第3回手帳ネームのすすめ
- ――
- 何かを手帳に貼ったとき、
その横に書く内容については
みうらさんはどうお考えですか。
- みうら
- できれば、貼ったものによって、
思い出を勝手につくるといいですね。
- ――
- 現実には体験していないことでもいいんですね。
- みうら
- もちろんです。
僕は中学時代、日記を自宅の本棚に入れていました。
あるとき、どうやらオカンがそれを読んでいるらしいと
気づいたんです。
僕はいい子だったので、
それからうそを書くようになりました。
オカンがよく
「あんた、デートするような女の子おらんのかいな」と
言っていたので、
本当は一人で行った映画のことを、
さもデートをしたかのように書いていた。
それを見て、オカンはなんだか喜んでいたんですよ。
そのときに、よく考えたら自分なんてどうでもよくて、
人が喜ぶことがいちばんなんだって気づいたんです。
とくに両親は喜ばせたほうがいいじゃないですか。
だから、僕は日記や手帳には
つまらないことは一切、書きません。
“見られ前”で書いてますから。
- ――
- 見られ前?
- みうら
- 見られる前提のことですね。
家族や友人に見られたとき、
もしくは落とした手帳を誰かが拾ったときに、
「ああ、こいつ楽しそうだな」と思われたほうが
いいじゃないですか。
- ――
- はい。
- みうら
- 臨海学校がつまらなくても、
「すっごく面白かった」と書けば、
そんな気がしてきますから。
書くだけで、気持ちが上がりますよ。
- ――
- それはかんたんに実践できそうです。
- みうら
- もっと気持ちを盛り上げるために、
中身を工夫するだけでなく、
表紙をつくるのはどうでしょうか。
ほぼ日手帳ってカバーをかけるから、
表紙はずいぶんシンプルでしょう。
ここに陽気な写真を貼ったら、
その気持ちで一年やっていくしかなくなりますよ。
- ――
- その気になる、というのが大事なんですね。
- みうら
- ちょうどかっこいい写真がありますから、
貼ってみましょう。
(写真集を持ってくる)
- ――
- 写真集、切っちゃうんですか?
- みうら
- 本来は一冊の本として鑑賞するものですが、
これくらい景気のいい写真は
めったにありませんから、
せっかくなので貼ってしまいましょう。
- ――
- わあ、かっこいいです!
- みうら
- これを貼ることで、
「俺はデコトラの表紙の手帳で1年間やっていくんだ」
という決意が生まれる。
周りも、みんなこういう雰囲気の人だという目で
見るわけです。
ふだんカバーで隠れていても、
本人はわかっているわけだから。
これでもう、落ち込むことなんてないですね。
- ――
- これはやっぱり、
一年の最初に貼るべきでしょうか。
- みうら
- もちろんです。
これで、その一年の方向性が見えますから。
- ――
- 表紙が大事ということは盲点でした。
- みうら
- 表紙は大事ですね、やっぱり。
中はどうにかごまかせても、
エントランスだけはごまかせませんから。
- ――
- 迷っていてはダメですね。
- みうら
- そうなんですよ。
でも、こんないい写真に出会うことは
なかなか少ないですよ。
この表紙のために写真集を買うとなるときびしいです。
やっぱり1冊数千円しますから。
そこも含めた思い切りですね。
- ――
- はい。
- みうら
- それから、
ほぼ日手帳には名前を書く欄がありますから、
そこにペンネームを記入してもいいかもしれません。
「大豪寺虎男」みたいな名前を書いておいたら、
1年それでやっていくわけですから、
少々の悩みは吹っ飛ばせますよ。
- ――
- 手帳を書くときのペンネームをつける?
- みうら
- そう。
拾ったときに「早乙女さくら」って書いてあるのと、
「大豪寺虎男」と書いてあるのでは、
やっぱり手帳の中身が変わってくるでしょう。
「日帰り温泉に行ったのだ」って書いてあっても、
大豪寺虎男の手帳か早乙女さくらの手帳かで
見えてくる景色がだいぶ変わりますよね。
- ――
- はい(笑)。
- みうら
- 本当の芸能人だったら芸名は簡単に変えられませんけど、
一般の人は毎年変えればいいわけですから。
「今年はこうなりたい」という雰囲気の名前を
毎年考えてつければいい。
それが10年たまったら、
自分の手帳でありながら、
いろんな人の手帳ができるわけです。
- ――
- いろんな人の手帳(笑)。
- みうら
- 自分である必要なんてないんです。
「今年はこの名前でやっていくぞ」というのを、
書けばいいんです。
- ――
- 等身大である必要はない?
- みうら
- ないですねえ。
やっぱり落としたとき、読まれたときに、
どう思われるかが重要ですよ。
だから、手帳ネームをつけることで、
自分をプロデュースするんです。
最初こそ人への説明も大変ですけど、
友達もそのうち「今年はなんて名前にしたの?」って
聞いてくるようになるでしょう。
- ――
- 手帳ネーム、いいですね!
- みうら
- 昔、国語の授業で遭遇する
「河東碧梧桐」(俳人)とか、
どんな人かなと思ったでしょ。
「田山花袋」にもビビったじゃないですか。
カタイって名前の人が
『蒲団』って本出してんだよ。
蒲団って柔らかいですからね。
- ――
- (笑)
- みうら
- そういう名前って、ずっと印象に残ってるでしょ。
やっぱり、印象に残る人になりたいですよね。
まだ若い頃は自分を偽るなんてことは
なかなかできないですが、
ほぼ日手帳を買う人は、
それくらいのセンスはあると見ましたね。
- ――
- スクラップのことを伺おうと思ったら、
思いがけず新しい手帳の使い方が発見できて、
よかったです。
- みうら
- みなさん、手帳には自分のことしか
書いてはいけないと思っているでしょうが、
本当は何を書いたっていい。
自由なんですよ。
(おわります)
2017-01-18-WED