映画『夢売るふたり』は‥‥  ややこしいから すばらしい。  糸井重里×西川美和監督    試写会からの帰り道‥‥ 「やっぱりあの監督はすごいな」と糸井重里。 文藝春秋から出版される単行本の企画で、 その監督、西川美和さんと3年ぶりの対談になりました。 映画の話題を軸にしながらも、 ふたりのやりとりは不定形に、あちこちへ‥‥。 この対談を「ほぼ日バージョン」でもお届けします。 映画と本と、合わせておたのしみください。 観れば観るほどややこしい。 ややこしいからおもしろい。 『夢売るふたり』は、すばらしいです。
 
第10回 観れば観るほどややこしい映画。
糸井 西川さんはいま、
プロデューサー的な立場で
作品をつくってはいないんですよね。
西川 ええ。
私はある意味すごく気楽なポジションで
やらせてもらっています。
作品の中身のことだけを考えてればいいっていう。

でも、そういう立場にいても、
いまの映画界を見ていると、
もっとちがったやりかたはないものかと
考えることはありますね。
糸井 それは具体的には?
西川 すごく大きく展開させるか、
すごくちいさくやっていくか、
両極端の選択肢しかないんです。
同時に、
ちいさくやろうと思っても
ミニシアターがどんどんなくなっていって、
シネコンだらけになって、
大きく展開せざるを得ないという流れもある。
なにか、そのフォーマットから
抜け出す方法がないかなぁっていうのは‥‥。
糸井 思いますよねぇ、それは。
西川 その方法については、
ちょっとずつ考えていきたいと思っています。
糸井 日本にはハリウッドのような
仕組みがないのも残念ですよね。
ハリウッドって、デビッド・リンチのような
アングラ系の監督を
飲み込んで起用していくじゃないですか。
あの仕組みが日本にはない。
西川 そうですね。
糸井 アングラだろうがおもしろければすくい上げる、
その選択肢がほとんどないっていうのは
残念ですよねぇ。
西川 ええ。
結局、大きくお客さんを呼べそうな
やり方に添わされてしまう。
糸井 だから、
マーケティングにしかすぎないんですよ。
西川 ええ。
それは作り手の本意ではないと思うんです。
‥‥とはいえ、
観てもらわないと映画にならない、
というのはあるんですけど。
糸井 この『夢売るふたり』なんかも、
まさしく観客に見方を要求する映画ですよね。
西川 どうやって観てもらうかについては、
大変ですね、こういうぐずぐずした映画は(笑)。
だれもかれもが見終わって100パーセント
「ああ、すっきりした」
と感じる映画じゃないですから。
糸井 「真実の愛に泣ける!」
みたいな描き方じゃないからね。
西川 ええ(笑)。
糸井 なんかね、もっと本当のことを言って、
観ることをすすめたいですよね。
西川 そうですねぇ‥‥。
糸井 たとえば、
「観れば観るほどややこしくなる映画です」とか。
西川 ‥‥ああー。
糸井 「ややこしいからすばらしいです」と。
西川 たしかに、本当のことです。
「観れば観るほどややこしい。
 ややこしいからすばらしい」
いいコピーをいただいてしまった(笑)。
糸井 そんなの、よかったら使ってください。
西川 ありがとうございます。
糸井 「ややこしいですよ」
と言われる映画に対して、
「だったら観ない」じゃなくて、
「え、じゃ、観ようかな」
と思う社会が来てほしいですよね。
西川 ほんとうに。
私自身、
観れば観るほどややこしくなる映画を観てきて、
それがすごく‥‥
糸井 おもしろかったんだよね。
西川 そう! おもしろかったんです。
そういう映画を観ながら大人になってきたから、
ややこしくて、
答えが出せないものを描くことが
自分の宿題になったんです。
糸井 ほんと‥‥映画って‥‥
日常言語だけを使ってるのに、
そんな高度なことを感じさせてくれるんだから、
すごいですよ。
論文でも何でもないわけでさ。
西川 映画はそうですね、
日常の言葉だけです。
糸井 すばらしいと思います。
日常会話だけですから。
西川 映画の不自由さとか、
それも含めての制約すべてが、
すごくおもしろいなぁと思っています。
小説を書かせてもらうこともありますけど、
やっぱり大きくちがいますね。
糸井 そうか、2種類やってるんだ。
西川 ええ。
でも、やっぱりまずは映画があるから、
小説もたまに書けるというか。
ストレス発散のし合いかもしれないです(笑)。
糸井 ああ、互いにできないことができますからね。
西川 はい。
糸井 だったら、いっそのこと、
ものすごく他人事をやるという意味で、
大河ドラマみたいなのをやるといいかもね。
西川 大河ですか(笑)。
糸井 西川美和、『徳川家康』を撮る! みたいな。
西川 むちゃくちゃですねぇ(笑)。
糸井 いまデタラメに言ったんだけど、
案外いいかもしれない(笑)。
政治とか合戦とかじゃなくて、
権力を持って何でも願いが叶うようになった人が、
女の人にどうやって接したんだろう?
とかさ。
権力を持った人を描くというのは、
西川さんの不得手そうなところだから、
やってほしい気がする。
西川 不得手だから(笑)。
でもそういう人の
私人としての顔っていうのは
また面白いかもしれませんよね。
糸井 それ、ほんとに観たいかも。
どうなるんだろうなぁ‥‥。
いよいよやると決めるときには、
レディ、セット、ゴーで(笑)。
西川 はい(笑)。
糸井 やあ‥‥おもしろかった。
きょうはありがとうございました。
西川 こちらこそ、ありがとうございました。

(ふたりの対談は、これで終了です。
 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
 映画・この対談の感想、お待ちしていますね!)

2012-09-15-SAT

まえへ
このコンテンツのトップへ