
あみだくじの横線。
(古賀史健)
「もうこれはぜったい見ておいたほうがいいです。
永田さん、古賀さん、行きましょ!
ほら、鴨さんも!」
コタンを出発する朝、
ネパール製の酔い止め薬を大量に服用し、
道中ずっと睡魔に襲われぐったりしていた泰延さん。
そんな彼がホテルに到着した途端、
ノリノリで語り出す。
ぼくらより2日も早くカトマンズ入りしていた彼は、
カトマンズの主たる観光スポットや宗教施設を
ほぼぜんぶまわりきり、
小型機に搭乗してのエベレスト周遊飛行まで体験し、
さながら旅行代理店に雇われた
現地コーディネーターのような知識量と
いかがわしさを獲得していた。
夕食まで2時間くらいあるから、
そのあいだにタメル地区のバザールを歩こう、
とにかくすごいところだから、
カトマンズにきて、あそこを歩かないのは、
あまりにももったいないから。
そう熱弁をふるう泰延さん。
仲間と行く旅のおもしろさは、
こういうところにある。
もしもぼくがひとりでここにいたならば、
百発百中でベッドに身を投げ、
惰眠をむさぼっている。
どこにも行かず、旅の疲れを癒している。
あっちに行こう、
こっちに行ってみよう、
と誘ってくれる仲間がいるから、
ぼくの旅に不確実な要素がまざっていくのだ。
仲間はいつも、
あみだくじの横線だ。
ひとりだったらまっすぐ降りていたはずの縦線を、
あらぬ方向へと導いてくれる。
前職時代の経験がそうさせるのだろうか、
ホスピタリティの塊みたいな泰延さんに導かれ、
ぼくらはカトマンズの夜に出た。