- 増田
- 去年ぼく、ニューヨークで
アーティストとしてデビューしたんです。
日本だとアートに価値を見てくれないから
勝負しにくいなと思って、
世界に行ってみることにしたんです。
それで世界中を眺めて
「アートのメジャーリーグってどこだ?」
と探したら、
いちばんすごいのはニューヨークだった。
そこから「よしやろう!」と思って
チェルシーのギャラリー街に
とにかく話を聞いてもらいに行きました。
- 糸井
- ええ。
- 増田
- だけど、ぼくはアメリカでまったく知名度がないので、
どこも話を聞いてくれないんです。
ただ、ある雑居ビルにある
3階の1室にある小さなギャラリーだけが
「おもしろそう。やってみない?」
と言ってくれて、話が決まりました。
そしてその、ものすごく小さなギャラリーで
『かわいいとはなんぞや?』みたいなテーマで
個展をやったんです。
これはメジャーリーグの最初だから、
作品の輸送費をはじめ、お金はぜんぶ持ち出し。
それで、真冬のマイナス十何度とかの中、
5人ぐらいしか入れない場所だったんですけど。
- 糸井
- うん。
- 増田
- ‥‥当日、お客さんが
1000人集まっちゃって。
- 糸井
- はああー。おもしろい。
- 増田
- ほんとにお金がなかったから、
告知はFacebookだけだったんです。
ただ、会期が近づくにつれFacebook上で
どうもファン同士がやりとりしてる。
と思ったら、当日早い時間から、
表にずらーーっと1000人並んでました。
それも、ぼくのファン層ということで
カラフルなファッションの子たちばかりかと思ったら、
まったく違う、アート層の人たちがほとんど。
彼らがどうしてやってきたかというと、
世界的に有名なレディー・ガガや
ケイティ・ペリーと通じるものを感じて、
「彼女たちの表現のルーツはこれなのかな?」
と思って見にきたらしいんです。
- 糸井
- そういうことなんだ。
- 増田
- 「日本人のよくわかんないのが来たけど、
もしかしたらこれなのかもしれない」
その感覚で、当日もう並んでる。
みんな、言語を超こえて、
ビジュアルで理解してくれたんです。
そのときはやっぱり
「最初にメジャーリーグでやってよかったな」
と思いました。
- 糸井
- ほんとだね。
- 増田
- しかも、アメリカっておもしろくて、
そのままフロリダ州マイアミの美術館が
「これはおもしろい」と言って
その展示を巡回してくれました。
デビュー作が巡回するなんて
ほんとにまれなケースらしいんですけど、
最後はイタリアのミラノまで行きました。
それでいま、その展示は
日本に帰ってきてるところなんですけど。
- 糸井
- すごい。
- 増田
- でも、最初のギャラリーは
ほんとにちっちゃいところだったんです。
廊下の先の倉庫みたいなところで。
- 糸井
- そこはやっぱり増田さんの運と、
「ここだ!」というカンのよさですね。
そして最初から、
巡回できるようなものをやってますね。
- 増田
- 狙ってたわけじゃないんですけどね。
だけど最初、ニューヨークで活動するにあたって、
アートマネジメントの人を雇ったんです。
そしたら開口一番、
「どれを売ればいいの?」と言われました。
自分はそこで初めて
「あ、売れるものを作んなきゃいけないのか」
と気づいたんです。
そしてそのまま
「四角くない」「丸くない」「壁が白くない」
って、さらに怒られた(笑)。
‥‥だけど
「そんな展示、ぼくは見たくない!」と思って。
- 糸井
- いやぁ、いいなあ。
- 増田
- 事前に想像がつくものは、いやなんです。
ぼくはただ「びっくりさせたい」だけ。
だから、とにかくみんなが
びっくりしそうなものを持っていっただけなんです。
- 糸井
- おもしろいなあ。
だから、いまの増田さんの展示で
「ニューヨークという場所で、
どのくらい成功するか計ってみよう」
みたいな中途半端なことをやってたら、
巡回が決まってないですよね。
あと、作品を売ってしまってたとしたら、
これもまた巡回してなかっただろうし。
- 増田
- ぼく、これはきっと
舞台の発想かなと思ってるんです。
- 糸井
- そうだ、大道具さんですよね。
- 増田
- ほんと、その発想なんです。
- 糸井
- いまの増田さんの姿勢なら、
その世界へのアプローチ、
これからもうまくいくでしょうね。
- 増田
- だといいんですけど。
ただ、このプロジェクトでは
まだお金を持ち出し中で、ぼくはいまもずっと、
通帳の残高ゼロみたいな状態を続けてるんです。
だからいまは日本で稼いだお金を
ぜんぶそこにつぎ込んでる状態です。
- 糸井
- ああ。
- 増田
- ただ、向こうはアートに対する感覚が、
日本人とまったく違うんです。
ニューヨークのブロードウェイに行くと
日本人は安い席から取るけど、
向こうの人は高い席から買う。
ショーの値段だって、
日本は高い席で1万2千円とかですけど、
向こうでたとえばシルク・ド・ソレイユだと、
5万円の席とかありますから。
- 糸井
- 値段はそうですね。
- 増田
- そして、シルク・ド・ソレイユにしても
ポールダンスにしても、輸入じゃないですか。
ぼくは日本から出していきたいんです。
いろんな人たちと手を組んで、
なるべくコンテンツを輸出できるようなことを
したいと思ってます。
- 糸井
- シルク・ド・ソレイユはぼく、
以前、見学に行ってるんです。
本部のモントリオールで、
トップの2人にも会わせてもらいました。
彼らの話も『成りあがり』に通じるものが
あるんですけど、
あそこの永ちゃん物語、おもしろいですよ。
- 増田
- へええ。
そこも「永ちゃん」なんですね。
- 糸井
- うん、おもしろいものには、みんな、
永ちゃんの要素がある気がするんです。
そこがなくて、
「なぜか人気出ちゃった」という人は
いない気がします。
- 増田
- そうなんですね(笑)。
- 糸井
- ‥‥あの、増田さん、突然ですけど、
うちのスペースでやらない?
「TOBICHI」って言うんですけど。
- 増田
- あ、ぜひぜひ。
やりたいです、ほんとに。
- 糸井
- うちのスペース、きっと
さきほどの話のギャラリーに
負けないぐらい小さいんですけど。
- 増田
- ぼく、場所の大きさとか
そういう問題じゃないんです。
自分がやりたいかどうかで、
スケジュールも気にせずやっちゃうから、
マネージャーにはいつも迷惑かけてるんですけど。
- 糸井
- (マネージャーのかたに)ごめんね。
- マネージャーさん
- いえ、わたしもすごくやりたいので。
とてもうれしいです。
- 糸井
- ありがとうございます。
展示は「6%DOKIDOKI」なのか、
「カワイイモンスターカフェ」なのか、
増田セバスチャン個人になるのか、
わかりませんけど。
ぜんぜん売り上げが出なくてもかまわないです。
お客さんが喜んでくれて、
なにか「やってよかったね」ってことが
あればいいんで。
- 増田
- はい、うれしいです。
- 糸井
- じゃあ、またその展示のことは
あらためて話しましょう。
- 増田
- よろしくお願いします。
(つづきます。)
2015-12-29-TUE