- 探検隊S
- 日本みつばちの藤原誠太さんとは、
そもそもどういったおつきあいなんですか?
- 塩野
- ぼくが最初に会ったのは、
たぶん35歳くらいだったと思うんだけど、
つまりそれはいまから35年前ぐらいのなのよ。
雑誌で「手業に学べ」のシリーズを
連載してたときだったと思う。
そのころ日本みつばちの生態は
はっきりしてなかったんだけど、
彼は日本みつばちの交尾をとらえることに
成功したと言ってた。
話を聞こうと思って会いに行ったら、
あちこち案内してくれて、
「この木のこの上で交尾があって」
なんて、とにかく一所懸命話してくれた。
おもしろいやつだったなぁと思ってね。
それが出会いです。
別の機会だったんだけど、
ぼくは山に
日本みつばちの蜜を採りにいったことがあります。
──これは、話をおもしろくするために
言ってるわけじゃないからね(笑)、
くまがさ、はちみつ好きでしょ?
くま、ほんとうに大好きなの。
日本みつばちってのは、もちろん野生で、
木のうろに巣を作るんだよね。
それがほしくてくまは、
毎日木に行っては、爪や牙でガリガリやる。
でも蜜は採れない。
彼らはのこぎりも斧も持ってないから。
- 探検隊T
- あ、そうか‥‥。
- 塩野
- 山を歩いてって、
「あ、あそこに蜜がある」ということは、
くまが教えてくれるわけ。
- 探検隊O
- 爪あとで。
- 塩野
- そう。くまのあとを見て、
人間は蜜のつまった巣をいただく。
くまのぶんも、ちゃんと残しておくんだけどね。
そこからが、また大変。
採ってきた巣から蜜を採るのが
難しいんだよ。
西洋みつばちは巣箱に設置されている枠に
蜜がたまっているから、そこから引き出して
遠心分離器にかければ採れるでしょう?
あれができないもんで、
巣ごとつぶしたり、絞ったりしてさ。
- 探検隊S
- たしか、吊るした巣から蜜を垂らすように
採ったりするんですよね。
- 塩野
- だから「大吟醸のしずくを一滴一滴」ってくらい
面倒なんだよ。
まるごと巣をしぼるから、
にごり蜜は、花粉やらいろんなものが入ってる。
味もすごく複雑なんだよね。
- 探検隊T
- くまが食べるのと同じはちみつ。
なめてみたいです。
- 塩野
- 日本みつばちの巣のハニカム構造は、
西洋みつばちと比べて小さいんだって。
誠太は日本みつばちが住めるような環境を
西洋みつばちと同じように人が作れないか、
あれこれ研究したんだよ。
- 探検隊S
- 日本みつばちも、
巣箱で蜜が採れると
巣をこわさなくてすみますね。
- 塩野
- たしか誠太は、日本みつばち用の巣枠を完成させて、
そのおかげでたくさんの蜜が
採れるようになったんじゃないかと思う。
日本みつばちの養蜂をしている人たちが、
ものすごく一所懸命なんだって。
- 探検隊T
- すごいな。
藤原さんに、そのあたりのこと、
じっくり聞いてきます。
日本みつばちだけじゃなく、もちろん
西洋みつばちの単花蜜も
たくさん扱ってらっしゃるようですね。
- 探検隊O
- さっきからちょっと気になってるんですけど‥‥、
これ、巣が入ってるんですか?
- 塩野
- 見えた?
これ、別にあなたたちのために
ここに置いてたわけじゃないんだけど、
これは蜂の巣の一部だよ。
- 探検隊O
- ひぃぃ。
- 塩野
- 危なくないよ、生きてないから‥‥いや、
これから生まれてくるんだよ。
- 探検隊S
- え? 「生まれてくるんだよ」?
- 塩野
- この中に、子どもが入ってる。
これから、蜂になって出てくるの。
- 探検隊T
- ホントだ! うにうに動いてます。
いまにも飛び立ちそう。
- 塩野
- だから、ふたはしめておかなくっちゃ。
大人になったとたん、刺すからね。
- 探検隊O
- 塩野さん‥‥こういうの、
いつも持ち歩いてるんですか?
- 塩野
- 蜂の巣だけじゃなくて、ほら、
家の中が見渡すかぎり
まるでごみの山のようになってるでしょ?
見つけると拾っちゃうんだよ。
趣味というより性分なんだけど。
- 探検隊T
- これも、あれも‥‥。
きれいなものばかり。
- 塩野
- 採ってきたものは、
フィールドノートにスケッチするなり
貼り付けるなりして記録します。
- 塩野
- 子どもの頃から抜けない癖なんだよ。
理科少年だったし、
いまは理科老人だね(笑)。
- 探検隊S
- はちみつも、その流れで。
- 塩野
- あのさ‥‥はちみつ屋さんって、カッコいいじゃん?
- 探検隊S
- すごくカッコいいです。
- 塩野
- 子どものときになりたかったものは、
灯台守と、はちみつ屋さんだった。
あこがれてたんだよ、
はちみつ屋さんとして旅をして歩く。
- 探検隊S
- あ、移動養蜂家ですね。
- 塩野
- そう。それか、灯台守。
漂泊か孤独、
どっちかがいいなぁと思ってた。
ぼくは幼いころから趣味がじいさんくさくて、
サボテンの栽培をしたりしてたんだけど、
夢のひとつに「蜂を飼う」ということがあった。
当時は、通信販売で──
もしかしたらいまもあるのかもしれないけど、
岐阜から女王蜂を送ってくれたんだよ。
その広告には、マッチ箱に入って
女王が家に来ると書いてあった。
(※じっさいには、女王だけでは不可能で、
1万匹単位の蜂の家族を用いないと養蜂はできません)
すごくやりたかった。
だけど、ここは冬が寒くて雪が多いし、
どうすればいいかわかんなかったから、あきらめた。
それが、ずーっと頭の中に残っててね。
だから、はちみつ屋さんを見ると、
フラフラとくっついて行く習性が(笑)、
あるのかもしれない。
とにかく、養蜂家はカッコいいから、
会うのたのしみじゃん?
- 探検隊O
- はい、とてもたのしみです。
-
(塩野米松さんの巻、おわり。
次はあんづえのおじいちゃんい会いにいく。
秋田の古語ってなんだろう)
はちみつに「品質」はあるの?
巣から採れる自然のはちみつには、
糖、ビタミン、ポリフェノール、
有機酸、楮、アミノ酸、ミネラル等の栄養が
たくさん含まれています。
しかしこれは基本的に、
非加熱の生はちみつに限ります。
市場に出まわっているはちみつの一部には、
糖度をあげるために熱処理をされ、
本来の健康成分が失われているものもあります。
また、糖分などが添加されているものもあります。
はちみつのラベルにある品質表示だけでは
この判断ができないので、
「生」「純粋はちみつ」とうたっているものや、
信頼できるはちみつ店での購入をおすすめします。
(こたえ:藤原養蜂場 藤原誠太さん)
2017-11-01-WED
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN