糸井 | 西川さんはいま、 プロデューサー的な立場で 作品をつくってはいないんですよね。 |
西川 | ええ。 私はある意味すごく気楽なポジションで やらせてもらっています。 作品の中身のことだけを考えてればいいっていう。 でも、そういう立場にいても、 いまの映画界を見ていると、 もっとちがったやりかたはないものかと 考えることはありますね。 |
糸井 | それは具体的には? |
西川 | すごく大きく展開させるか、 すごくちいさくやっていくか、 両極端の選択肢しかないんです。 同時に、 ちいさくやろうと思っても ミニシアターがどんどんなくなっていって、 シネコンだらけになって、 大きく展開せざるを得ないという流れもある。 なにか、そのフォーマットから 抜け出す方法がないかなぁっていうのは‥‥。 |
糸井 | 思いますよねぇ、それは。 |
西川 | その方法については、 ちょっとずつ考えていきたいと思っています。 |
糸井 | 日本にはハリウッドのような 仕組みがないのも残念ですよね。 ハリウッドって、デビッド・リンチのような アングラ系の監督を 飲み込んで起用していくじゃないですか。 あの仕組みが日本にはない。 |
西川 | そうですね。 |
糸井 | アングラだろうがおもしろければすくい上げる、 その選択肢がほとんどないっていうのは 残念ですよねぇ。 |
西川 | ええ。 結局、大きくお客さんを呼べそうな やり方に添わされてしまう。 |
糸井 | だから、 マーケティングにしかすぎないんですよ。 |
西川 | ええ。 それは作り手の本意ではないと思うんです。 ‥‥とはいえ、 観てもらわないと映画にならない、 というのはあるんですけど。 |
糸井 | この『夢売るふたり』なんかも、 まさしく観客に見方を要求する映画ですよね。 |
西川 | どうやって観てもらうかについては、 大変ですね、こういうぐずぐずした映画は(笑)。 だれもかれもが見終わって100パーセント 「ああ、すっきりした」 と感じる映画じゃないですから。 |
糸井 | 「真実の愛に泣ける!」 みたいな描き方じゃないからね。 |
西川 | ええ(笑)。 |
糸井 | なんかね、もっと本当のことを言って、 観ることをすすめたいですよね。 |
西川 | そうですねぇ‥‥。 |
糸井 | たとえば、 「観れば観るほどややこしくなる映画です」とか。 |
西川 | ‥‥ああー。 |
糸井 | 「ややこしいからすばらしいです」と。 |
西川 | たしかに、本当のことです。 「観れば観るほどややこしい。 ややこしいからすばらしい」 いいコピーをいただいてしまった(笑)。 |
糸井 | そんなの、よかったら使ってください。 |
西川 | ありがとうございます。 |
糸井 | 「ややこしいですよ」 と言われる映画に対して、 「だったら観ない」じゃなくて、 「え、じゃ、観ようかな」 と思う社会が来てほしいですよね。 |
西川 | ほんとうに。 私自身、 観れば観るほどややこしくなる映画を観てきて、 それがすごく‥‥ |
糸井 | おもしろかったんだよね。 |
西川 | そう! おもしろかったんです。 そういう映画を観ながら大人になってきたから、 ややこしくて、 答えが出せないものを描くことが 自分の宿題になったんです。 |
糸井 | ほんと‥‥映画って‥‥ 日常言語だけを使ってるのに、 そんな高度なことを感じさせてくれるんだから、 すごいですよ。 論文でも何でもないわけでさ。 |
西川 | 映画はそうですね、 日常の言葉だけです。 |
糸井 | すばらしいと思います。 日常会話だけですから。 |
西川 | 映画の不自由さとか、 それも含めての制約すべてが、 すごくおもしろいなぁと思っています。 小説を書かせてもらうこともありますけど、 やっぱり大きくちがいますね。 |
糸井 | そうか、2種類やってるんだ。 |
西川 | ええ。 でも、やっぱりまずは映画があるから、 小説もたまに書けるというか。 ストレス発散のし合いかもしれないです(笑)。 |
糸井 | ああ、互いにできないことができますからね。 |
西川 | はい。 |
糸井 | だったら、いっそのこと、 ものすごく他人事をやるという意味で、 大河ドラマみたいなのをやるといいかもね。 |
西川 | 大河ですか(笑)。 |
糸井 | 西川美和、『徳川家康』を撮る! みたいな。 |
西川 | むちゃくちゃですねぇ(笑)。 |
糸井 | いまデタラメに言ったんだけど、 案外いいかもしれない(笑)。 政治とか合戦とかじゃなくて、 権力を持って何でも願いが叶うようになった人が、 女の人にどうやって接したんだろう? とかさ。 権力を持った人を描くというのは、 西川さんの不得手そうなところだから、 やってほしい気がする。 |
西川 | 不得手だから(笑)。 でもそういう人の 私人としての顔っていうのは また面白いかもしれませんよね。 |
糸井 | それ、ほんとに観たいかも。 どうなるんだろうなぁ‥‥。 いよいよやると決めるときには、 レディ、セット、ゴーで(笑)。 |
西川 | はい(笑)。 |
糸井 | やあ‥‥おもしろかった。 きょうはありがとうございました。 |
西川 | こちらこそ、ありがとうございました。 (ふたりの対談は、これで終了です。 最後までお読みいただき、ありがとうございました。 映画・この対談の感想、お待ちしていますね!) |
2012-09-15-SAT