久納鏡子さん(plaplax)

心に引っかかったものを
とりあえず入れておく外部記憶装置。
 
メディアアートの分野で作品を作り、
企業やいろんな人とコラボレーションをして
アートを仕事にできている久納鏡子さん。
大学では国際政治を学ぶ予定だったのに、
がらりと方向転換をしてメディアアートを学び、
厳しい環境の中でアイディアを生み出してきた
久納さんのほぼ日手帳を見せてもらいました。

最初に作品を作ったのが90年代の後半だから、
かれこれ、20年近く活動してることになるのかな。
大学を出てしばらくは個人で活動していて、
なんとなく続けられたらいいなぁと思っていたのが、
だんだん仕事にもなったんです。
私が活動しているplaplaxという
アートユニットは会社でもあるのですが、
個人だと仕事を受けられないことが出てきて、
会社にした経緯がありました。

 

 

展覧会などを見て仕事をいただくこともあるんですが、
なんだか不思議なこともあるんですよね。
たとえば、ある日、1本の電話がかかってきたんです。
「うちに展覧会ができそうなスペースがあるんですけど、
 なんか展示しませんか?」っていう。
最初、その謎発注はなんなんだ?って思いましたね(笑)
個人のお宅なんでしょうけど、
「よくわからないから、とりあえずお話聞きます」って
その方のお家を見せていただいたら、
すごくおもしろいお家だったんです。
建築家の自宅で、部屋が両サイドに寄せてあって、
真ん中がズドーンと3階分くらい抜けていて、
そこに1本の木が生えているんです、屋内なのに。
そんな不思議なお家で展覧会をしたいって言われたけど、
一度に10人くらいしか中に入れないんですよ。

 

 

その建築家のご夫婦と、いろいろ相談して
その家の照明システムを使った
パフォーマンス的なプランを考えました。
真ん中の木を中心に、照明の照度を下げていくと、
木の周囲が家の中に見えたり、
外の広場のように見えたりするんです。
昼間から夕方、そして真夜中の風景を作り、
映像と組み合せました。
1回15分ぐらいの、その家の1日の風景を見せる
予約制のパフォーマンスです。
1日5公演で、5日間ぐらいやりました。

 

 

このイベントをたまたま見に来ていた
ゼネコンの設計の方から、
「今、病院の案件をやっていて、
 一緒にやれるとおもしろいと思うんですけど」
って言われて、その後お仕事がはじまったりとか。
なんか、前置きが長くなってしまうほど、
ひょんなきっかけでお会いして、
お誘いを受けることもあるんですよね。

 

 

私は慶應SFC(湘南藤沢キャンパス)を出ていて、
そこの2つの学部はそれぞれ専門が違うのだけど、
基本的に、コンピューターと外国語は
全員が学ぶような学校でした。
コンピューターを使ったアートや音楽の授業もあり、
教授の一人で藤幡正樹さんという
メディアアートのパイオニアの方がいて、
授業を受けたのがこの分野にふれたきっかけです。
でも、私はそもそも、
SFCに国際政治を学びに行ってたんです。

 

 

もともと政治学を専攻していたのに、
半必修で取らなきゃいけなかった
コンピューター系の授業がおもしろくなって、
3年生の時に藤幡さんのゼミに入ったら
その世界から抜けられなくなってしまって。
当時は、アートのことはほとんど知らなかったので、
「それで、君はどういう作家が好きなの?」って
先生に聞かれても作家なんてよく知らないし、
「どうしよう、ゴッホとかしかわからない‥‥」
「この人は、なんてことを聞くんだろう」って
焦ったことをよく覚えてますね。

 

 

私がいたのは政治経済系の学部だったので、
学んだ知識も全然違ったんです。
情報科学系の学部の人たちは、
もうちょっと芸術分野のことも勉強してたのに、
私は本当に何も知らなくて、
おもしろいと思ったのはいいけど、
無謀な路線変更でした。 
作品の扱いかたもわからなかったので、
先生の荷物をちょっと動かして怒られたとか、
総合大学なんだけど美大生と
同じような感じで指導されるので、
厳しいなぁと思うこともありました。

 

 

大学を卒業しても、まだ下地ができてないなと思い、
そのまま2年間大学院に残って、
その後も、大学の研究所などで仕事をしながら、
たまに自分の展覧会があると、
ちょっと休ませてもらったりして。
このまま続けられるといいなと思ってたら、
今みたいに仕事になっていったという感じです。
もう学生とはほど遠いはずなのに
学生みたいな徹夜をしなきゃならない時もあって、
展覧会のオープニングなのに、
みんなひどい顔でお客さまを迎える、
そんなこともあったりしますね。

