『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』『ニュータイプの時代』などの著者で、
「美意識」や「アート」といった切り口から
これからの時代を豊かに生きていくための
思考・行動様式を研究し続けている
山口周(やまぐち・しゅう)さんが、
「会社」についての話を聞きに、
糸井重里のもとをたずねてこられました。
大切に思う部分が似ているふたり。
仕事はもちろん、生きていく上での
「数値化できない部分」の重要性を
あらためて確認するような時間になりました。
ふたりのおしゃべりを、全7回でご紹介します。
- 糸井
- 会社について考えるとき、
「本当に重要なのって社長なのかな?」
というのは、すごく気になる問題で。
いまって、運転席に座る
「経営」という人たちが会社を動かしてると
思われすぎている気がするんですよ。
- 山口
- ああ、なるほど。
- 糸井
- あるいはスティーブ・ジョブズみたいな人が
やっていたことって、
あれは「経営」をしていたんだろうか。
それともいろんな場面で
「そうじゃなくてさ」と言う仕事を
していたんだろうか。
iPhoneが出たとき、みんなが
「そういう製品の可能性はすでに考えてたよ」
と言ったじゃないですか。
でも、そういうものを
「世界中の人が使うようになるぞ」と信じて、
美意識のもと現実に作っていくって、
もうアート行為というか。
- 山口
- そうですよね。
まあ、スティーブ・ジョブズはあとで
「全部自分が考えた」みたいなことを言うんで、
ややこしくなるんですけど(笑)。
会社の正式な記録を読むと、iPhoneの
アイデアを出したのって若手の人らしいんです。
むしろジョブズは最初、反対だったんですね。
電話ってちょっと「お上(かみ)」っぽい
イメージがあるじゃないですか。
アップルって「音楽好きで、反抗的で」みたいな
アーティストの道具を作るようなイメージの
会社だったんで、電話の会社になることについては
相当違和感があったみたいで。
ましてや
「敵であるWindows用のiTunesを作って、
どのコンピュータでも使えるようにする」
というアイデアなんて、
最初に提案した人はモノを投げられたらしいです(笑)。
でも、そこがあの会社の強さなんですね。
トップのジョブズも強烈な個性の人で激怒してるけれど、
会社のミドルの人たちもみんな、ジョブズの発言に
「絶対に電話をやるべきだ」って激怒してる。
- 糸井
- 面白いですね。
- 山口
- だから何度も喧嘩をふっかけて、大喧嘩になる。
それを「今日はちょっとこれで終わり!」って
みんなが引き剥がして。
iPhoneについても、そういうことを
ほんとに何年もやったあとで。
- 糸井
- 年単位ですか。
- 山口
- そうらしいです。
だけどジョブズがある日突然
メールを送ってきたらしいんですね。
「君のほうが正しい、電話はやるべきだと思う」って。
- 糸井
- はぁー。
- 山口
- そこから
「どうせなら世界があっと驚くものを作ろう」
となって、iPhoneが生まれるわけです。
でもそれも、ジョブズが案を認めてないときから
ずっと水面下で開発を続けてたから
できたことだと思うんですね。
- 糸井
- そうか、すごいな。
- 山口
- だから会社ってけっこう
「ガバナンス(経営の仕組み)があって、
指揮命令系統があって、経営系があって、
みんなビシッと動いてる」
みたいなイメージがありますけど。
いまの「経営者が認めてない製品の開発を
開発部門がずっと続けてる」という話なんて、
「それ、ガバナンスの不在なんじゃないの?」
と言われそうですよね。
でもたぶんそういうことがなかったら、
アップルはきっとiPhoneを出せてないんですよ。
- 糸井
- 普通ならチームのまま消滅ですよね。
- 山口
- だと思います。
だからやっぱり会社の中にある種、
ジョブズ以上に先見性を持った人たちが
たくさんいて、彼らの先見性をちゃんと
プロダクトに結びつけていった。
それがジョブズのすごさなんですけれども。
ただあの人は、製品が世の中に出ると
「自分が思いついたんだよね」とか
言っちゃうので(笑)。
アップル社内の人から聞いて面白かったのが、
ジョブズが
「これは俺が思いついたアイデアなんだ」
と言いはじめたら、みんながほっとするんだと。
「自分はほんとすごいのを思いついて」
となるともう覆ることはないんで、
開発部門の人たちは
「よかった‥‥。これで安心して開発を続けられる」
と安心したんだとか。
ほんとに気に入るともう
「自分が思いついた」と思っちゃうんでしょうね。
- 糸井
- つまり、会社としては
「ジョブズが反対していてもやる人たちを
集めた状態をキープしていた」
ってことですよね。
- 山口
- そうですね。
そういう人たちを集めていたし、ある意味で
「言うことを聞かないことが
ペナルティにならない会社」を作ったんでしょうね。
だから出る杭もいっぱいいて、
あれだけ強烈なキャラクターの経営者に対して
食ってかかる人もたくさんいたらしいです。
だけどそういう人たちを雇って、
その人たちがパーソナリティそのままに
働けるようにしていた。
そこがあの会社の、本質的な意味でのすごさというか。
- 糸井
- トップにいるジョブズも、
さきほど「ミドル」とおっしゃった社員の人たちも、
個人個人が「自分の幻影」みたいなものを
簡単に捨ててないというか。
なにかもっとそういうことができないと、
いまの社会全体の閉塞感みたいなものって、
変わっていかない気がしますね。
- 山口
- ああ、そうですね。
- 糸井
- いまって基本的に、個人が思いついたことって
「それは個人的すぎて誰にも通用しないよ」
と判断されることが多いと思うんです。
だからつい、みんなが忖度し合って
「100人が納得するものをまず作ろうよ」
みたいになるんですけど。
だけど現実には
「誰にも通用しないかもしれない俺だけの冗談を
投げてみたら、ずいぶんあちこち笑ったな」
みたいなことがけっこうあって。
- 山口
- いや、ほんとそうだと思います。
- 糸井
- それがやりたいですよね。
(つづきます)
2023-04-23-SUN
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