映画『夢売るふたり』は‥‥  ややこしいから すばらしい。  糸井重里×西川美和監督    試写会からの帰り道‥‥ 「やっぱりあの監督はすごいな」と糸井重里。 文藝春秋から出版される単行本の企画で、 その監督、西川美和さんと3年ぶりの対談になりました。 映画の話題を軸にしながらも、 ふたりのやりとりは不定形に、あちこちへ‥‥。 この対談を「ほぼ日バージョン」でもお届けします。 映画と本と、合わせておたのしみください。 観れば観るほどややこしい。 ややこしいからおもしろい。 『夢売るふたり』は、すばらしいです。
 
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第1回 「二」か「三」か。
糸井 西川さん、お久しぶりです。
西川 お久しぶりです。
『ディア・ドクター』のときに、
「ほぼ日」さんで対談させてもらって以来ですね。
あのときはありがとうございました。
糸井 いえいえ、こちらこそ。
(壁際に立って、写真撮影)
こうやって写真撮られながら話したりするの、
西川さん、大丈夫なほうですか?
西川 大丈夫ではないですね。
やっぱり撮る側のほうがいいですよ。
糸井 ぼくも苦手で、裏方でいたいほうなんです。
西川 あ、そうなんですか。
糸井 身内のスタッフに撮られるのは平気なんです、
「おれの哀愁も含めて撮れー!」
とか言えますから。
西川 ふふふふ。
糸井 撮られる側でスタートしてないですからね。
その点、俳優さんなんかは
意識がぜんぜん違うんでしょう。
西川 そうですね。
でも、糸井さんの奥様は、
撮られる側のお仕事ですよね。
糸井 ねえ。
だから、仕事じゃないときには
撮られるのをいやがります。
西川 へえー、そうなんですか。
糸井 ほんとうにいやがりますね。
スイッチがはっきりとありますよ。
よその家を見てると、
ふつうの奥さんって、
家の中でちょっと芝居をすることがありますよね。
西川 (笑)そうなんですか?
糸井 「あなた、これいかが?」みたいな。
ちいさく芝居してますよ、やっぱり。
我が家では、それがない。
西川 一切。
糸井 一切、ないです。
その「芝居しなさ」は、すごみさえありますよ。
「素」しかないんです。
西川 それはご本人も、
そうおっしゃってるんですか。
糸井 何回も聞いたことがありますけど、
「当たり前のことだ」みたいに言いますね。
西川 へえー、おもしろいです。
糸井 おもしろい、ぼくもおもしろいんです。
とにかくいつも、「素」しかない。
それと真逆なのが
歌舞伎の役者さんとかなんでしょうね。
たえず人の前で
何かをしていたいというタイプの人たち。
鶴瓶さんなんかもそうですけど。
西川 はい、はい(笑)。
糸井 西川さんはしますか。
西川 芝居をですか。
糸井 そう。
たとえば、日常の中で
男の人と一緒にいたら、
芝居的なものが必要な場面ってありますよね。
西川 うーん‥‥(長考)‥‥
でもやっぱり、
根本的にはしたくないほうです。
芝居してるうちは苦しいんだと思うんですよ。
糸井 うん。でしょうね。
西川 かといって、
本当の自分は見せられたもんじゃないです。
だから、相当な信頼関係のある人以外の前では‥‥
糸井 すこし、する?
西川 してますね、すこし。
男性の場合はどうですか?
糸井 うん、男はまたややこしくて、
二の線と三の線がいて、
「二」の人は
どんなにおもしろい顔をしているときでも、
心は「二」なんです。
西川 たしかに。
悲しいぐらいにそうですよね。
糸井 で、それに対して、
「三」の人はまんまの自分を受け入れてます。
西川 ああー。
でも、役者さんには、
「三」のような風貌でも
「中身は二」という人がいらっしゃいますよ。
糸井 それは山ほどいます。
西川 いますよね。
糸井 というより、役者さんはみんな基本的に、
むかし「二」だったんだと思うんですよ。
西川 もともとは「二」。
糸井 学生時代にかわいいと言われたとか、
ちょっとモテたとか、
部活で人気があったとか。
「おれ、演劇やろうかな」と思ったときには、
「二」でスタートしてると思うんですよ。
だから、「三」に見せてる人でも、
もとは「二」のはずです。
西田敏行さんを見てると、それをよく思います。
西川 なるほどぉ‥‥。
私、俳優さんに対して、
よくも悪くも生き物として
壁を感じてしまうことがあるんです。
もしかしたら、そこが原因なのかな‥‥。
糸井さんは、ご自身をどうだと思われてます?
糸井 ぼくは、ほんとは「二」を入れたいんですけど、
なかなか難しいし、ほとんど無理ですね。
西川 そうですか(笑)。
糸井 なんて言うんでしょう、
世の中、「二」でしか動かない場面が、
けっこうたくさんありますから。
西川 そういうものですか。
糸井 たとえば若いときはとくにそうですけど、
女の人を口説くったって、
「三」のままでは口説き終わらないんですよ。
西川 ああーー。
糸井 若いときはやっぱり、
後ろ手にドアを閉める瞬間がないと。
「二」の顔で部屋の鍵をしめないと。
カチャリ、と。
西川 そうですね(笑)。
糸井 「三」はしめないです。
いつ誰が来ても大丈夫って顔してますよね。
西川 うーん、たしかに‥‥。
じつは今回の『夢売るふたり』でも、
主役を「二」でいくか「三」でいくか、
すごく悩んだんです。
糸井 お。
やっと、今日のテーマになりました(笑)。
西川 そうですね(笑)。


(つづきます)

2012-09-04-TUE

 
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第1回 「二」か「三」か。
2012-09-04
第2回 阿部サダヲさん、松たか子さん。
2012-09-05
第3回 もうひとつのエンディング。
2012-09-06
第4回 『夜と霧』 
2012-09-07
第5回 「もうちょっとホメてください」
2012-09-10
第6回 恋愛を描くということ。
2012-09-11
第7回 ムーダー。
2012-09-12
第8回 さみしさと無力感。 
2012-09-13
第9回 レディ、セット、ゴー! 
2012-09-14
第10回 観れば観るほどややこしい映画。
2012-09-15

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2009年の西川美和監督と糸井重里の対談はこちら。
ディア・ドクターのすてきな曖昧。


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