糸井 | それにしても、 今回はほんとうに恋愛映画ですよね。 |
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西川 | 糸井さんは『ディア・ドクター』のときも、 恋愛映画だって言ってくださって。 |
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糸井 | だってそうじゃないですか。 |
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西川 | そうですね、今回のはとくにそうです。 わたしもそろそろ腹をくくって、 「男と女をやってみるか」と思ったんです。 |
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糸井 | 要するに、21世紀の光源氏ですよね。 |
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西川 | そうですねぇ(笑)、光源氏です。 |
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糸井 | それをどうやって描くんだ? ってふつうは思いますけど‥‥ みごとでした。 |
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西川 | いやぁ、でも難しかったですねぇ。 私は恋というものを描くのは、とても苦手で。 |
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糸井 | そうですか、そうは思えないですけど。 |
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西川 | 恋愛の先にある、 なれの果ての夫婦を描くことはできる。 その手応えはあったんです。 ただ、結婚詐欺という仕掛けを作ったので、 女が男にコロッと転がっていく、 ほだされる瞬間というのを やっぱり描かなくちゃいけなくて、 そこが自分でも下手くそだなぁって。 |
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糸井 | 得意だったら、そこをもっと長く描いてた。 |
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西川 | たぶんそうしたでしょうね。 でも、駆け引きは書けないんですよ。 |
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糸井 | なるほどね、そうかぁ。 でも、駆け引きはなくても、 吸い寄せられるようにスッと行く。 そこは上手ですよね。 妻の松さんが鵜飼の鵜匠みたいな立場で、 光源氏を泳がして、うまくだますわけですよね。 でも、うまくいったときに、 微妙な感情が出てくる。 「こんなはずじゃなかった」が、すこしずつ出る。 そこらへんが、西川さんはうまいなぁと思う。 ああいうのは、 松さんも表現しがいがあったと思いますよ。 |
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西川 | そうだといいんですけれど。 |
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糸井 | 評判の(松たか子さんの)自慰シーンとかさ。 |
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西川 | 評判になってるんですか? |
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糸井 | なにかで読んだだけで、 ほんとうの評判は知りませんけどね。 |
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西川 | 評判になってます(笑)。 |
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糸井 | でしょう? でも、そういう目立つシーンだけじゃなくて、 すみずみにありますよね、 松さんじゃないと表現できなかった場所が。 |
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西川 | はい。 それはもう、もう安心して任せたところが。 |
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糸井 | すばらしいですよ。 |
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西川 | 松さんは、 しかし本当につかみどころのない方なんです。 自分の演技力を見せて 「どお?」っていう感じがまったくない人。 怖いくらいにないんです。 自意識過剰の正反対ですね。 |
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糸井 | はあー、そうなんですか。 |
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西川 | 監督がオッケーならオッケー。 どういうサイズで撮ってようが、 どう映ってようがまったく無頓着。 |
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糸井 | 歌舞伎ですよ、それ。 |
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西川 | やっぱり、そういうことなんでしょうか。 |
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糸井 | 歌舞伎の人たちは違いますよね。 「ありがとうございます」な感じが。 |
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西川 | ああー、 「ありがとうございます」な感じ。 |
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糸井 | 「ありがとうございます」ですよ、原点は。 「さあ、これからお芝居をさせていただきます! ありがとうございますー!」 |
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西川 | ええ(笑)。 ほんとに、いい意味で、 「仕事」をしにきてるんですよ。 |
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糸井 | でしょうね、仕事をしに。 で、まったく文句も言わない。 それどころか、もし自分が倒れたりしたら、もう、 「申し訳ございませんでした! 今立ちます」 みたいな(笑)。 |
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西川 | いや、ほんとにおっしゃる通りで。 でもですね、お仕事の範囲を超えるような おそろしいところもあるんですよ。 私は、「本番女優」と呼んでたんですけど。 |
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糸井 | ほぉ。 |
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西川 | たとえば、階段から落ちるシーンはかなり難しくて、 松さんもテストでは手こずってました。 だから 「ちょっと別の方法考えます」 「CG処理でなんとかつくりますから」 って提案したんです。 そしたら、 ずっと監督のオッケーでやってくれてたのに、 「もう一回だけやらせてください」 と、そのときだけはおっしゃったんです。 |
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糸井 | おおー。 |
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西川 | 本人がそこまで言ってくれるのならと、 やってもらうことにしました。 うまくいかなければ、 すぐ対策を練れるように準備しておけばいいや、 なんて思ってたんですけど‥‥。 本番になった途端にタタタタッと行けたんですよ。 |
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糸井 | できちゃった。 |
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西川 | あれはねえ、ちょっとすごかったです。 本番では、ギアがグッと上がるんですよ。 「本番女優」です。 |
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糸井 | 歌舞伎の世界の人は、 見えないところで踊りとか お稽古の膨大な時間があって、 サイボーグとして作られてると思うんです。 中村勘三郎さんの太ももを見たときに、 女の人のウェストぐらいあってね。 この太ももに 時間と汗と涙がぜんぶ入ってるんだなぁと思った。 |
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西川 | 歌舞伎の方は‥‥ 厳密に言うと松さんは違うんですけど(笑)、 ほんとにアスリートに近いと思います。 鍛練の積み方も含めて、 そのDNAが流れてらっしゃるんだと思う。 |
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糸井 | そうですね。 |
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西川 | セリフも完全に入ってて、 現場に台本を持ってこない。 ほんとに仕事師でした。 もう、頼もしすぎて、なにも言うことがなくて 申しわけなかったぐらいです。 |
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糸井 | 『ディア・ドクター』のお医者さんなんかは、 セリフ覚えが悪そうですね(笑)。 |
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西川 | あの人は現場で覚えますからね。 「ちょっと教えてー」って(笑)。 |
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糸井 | 「セリフは入ってないくらいのほうがええんや」 みたいな感じもありますしね。 |
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西川 | 鶴瓶さん、 ふだんは自分の出演シーンしか 読まなかったそうです。 『ディア・ドクター』のとき、 初めて通しで読んだって。 |
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糸井 | ああ(笑)。 |
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西川 | だから今回の撮影でも、 「自分のとこだけ 読んでこられたんじゃないですか?」 って聞いたら、 「そんなことない!」 っておっしゃってたんですけど‥‥。 試写を見た後に鶴瓶さん、 「松さんがやってんのん、あれなに? あれ、オナニーやんなあ」って。 「あのう、台本に書いてあります」みたいな(笑)。 (つづきます) |
2012-09-11-TUE