素材もかたちも「あたらしい定番」を。 MITTAN主宰・三谷武さんインタビュー

男性にも、女性が着ても似合う
ユニセックスなデザイン。
そのルーツは、世界のあちこちにのこる伝統的な衣服や布。
その歴史をひもとき、あらたな解釈をくわえた服は、
カジュアルにも着られますし、
ハイファッション、ハイブランドとあわせても
ひけをとらないかっこよさがあります。

2021年~22年秋冬のコレクションから、
代表的なアイテムについて、
代表の三谷武さんに解説をしていただきました。

中わた刺し子織のジャケットとコート

──
では、新しいアイテムについて
それぞれのお話を聞かせてください。
まずはこの中わた刺し子織、
ほんとに平面的なんですけれど、
撮影でATSUSHIさんに着ていただいたら、
ちょっと東アジアのムードを感じて、
とても格好よかったですね。

中わた刺し子織ジャケット(灰)

三谷
これ、着る人ですっごく印象が変わるんです。
以前にご紹介いただいた、兵庫県西脇市の「遠孫織布」さん
で織ってもらっています。
──
布も、中わた入りで、キルトみたいな感じで、
ちょっと懐かしい雰囲気を感じました。
三谷
そう、キルトっぽいですよね。
素材のお話をすると、まず布が3重構造なんです。
表と裏は、どちらも経(たて)糸は綿なんですけれども、
緯(よこ)糸が、
表はウールの梳毛糸っていうきれいな糸で、
裏面はシルクノイルっていう絹の糸です。
もうひとつ、表からも裏からも見えない真ん中の層に、
ウールの緯糸が渡っているんです。
経糸がなくて、織られていないんですよね。
そういう三重構造を、シルクの刺し子の糸で止めて、
一枚の布に仕上げているんです。こちらの刺し子は
手ではなく、織りで表現されているんですよ。
──
三重で、それぞれが違うんですか。
刺し子で止めているから、
キルトみたいな凹凸ができるんでしょうか。
三谷
これがなんでボコボコしてるかというと、
縮絨をかけていて、この3つの層のそれぞれが、
縮み方が違うからなんです。
表のウールの糸は防縮なので縮まない。
裏面のシルクの糸は、若干縮みます。
で、中面のウールの糸がいちばん縮むんです。
それで独特な凹凸が出ます。
──
見えないところの糸が働いている。
三谷
中は、あたたかみのある、ちょっと粗野な糸です。
シェットランドとか、ブリティッシュウールと呼ばれる、
毛がちょっと硬めで太めな種類の羊の糸と、
ニュージーランド産の羊の糸を混ぜたものが、
真ん中の層の緯糸に入っています。
ちょっとふっくらしていて、
単糸という糸の状態もあって、縮みやすいんです。
そういう原理を応用して作っている素材ですね。

──
生地そのものも三谷さんの設計なんですか?
三谷
そうですね、これはオリジナルで作ったものです。
この表情は、化学的な加工とかではなくて、
自然の作用だけでできてるんですよ。
面白い素材ですよね。

軽量ウールニットブルゾン

──
ニットの、軽快なアウターです。
前あきでスナップボタンがついてるので、
出先でも、脱ぎ着がスマートにできます。
MITTANのニットのファンは、
プルオーバーに加えて、こういうものが欲しかった!
というものじゃないかなって思います。
それにこれ、本当に軽いんですよね。

軽量ウールニットブルゾン(生成)

三谷
丈が短めで軽くて着やすいっていう、
僕もこういうものが作りたかったんですよ。
これは素材の糸に特徴があります。
標準的な糸よりも30パーセント軽くて、
空気が入ってるので暖かさは20パーセント増しです。

こちらは、改造した梳毛紡績機を使用して
空気層を多く含むかさ高の糸になってます。
だから軽くて、空気がたまるから暖かい。
この手のアイテムって結構重いんですけど、
これは本当に軽く仕上がっています。
糸作りは以前にご紹介いただいた「I.S.T」さん、
編み立ても以前にご紹介いただいた「金泉ニット」さんです。

軽量ウールニットブルゾン(灰)

──
アイテム自体が重いと、伸びたりしますけれど、
この軽さなら、型崩れもしにくそうです。
編み地も表情があって面白いですね。
三谷
これ、ワッフル編みっていうんです。
この編み方だともっと空気が溜まるので、
暖かく着ていただけます。
切り替えのところはガーター編みです。
アクセントになりますし、
つなぎ目がスッキリ仕上がるんです。
パターン自体は、いつものMITTANらしい、
本当に平面的なデザインです。
──
それゆえ、着る人で印象が変わりそうですね。
長い期間着られそうで楽しみです。

ラップパンツ

──
これは、普通のパンツに見えるんですけど、
おもしろい構造ですよね。
ファスナーもないし、着方がちょっと難しいかな、
と思われそうですが‥‥。

ウールコットンラップパンツ(茶)

