糸井 | 西川さん、お久しぶりです。 |
西川 | お久しぶりです。 『ディア・ドクター』のときに、 「ほぼ日」さんで対談させてもらって以来ですね。 あのときはありがとうございました。 |
糸井 | いえいえ、こちらこそ。 (壁際に立って、写真撮影) こうやって写真撮られながら話したりするの、 西川さん、大丈夫なほうですか? |
西川 | 大丈夫ではないですね。 やっぱり撮る側のほうがいいですよ。 |
糸井 | ぼくも苦手で、裏方でいたいほうなんです。 |
西川 | あ、そうなんですか。 |
糸井 | 身内のスタッフに撮られるのは平気なんです、 「おれの哀愁も含めて撮れー!」 とか言えますから。 |
西川 | ふふふふ。 |
糸井 | 撮られる側でスタートしてないですからね。 その点、俳優さんなんかは 意識がぜんぜん違うんでしょう。 |
西川 | そうですね。 でも、糸井さんの奥様は、 撮られる側のお仕事ですよね。 |
糸井 | ねえ。 だから、仕事じゃないときには 撮られるのをいやがります。 |
西川 | へえー、そうなんですか。 |
糸井 | ほんとうにいやがりますね。 スイッチがはっきりとありますよ。 よその家を見てると、 ふつうの奥さんって、 家の中でちょっと芝居をすることがありますよね。 |
西川 | (笑)そうなんですか? |
糸井 | 「あなた、これいかが?」みたいな。 ちいさく芝居してますよ、やっぱり。 我が家では、それがない。 |
西川 | 一切。 |
糸井 | 一切、ないです。 その「芝居しなさ」は、すごみさえありますよ。 「素」しかないんです。 |
西川 | それはご本人も、 そうおっしゃってるんですか。 |
糸井 | 何回も聞いたことがありますけど、 「当たり前のことだ」みたいに言いますね。 |
西川 | へえー、おもしろいです。 |
糸井 | おもしろい、ぼくもおもしろいんです。 とにかくいつも、「素」しかない。 それと真逆なのが 歌舞伎の役者さんとかなんでしょうね。 たえず人の前で 何かをしていたいというタイプの人たち。 鶴瓶さんなんかもそうですけど。 |
西川 | はい、はい(笑)。 |
糸井 | 西川さんはしますか。 |
西川 | 芝居をですか。 |
糸井 | そう。 たとえば、日常の中で 男の人と一緒にいたら、 芝居的なものが必要な場面ってありますよね。 |
西川 | うーん‥‥(長考)‥‥ でもやっぱり、 根本的にはしたくないほうです。 芝居してるうちは苦しいんだと思うんですよ。 |
糸井 | うん。でしょうね。 |
西川 | かといって、 本当の自分は見せられたもんじゃないです。 だから、相当な信頼関係のある人以外の前では‥‥ |
糸井 | すこし、する? |
西川 | してますね、すこし。 男性の場合はどうですか? |
糸井 | うん、男はまたややこしくて、 二の線と三の線がいて、 「二」の人は どんなにおもしろい顔をしているときでも、 心は「二」なんです。 |
西川 | たしかに。 悲しいぐらいにそうですよね。 |
糸井 | で、それに対して、 「三」の人はまんまの自分を受け入れてます。 |
西川 | ああー。 でも、役者さんには、 「三」のような風貌でも 「中身は二」という人がいらっしゃいますよ。 |
糸井 | それは山ほどいます。 |
西川 | いますよね。 |
糸井 | というより、役者さんはみんな基本的に、 むかし「二」だったんだと思うんですよ。 |
西川 | もともとは「二」。 |
糸井 | 学生時代にかわいいと言われたとか、 ちょっとモテたとか、 部活で人気があったとか。 「おれ、演劇やろうかな」と思ったときには、 「二」でスタートしてると思うんですよ。 だから、「三」に見せてる人でも、 もとは「二」のはずです。 西田敏行さんを見てると、それをよく思います。 |
西川 | なるほどぉ‥‥。 私、俳優さんに対して、 よくも悪くも生き物として 壁を感じてしまうことがあるんです。 もしかしたら、そこが原因なのかな‥‥。 糸井さんは、ご自身をどうだと思われてます? |
糸井 | ぼくは、ほんとは「二」を入れたいんですけど、 なかなか難しいし、ほとんど無理ですね。 |
西川 | そうですか(笑)。 |
糸井 | なんて言うんでしょう、 世の中、「二」でしか動かない場面が、 けっこうたくさんありますから。 |
西川 | そういうものですか。 |
糸井 | たとえば若いときはとくにそうですけど、 女の人を口説くったって、 「三」のままでは口説き終わらないんですよ。 |
西川 | ああーー。 |
糸井 | 若いときはやっぱり、 後ろ手にドアを閉める瞬間がないと。 「二」の顔で部屋の鍵をしめないと。 カチャリ、と。 |
西川 | そうですね(笑)。 |
糸井 | 「三」はしめないです。 いつ誰が来ても大丈夫って顔してますよね。 |
西川 | うーん、たしかに‥‥。 じつは今回の『夢売るふたり』でも、 主役を「二」でいくか「三」でいくか、 すごく悩んだんです。 |
糸井 | お。 やっと、今日のテーマになりました(笑)。 |
西川 | そうですね(笑)。 (つづきます) |
2012-09-04-TUE
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