第2回貼りたいときが、貼りどき。
- ――
- ふだんはこの場所に座ってスクラップ作業を?
- みうら
- 以前は場所にもこだわっていましたが、
もういまはどこでも大丈夫です。
場所を選ぶのは、アマチュアです。
でも、できればひとりになれる場所がいいですね。
そのために長年事務所を借りてきたんですから。
カーッときて、貼っているときが気持ちのピークなんです。
そのとき、ちょっと人に見せられるような顔を
していないと思います。
「鶴の恩返し」じゃないけど、僕はわりと
シークレットスタイルをとってきたんですよね。
- ――
- シークレットスタイル。
- みうら
- 新聞や雑誌を切り取るなんて、失礼なことなので、
怒られるんじゃないか、という気持ちもありますからね。
子どもの頃は、親父が会社から帰ってくる前に
夕刊を切り抜いていました。
親父はびりびりになった新聞を広げたもんです。
「いい加減にしろ、わしが読んでから切れ」と
何回も言われたんですけど、
わしが読んでから切るのでは遅いんです。
みなさんも、
切りてーぜ、貼りてーぜ、という、
2大“テーゼ”に突き動かされた瞬間に
やらないとだめです。
なにかを「ほぼ日手帳」に貼りたいと思っても、
家に帰ってから貼るのでは、
そのパッションが手帳に移らないですよ。
- ――
- タイミングも大事だと。
- みうら
- はい。貼りたいときが貼りどきなんです。
そこは、サロンパスとかと同じと思ってください。
だから、本当はほぼ日手帳に糊がついてるべきなんです。
- ――
- ああ、手帳と一緒に糊を持ち運びできるように。
- みうら
- うん。アラビックヤマトの細ーいやつが
ペン差しに入っていたりね。
もしくは、中をくり抜いて、1本入るようにしてないと。
- ――
- (笑)。
- みうら
- そして、意外と忘れがちなのが台紙です。
ぼくも3、4日遠出をするときに、
「貼りたくてしかたなくなったら困るから」と
リュックにいっぱい貼るネタを入れて、
ハサミと糊をもって出かけるんですけど、
夜中に貼ろうと思って気づくと、台紙がないわけです。
もういっそ、
台紙でできたTシャツを作ろうと思ったんですが、
たぶん俺しか買わないだろうから、
販売には至りませんでした。
- ――
- 残念です。台紙には気をつけます。
- みうら
- じゃあ、切っていきましょうか。
ほぼ日手帳は紙が薄いですから、
硬い紙のものを貼るといいですね。
この糸井さんを切ってみましょう。
(切り抜きながら)
髪の毛の部分を切るのを、
専門用語で「毛抜き」というんですけど、
ビギナーは毛抜きしやすい人を狙うべきですね。
糸井さんは毛抜きしやすい。
僕のように髪にカールがかかっていると難しいです。
そういうときは、背景を生かすのも手です。
- ――
- 輪郭ぴったりに切るのではなく、
あえてちょっと空間を残す。
- みうら
- そうです。
(切り抜きながら)
このね、耳が難しいんですよ。
ショートカットの人を切るとき、
耳のあたりを少し切り落としてしまうことがあります。
それはダメです。
たとえば糸井さんの顔を切っているとき、
耳が切れたら糸井さんが痛がると
考えないとダメなんですよ。
- ――
- (笑)。
- みうら
- 相手の身になるのがたいせつです。
- ――
- きれいです!(拍手)
- みうら
- やっぱり一番難しいのは人物ですね。
風景ごと切って貼るのもいいですね。
手帳に広がりが出ます。
- ――
- 本当ですね。
- みうら
- スクラップの基本は、露出合わせなんです。
露出が合ってないと、リアリティが出ない。
それから、時代もあっていた方がいい。
新しい写真の横に古い写真を並べてしまうと、
やっぱりどこか変ですからね。
時代を経ても変わらないもの‥‥
今回の素材のなかでは、味噌汁くらいですかね。
- みうら
- ほら、これで楽しい雰囲気が出来上がりました。
- ――
- ああ、楽しいです(笑)。
- みうら
- 「これ、何してんだろうな」って
想像力が広がりますよね。
二人のトークショーなのかなあ、って(笑)。
- ――
- 言葉を添えたりはしないんですか?
- みうら
- 添えますよ。
ふだんやっているエロスクラップは、
その写真とは違うところから
言葉をもってきて、添えます。
それだけで世界観が変わりますから。
言葉を切って貼るときのテクニックとして
いちばん注意しなくてはいけないのは、
裾を折ったジーパンをはかないことです。
- ――
- ジーパン、ですか?
- みうら
- 僕、ふだんはここであぐらをかいて
スクラップをやっているんです。
すると、切り抜いた言葉のかけらが
裾に入っていたりする。
以前、保育園に子どもをお迎えに行くときに、
それが落ちたことがあります。
すぐに僕自身が発見したからよかったものの、
それはもう、とても保育園にあってはならない
卑猥な単語が落ちていました。
だから、折り返しのあるズボンをはかないのは、
スクラッパーとしては当然の義務です。
みなさんはそんな卑猥な言葉を切り取らないとしても、
たとえば「ゲス不倫」とか書いた文字を切ってね、
何かの拍子に夫婦仲の悪い奥さんの前で落として、
「嫌味かしら」と思われたりとか、
そういう危険性もあるわけですから。
- ――
- そうですね。
- みうら
- では言葉を置いてみましょうか。
小さい文字のほうが、信ぴょう性がぐっと増します。
「あれ、この方、早稲田の名誉教授なのかな?」
って思うでしょ?
- ――
- 文字の力はすごいですね。
- みうら
- 肩にかぶせてもいいです。
- みうら
- もう「ああこの人、
でんぱ組に入ったんだな」と思える。
- ――
- レイアウトが重要なんですね。
- みうら
- そうです。
ここまできたらあとは貼るだけです。
貼るときのコツは、
すばやく均等に糊をつけるということだけです。
ほら、小さな体に大きめの顔をつけると
ぐんと楽しくなりますね。
僕の顔は味噌汁の具にでもしておきましょう。
- ――
- ああ、顔がひとまわり大きく。
楽しそうです。
- みうら
- ワクワク感がだいぶ出ましたね。
田舎でおいしい味噌汁を飲んでいる感じがします。
手帳だから、空いたところに
「今日は糸井さんと味噌汁を飲んで楽しかった」と
書くといいですね。
(つづきます)
2017-01-17-TUE