 

 

ほぼ日手帳は、使ったりやめたりしていましたが、
2011年版からはずっとWEEKSを使っています。
仕事のアイディアは大きく書きたいんで
大きなノートをメインにしてるんですけど、
それと併用できるものがいいなと思って。
やらなきゃいけないことを整理するのに
使っているぐらいで、他の人に比べると
使い方としては面白くないかもしれません。
書くことは本当にもうなんでもありで、
いまになって読み返してみると、
「これ、なんだろう?」っていうメモもあります。

 

 

作品のアイディアを考えていたんだろうけど、
あんまりよく覚えてない‥‥。
「光によって動く虫」を作ったらおもしろいとか、
そんな感じだったと思いますけど、なんだろう‥‥。
アイディアって、必ずしもその時だけ考えるんじゃなく、
「後でどんどん膨らむかもしれないじゃない?」って、
思ってるところがあるので、
その週以外の所に書いたりすることもよくあります。
この絵は大阪府立母子保健総合医療センターという
病院の空間演出について
考えていた頃に描いたものですが、
新しく建てられる手術棟のための絵なんです。

 

 

手術室の手前からICUまで、
広い範囲で空間演出をさせてもらいました。
建物のテーマが「町」だったので、
元気になるためにちょっと不思議な町に行って、
元気になって帰っていくことをイメージしました。
患者のお子さんたちって、
ストレッチャーに乗せられて
上方向を見る機会も多いので、
上下反転しても成立する形にしようと
いろいろなパターンを考えました。
ちょっと不思議な町の景色になるように、
山とか建物が抽象的な形をしています。

 

 

手帳って、ふっと思いついちゃった時に
書けるものだからいいんです。
その時に、小さくて軽いっていうのはすごく大事で、
それで使っているんですよね。
あとで思い出せるかわからないんだけど、
私にとって、外部記憶装置になっています。
自分の見たものとか、心に引っかかったものを
とりあえず入れておく箱みたいなもので、
「その時やらなきゃいけないリスト」は、
短期記憶の領域を使うみたいに、
一時的に使ってあとは忘れてる。

 

 

最近私たちが取り組んでいるのが、
人々のイメージの中にある自然をテーマにした
「イマジネイチャー」と呼んでいるプロジェクトです。
いわゆる「自然」って、
自然科学的な分類で考えがちです。
でも、もっと直感的に捉えてることってあって、
そのヒントは子どもの頃の記憶や、
心象風景の中に隠れてる。
たとえば、生き物がカッコよく見えるときに、
4本足の動物でも、6本足の昆虫でも、
足のある生き物として並べてみると
なぜカッコいいと思うのか、見えてくるかもしれない。
あるいは河原に行って、たくさんある石ころの中で、
丸くてすべすべしたお気に入りの石を見つけて
持ち帰っちゃうのはなぜ?
ってことを考えたりするんです。
宝石でもない、ただの石ころに心が魅かれ、
しかも「あぁ、わかる、わかる」って
みんなが思うのには理由があって、
そこには人類が共通に持っている
石に対するイメージがあるんじゃない?
それはなんなの? そんなことをよく考えているんです。

 

 
 
久納鏡子さんの「LIFE is…」
宿題

 

仕事でも作品を作る時でも、
アイディアを考えたり、
いろいろ準備しなきゃいけないのに、
それがうまくできない時には、
宿題を抱えてる小学生みたいな感じなんですよ。
「あぁ、すべてほっぽってどこかへ消えてしまいたい!」
っていう気持ちになった時に、
仕事と思うとつらいけど、
宿題であれば夏休みの小学生みたいで笑えるので、
ある時から、宿題だと考えるようにしました。
ちょっと恥ずかしいですけれど。
私の場合、仕事と好きなことが分離してなくて、
LIFEそのものみたいな気がしますね。

*2015年5月8日時点

 



大林計隆さん(ぴあ株式会社)

仕事もプライベートも演劇。
だから、チケットが人生の記録になる。


中村優さん(40creations代表)

おばあちゃんの台所を訪れて、
笑顔とレシピを記録する。


靏田俊介さん
(相談家具屋ウッドワークセンター)

嬉しいこと、悔しいことを
あとで見返すための手がかり。

 

 

2015-07-01-WED