ネパールでぼくらは。

#87朝、コタンを出て、
カトマンズへ着いたのは夕方だった。
ホテルで荷物を下ろすと
もう、すっかり夜である。
静かにカトマンズの夜は更けて‥‥
いやいや、そんなこと言ってらんないよ。
最後の夜だからね。

あみだくじの横線。

(古賀史健)

「もうこれはぜったい見ておいたほうがいいです。
 永田さん、古賀さん、行きましょ!
 ほら、鴨さんも!」

コタンを出発する朝、
ネパール製の酔い止め薬を大量に服用し、
道中ずっと睡魔に襲われぐったりしていた泰延さん。
そんな彼がホテルに到着した途端、
ノリノリで語り出す。

ぼくらより2日も早くカトマンズ入りしていた彼は、
カトマンズの主たる観光スポットや宗教施設を
ほぼぜんぶまわりきり、
小型機に搭乗してのエベレスト周遊飛行まで体験し、
さながら旅行代理店に雇われた
現地コーディネーターのような知識量と
いかがわしさを獲得していた。

夕食まで2時間くらいあるから、
そのあいだにタメル地区のバザールを歩こう、
とにかくすごいところだから、
カトマンズにきて、あそこを歩かないのは、
あまりにももったいないから。
そう熱弁をふるう泰延さん。

仲間と行く旅のおもしろさは、
こういうところにある。
もしもぼくがひとりでここにいたならば、
百発百中でベッドに身を投げ、
惰眠をむさぼっている。
どこにも行かず、旅の疲れを癒している。

あっちに行こう、
こっちに行ってみよう、
と誘ってくれる仲間がいるから、
ぼくの旅に不確実な要素がまざっていくのだ。

仲間はいつも、
あみだくじの横線だ。

ひとりだったらまっすぐ降りていたはずの縦線を、
あらぬ方向へと導いてくれる。

前職時代の経験がそうさせるのだろうか、
ホスピタリティの塊みたいな泰延さんに導かれ、
ぼくらはカトマンズの夜に出た。

明日につづきます。

2019-10-03-THU

感想をお寄せください

長い連載を読んでいただき、ありがとうございました。
せっかくですから、感想などお寄せいただけますと、
このページに関わった人たちがよろこびます。
メールでの感想は postman@1101.com
「件名:ネパールでぼくらは。」まで。

Twitterでの感想は「」でどうぞ。