でよく見かけます。
変形体も、糸がからみあったような子実体も、真っ白。
大きな子実体は、高さ5cm、長さ15cmにもなります。
夏時期、倒木の上でよく見かけます。
変形体も、糸がからみあったような子実体も、真っ白。
大きな子実体は、高さ5cm、長さ15cmにもなります。
・サビムラサキホコリ
川に落ちた古い倒木の中から這い出してきた黄色い変形体は、
小さくて細かいツブツブに分かれたあと、上に一気に伸び上がり、
アイスバーのような形をした高さ2cmほどの子実体を形成します。
川に落ちた古い倒木の中から這い出してきた黄色い変形体は、
小さくて細かいツブツブに分かれたあと、上に一気に伸び上がり、
アイスバーのような形をした高さ2cmほどの子実体を形成します。
・タマツノホコリの子実体(未熟)
変形体から形成されたばかりの子実体は、
透明で、複雑な形状で、まるでガラス細工のよう。
成熟すると真っ白になり、体の外側に胞子を形成します。
変形体から形成されたばかりの子実体は、
透明で、複雑な形状で、まるでガラス細工のよう。
成熟すると真っ白になり、体の外側に胞子を形成します。
・サビムラサキホコリ?
古くて朽ちた倒木の上を網状に広がって進んでいった変形体が、
やがて要所要所に子実体を形成した、という感じに見えます。
単細胞生物なので、これだけ大きくても、細胞はたったひとつ!
古くて朽ちた倒木の上を網状に広がって進んでいった変形体が、
やがて要所要所に子実体を形成した、という感じに見えます。
単細胞生物なので、これだけ大きくても、細胞はたったひとつ!
・ススホコリの子実体
一見、シロススホコリのようにも見えるのですが、
黄色い部分が退色してしまった、ススホコリの個体です。
暗褐色の胞子がやがて風に乗って飛んでいきます。
右に見えるきのこは、食用になるムキタケです。
一見、シロススホコリのようにも見えるのですが、
黄色い部分が退色してしまった、ススホコリの個体です。
暗褐色の胞子がやがて風に乗って飛んでいきます。
右に見えるきのこは、食用になるムキタケです。
・ツノホコリの子実体(未熟)
子実体が、ゼラチン質でできていることや、
子嚢(しのう)という胞子を入れる袋をつくらないことから、
ツノホコリの仲間は、真性粘菌ではなく原生粘菌に分類される、
という説が、いまのところ有力なんです。
(さらに続きます)
子実体が、ゼラチン質でできていることや、
子嚢(しのう)という胞子を入れる袋をつくらないことから、
ツノホコリの仲間は、真性粘菌ではなく原生粘菌に分類される、
という説が、いまのところ有力なんです。