第1回手帳マンのスクラップ術
- ――
- 本日は、手帳について
いろいろとお話を伺いたくてやってきました。
みうらさんはこれまで使われた手帳を
ぜんぶとっておいてあるんですね。
- みうら
- はい。
僕の肩書き、「手帳マン」と書いておいてください。
使っていた手帳を捨てるなんて、
「手帳マン」にはあるまじきことですからね。
- ――
- 手帳マン(笑)。
- みうら
- 途中から、手帳の代わりに
スケッチブックを使うようになりました。
それも、百数十冊ありますよ。
またいつか、ほぼ日で
スケッチブックの特集をすることもあるでしょう。
そのときのために、今回は出さないでおきましょうね。
- ――
- ありがとうございます。
ここに出していただいたものだけでも、
相当な量です。
- みうら
- 30年分くらいはあるんじゃないかな。
手帳の原点といったらやっぱりこれ、生徒手帳ですね。
生徒手帳はほぼ日手帳より前からありますからね(笑)。
- ――
- たしかにそのとおりです(笑)。
- みうら
- 小学校のときはみんな、手帳なんて持ってませんから。
中高生が大人になった気分で持つのが、
生徒手帳ですね。
- ――
- 大人になってからは、
どんなふうに手帳を使っていらしたんですか?
- みうら
- 基本、思いついたことを書きつけていますね。
ああ、このときは「極附弁当」食べたんだ。
東京駅で、当時3800円の弁当を食べて、
うれしかったんでしょうね。
そのときのシールが貼ってあります。
- ――
- 本当ですね。
でも手帳になにかが貼ってあるのは、
このお弁当のシールくらいですね。
- みうら
- 手帳にはあまり貼ってないですね。
でもね、映画手帳と日記がまた別にあって、
そっちには映画の半券だとかをよく貼ってあります。
- ――
- 最近、ほぼ日手帳に
シールやチケット、写真など、
いろいろと貼る方が増えているんです。
- みうら
- ほぼ日手帳だとサイズが大きいから、
たくさん貼れますもんね。
- ――
- そこで、「貼る」といえば、
スクラップをずっとやってらっしゃるみうらさんに
貼るときのポイントなどをお聞きしようと。
- みうら
- あと5冊でついに500巻です。
ついにラストスパートに突入しました。
僕がやっているのはエロの方面なので、
ここでお見せすることはできませんけども。
- ――
- はい。
内容はさておき、今回はスクラップの極意を
教えていただこうと思って。
- みうら
- 50年以上スクラッパーをやってきましたけど、
とうとう注目される時代がきましたね。
- ――
- スクラッパー。
スクラップをする人のことですね。
- みうら
- そうです。
スクラッパーっていったら、ぼくと、
大竹伸朗さんくらいじゃないですか。
- ――
- 美術家であり、
みうらさんの大学の先輩でもある、
大竹伸朗さん。
- みうら
- はい。
大竹さんは唯一のスクラッパー仲間なんです。
以前、大竹さんにお会いしたとき、
スクラッパーの苦労を語り合いました。
湿気の多い日は気泡ができやすいとか、
紙が収縮したときにどうするかというような話を。
生まれて初めてでしたよ、そんなこと話したの。
- ――
- みうらさん、ふだんは
コクヨのスクラップブックに
貼ってらっしゃるそうですが。
- みうら
- そうです。コクヨの「ラ-40」です。
- ――
- 今回はせっかくなので、
ほぼ日手帳に
貼ってみていただきたいなと思っています。
- みうら
- わかりました。
ただ、ほぼ日手帳は紙が薄いですね。
だから、手帳としてはいいけど、
スクラップとしてはどうかなっていうのはあります。
こっちからしたら(笑)。
- ――
- スクラッパーからしたら。
- みうら
- はい。でもやってみましょう。
まず、何で貼るかが重要ですね。
セロハンテープは手軽に思えますが、
30、40年たつと黄ばんで、カリカリになって、
はがれ落ちることがあります。
それから、リップタイプの白い糊があるでしょう?
僕が中学くらいのときに誕生したんですけど、
あれも粘着力は強くないですね。
やっぱり、
1000年持っていられるもので貼らないといけません。
- ――
- 1000年。
- みうら
- そう、スクラッパーは1000年単位で考えてるんで。
よれたりはがれたりしたらもうおしまいです。
そうなると、いちばんいいのは
やっぱりアラビックヤマトです。
ただ、業界用語でいうと「べこつく」。
- ――
- 業界用語なんですね、「べこつく」(笑)。
- みうら
- はい。
そしてこのアラビックヤマトは
ふだんは均等にぬれるんですが、
残り少なくなったときに
ドバッと出ることがあるんです。
人間と同じですね。
人間も、加齢とともに変なところから
毛が生えてくるでしょう。
だから、残り少なくなったときには
気をつけてほしいですね。
- ――
- 何度も使いきった方ならではのアドバイスですね。
- みうら
- ほぼ日手帳くらいの薄さの紙に
アラビックヤマトを使う場合、
ある程度少なくなったら新しいものに買い替える。
余った糊を集めてもう1本つくる。
それくらいの気持ちでないといけません。
- ――
- 糊は適度な分量塗ることが大事なんですね。
- みうら
- そうです。
糊といったら、僕らが小学生のころは、
ボトルからさじですくうタイプでした。
その前は、日本人は米でものをくっつけていました。
米から糊へと進化したのを、僕は目撃してます。
- ――
- はい。
- みうら
- だから昔のお母さんたちだったら、
ほぼ日手帳にも米で貼っていたでしょうね。
だけど米もね、乾燥が速いんですよ。
時間がたつと、米とともにはがれ落ちます。
だから、米はすすめません。
- ――
- 米とともに‥‥。
- みうら
- 糊のつぎは、切るほうですね。
ハサミも愛用品です。
- ――
- カッターは使わないんですか。
- みうら
- カッターはね、
使ってはいけないルールがあるんです。
- ――
- ルールがある?(笑)
- みうら
- ええ。
スクラッパーに大切なのは、
きちんとすることじゃないんですよ。
気持ちを熱く伝えることです。
だから、いろんなものを貼ると、
とうぜん通常のほぼ日手帳よりもぶあつくなりますね。
そのぶあつさというのは、思いの熱さなんです。
それをきれいにカッターで切ったりするくらいなら、
もうパソコンで取り込めばいい話です。
スクラップは紙VS紙でやるわけだから、
アナログじゃないとダメなんです。
- ――
- ということは、
みうらさんのなかでカッターはアナログではなく、
デジタルなもの‥‥?
- みうら
- カッターは僕の中ではもう最先端です。
FAXの手前くらいにあるものです。
それにカッターは、手を切る。
これはよくない。
- ――
- はい。
ハサミにこだわりはありますか?
- みうら
- いまは安いハサミでもよく切れますから、
なんでもかまいません。
素人のときは、雑誌のグラビアなんかを切るとき、
裏側の文章を透かして、それに沿って切るんです。
でもだんだんプロフェッショナルになってくると、
まるでカッターかのように切れるんです。
それには30年くらいかかりますけれども。
もう工芸の世界なんです。
- ――
- 工芸の世界‥‥。
- みうら
- ただ、これだけ年月を重ねても、
「これを貼りたい!」と気が急いているときは、
ついついゆがんでしまうんです。
そこを、焦らず、落ち着いてこつこつ切るのが
まっすぐに切る最大のポイントです。
ていねいに切って、均等に糊を塗る。
それしかない。
スクラップには王道はないんです。
(つづきます)
2017-01-16-MON