


石臼と山羊。
(古賀史健)
ネパールの子どもたちは、みんなかわいい。
とくにあれはなんと言うんだろう、
耳あてのついたニット帽をかぶった子どもたちが、
ほんとうにかわいい。
女の子の部屋に案内されると、
そこにはトウモロコシを挽く石臼が置かれていた。
ネパールにおいて、
家のこと全般は女性の仕事で、
たとえばこうした石臼を使ったことのある男性は、
ほとんどいないはずだとシャラドは言っていた。
続いて案内されたのは、
水牛や山羊の飼われたちいさな小屋。
「あ、ネパールでは山羊のミルクも飲むの?」
ぼくの質問にシャラドはさらりと答える。
「いえ。そんなに飲まないと思います。
この山羊はたぶん、食用です」
ああ、当たり前のことだけど、そうだよな。
自分たちがのちに食べるための動物を、
こうやって家の敷地内で飼って、
毎日しっかり世話をして、
どこかのタイミングでそれをさばいて、
家族みんなで分け合うんだよな。
ぼくたちが「見えないところ」に
追いやってしまっているいろんなことを、
ネパールの人びとは生活の「見えるところ」に、
いまも置いているだけなんだよな。