三谷
いえ、難しいことはありません。
バックルの扱いがわかってしまえば、
簡単に脱ぎ着ができるんですよ。
バックルを持って引っ張ると、スーッと動いて、
固定すれば、もう動かない。
最初は固いですが、だんだんスムーズになります。
これは、東南アジアの民族衣装から発想をしたんです。
──
なるほど。ウエスト周りのかたちも面白いです。
三谷
そうですね。最初、戸惑うかもしれません。
お好きにアレンジしていただいていいんですけど、
基本の履き方としては、
ベルトが出てるところを頂点にして、
たたんで、余ったところをグッとしばる。
これだけなんです。
──
それで、かたちが決まるんですね。
素材は、ウールデニムとウールコットン。
三谷
ウールデニムは、デニムの産地で作ってもらった生地です。
経糸が綿で緯糸がウールになっています。
デニムの織りなので表には綿糸がたくさん出て、
裏、つまり肌にふれる部分には
ウールの糸が出るので、あったかいんですよ。
しかも、縮絨して目が詰まってるので
風を通しにくく、かなりあったかいです。

ウールコットンデニムパンツ(灰)

──
ウールコットンが、黒と茶色の2色。
この生地はどんなものなんですか?
三谷
尾州で織っていただいたウール生地で、
ちょっとスーツっぽい感じの素材です。
尾州は愛知県の尾張西部から岐阜県の西濃あたりで、
スーツ地のほかコート地にも使われるウールの産地です。
これは、経糸がウール、緯糸がコットンですね。
こっちは経糸のウールが表に出てて、
裏がコットンなのでチクチクしにくい。
2重構造ではなくて、綾織りです。
デニムの裏表の色が違う、みたいな感じです。
──
この生地を選んだのはどういうところから?
三谷
このくらいの糸の番手のウールコットンの生地って、
目が詰まっていて、秋冬、真冬でも
ちゃんと着られる素材なんです。
ラップパンツのデザインを、
この生地と、組み合わせたかったんです。
──
メンズスーツに使われるようなかっちりした素材と、
民族衣装がルーツのデザインが融合している。
東南アジアとおっしゃいましたが、
モデルのKIKIさんが実際に着た姿を見たときに、
とてもヨーロッパ的な印象を受けました。
彼女の個性でもあるのかもしれませんが、
素材のせいだったのかもしれませんね。

ウールコットンラップパンツ(黒)

三谷
面白いですよね。
この生地は、最初はカチッとしてますけど、
着ていくうちになじんで、動きやすくなりますよ。

ベビーカシミヤのセーター

──
セーターでは、ベビーカシミヤが
今回、初めての登場なんですよね。
MITTANのセーターは毎年人気なんですが、
ベビーカシミヤ素材も魅力的ですね。
三谷
この素材、本当にいいものなんですよ。
ベビーカシミヤっていうのは、
生後1年未満のカシミヤヤギのうぶ毛で、
それを100パーセント使っています。
産地は内モンゴルです。
繊維のクオリティの基準に当てはめると、
まず、すごく細いんですよ。
昨年のウルグアイの羊のセーター、
あれもかなり細い繊維なんですけれど、
このベビーカシミヤはそれより細い。
できあがったセーターは、軽くて、
柔らかくて、なめらかなんですよね。
こちらも先述の「金泉ニット」さんで
編んでもらっています。
──
肌ざわりがいいんですね。
毛玉はどうですか。
三谷
僕、去年、サンプルで作ったのを着てたんです。
もちろん全く変化しないわけじゃなくって、
ちょっと毛が立つ感じはあるんですけど、
硬い毛玉がたくさんできるわけではないですね。
厚ぼったくないので、Tシャツのように
素肌に着るとすごくいいんですよ。

ベビーカシミヤタートルセーター(薄灰)

──
ベビーカシミヤを素肌に! 
すごく気持ちよさそうです。
デザインはごくシンプルですね。
三谷
前後の差がないので、前後なく着られます。
交代で着れば、ひじのあたりのくせもつきにくい。
ホールガーメントで編んでいますから、
脇や袖下の縫い目もありませんし、
ストレスなく着ていただけるはずです。
──
タートルで首回りも暖かいですし、
チクチクしないのがうれしいです。

ストール

──
このストールは、MITTANの定番アイテムなんですね。
三谷
そうですね、もう5年くらいやっています。
ずっと長いこと「遠孫織布」さんで作ってもらってます。
経糸はコットン、緯糸がウルグアイの羊のウールです。

ウルグアイの羊のストール(紺茶)

──
ウルグアイの羊。
いい素材ですよね。
三谷
ウルグアイの羊のことは、前にご紹介いただいて、
わかってくださってる方も多いと思います。
今回選んでいただいた色が、白菫と紺茶ですね。
──
両方とも冬のアクセントになるような色ですね。
陰影っていうか、混じり具合が面白いんですよ。
三谷
白菫、すごくいい色です。
紺茶も、緯糸に複数の色を使っていて、
綾織りということもあって複雑に見える。
色に奥行きがあるんですよね。
──
かたちも、ちょっと独特です。
このボコボコしてるのは縮絨なんですか。
三谷
そうです。
これは、量産されるストールの縮絨と違って、
織りあがったら、生地をカットして、
ほつれないように上下にステッチを入れて、
それから縮絨にかけます。
かたちにして、ひとつずつ縮絨にかけるので、
大きさも表情も、ちょっと個体差があるんです。
──
平らにおさまらなくて、まるみがあって、
なんだか、かわいいですよね。
三谷
いびつな感じがすごく気に入ってるんです。
縮絨って、簡単に言えば洗ってるだけなんです。
それでもこんなに柔らかく仕上がるのは、
やっぱり羊の繊維のおかげなんですよね。

ウルグアイの羊のストール(白菫)

──
この冬も、MITTANのアイテムで暖かく、
おしゃれも楽しくなりそうです。
ありがとうございました。

(おわり)

2021-11-29-MON