糸井

いや、しゃべりだすと、
いくらでもしゃべってしまいます。
なにか、質問があればどうぞ。

乗組員Ｂ

はい、それでは、
糸井少年とビートルズとの出合いについて、
うかがってもよろしいでしょうか。

糸井

最初はラジオですね。
当時の洋楽のヒットチャートというのは、
エルビス・プレスリーが残ってたり、
キャロル・キングが作曲した
『ロコ・モーション』が流れてたり、
そういう曲に混じって、
映画音楽がチャートインするような時代でした。
「第１位は『エデンの東』です！」とかね。
そんな時代に、ビートルズという、
イギリスでとんでもなく
人気のあるグループが現れた。
だからレコードをかける番組では、
取り上げざるを得ないわけです。
で、出てきたと同時に、
映画音楽まで入るようなヒットチャートで
いきなり１位から５位を占めちゃった。
第１位『抱きしめたい』、
第２位『Please Please Me』‥‥みたいに、
ビートルズがダダダダーッと並んでいるわけ。
しかも、実際に聴いてみると、
「どれを買っても当たりです」という状態で。

乗組員Ａ

それはすごいことだったんでしょうねぇ。

糸井

もう、ものすごいことでした。
ニュースを聴いて、毎週、びっくりですよ。
「なにが起こってるの？」って。
で、大人たちは
「変なのが出てきたな」って言ってる。
これはもう、レコードが出たら、
とにかくすぐに買おうと
身構えてたんです。

乗組員Ｂ

糸井さんが何歳のときですか。

糸井

中学の２年か３年かな。
だからもちろん、お金もなくて。
ビートルズを知る前に
自分で音楽を聴くっていうことははじめてて、
たしか、買ってもらった
ちっちゃいレコードプレーヤーを持ってたのかな。
あと、テープレコーダーは
高校に入ってから英語の勉強に使うからって
買ってもらった。
そんな時期にビートルズが出てきたものだから、
さあ、最初のレコードは何を買おうかと。

乗組員Ａ

日本盤が出るころって、
すでにイギリスでは何枚も出てるころだから
まとめて何枚かシングルが出てたんですよね。

糸井

そうそう、だから、どれにするか悩むわけです。
お金がなくて、１枚しか買えないからね。
それで、友達どうしで相談して、
「君が『Please Please Me』を買うなら
ぼくは『抱きしめたい』を買おう」
みたいになるわけで。

乗組員Ｃ

なんだかいいですねぇ（笑）。

糸井

それでぼくが初めて買ったビートルズが、
『She Loves You』ですよ。

乗組員Ａ

おおおーーー。

乗組員Ｂ

いいですね～。

糸井

で、『She Loves You』のB面が
『This Boy』だったんじゃないかな。

（※残念！ 『This Boy』は
　『抱きしめたい』のＢ面でした。）

乗組員Ａ

ああ、『This Boy』は、いい曲ですねー。

糸井

そうそう、だから、
Ａ面もＢ面もいいんですよね。
やっぱりＢ面って、シングル曲とは違う、
ちょっと地味な曲が入ってるからさ、
『This Boy』だと当たりなわけ。
だから、ええと、あの曲‥‥‥‥
あの曲がＢ面だった女の子がぼやいてたなあ。
「私なんか、Ｂ面これだよ」って。
ええとね‥‥あの曲‥‥
♪アイガッサムシントゥセィザッマイ
　ふんふふんふ～ん
　イフアカッチューふふふふ～ん♪

乗組員Ａ

あ、なんだっけ、それ。

乗組員Ｂ

なんでしたっけ、それ。

糸井

♪アムゴナレッチューダ～ウン～
　ふ・ふん・ふぅぅん～～

乗組員Ａ

あ、はいはいはいはい！

乗組員Ｂ

はいはいはい！

糸井

♪ビコーズアイトージュビフォー！

３人

♪You can't do that ～

糸井

『You can't do that』だ。

乗組員Ａ

『You can't do that』だ。

乗組員Ｂ

『You can't do that』だ。

乗組員Ｃ

あははははは。

糸井

アルバムの中で聴くと
ちょっと渋めのいい曲なんだけどさ、
シングルのＢ面として入ってると
ちょっとハズレ感があったんだろうね。

乗組員Ａ

あと、『You can't do that』は
アルバムに入ってるけど、
『This Boy』は入ってないから
そういう意味でも当たりかも。

糸井

そうそうそう。
だから、思い入れがある曲だね。
（ギターを弾くそぶりで）
じゃんじゃかじゃかじゃんじゃんじゃん♪
じゃんじゃかじゃかじゃんじゃんじゃん♪

３人

♪That boy～～～

乗組員Ｃ

いいなぁ、歌えて。

糸井

友だちとバンドを組もうってなったとき、
最初にみんなでやったのが、
『This Boy』だったんだよ。

乗組員Ｂ

おおー。

乗組員Ａ

けっこうリズムもハモりも難しい曲ですよ。

糸井

サビの「♪Oh, and this boy～」っていう
高い音が誰がいちばん出るか、
みたいな話になって、ぼくがいちばん出たんだよね。

乗組員Ｂ

おお、じゃあ、リードボーカルを。

糸井

うらやましいだろ。
その都合で、リズムギター担当にもなるわけ。

乗組員Ａ

つまりジョンの役ですね。
それが、中学のころ。

糸井

うん、中学２年か３年で。
高校に入ったときはもう、
「オレはビートルズになる！」って
みんなして思うわけで。

乗組員Ｃ

もう、そういう高校生ばっかりなんですか。

糸井

あ、それはね、じつは、違う。
音楽好きはみんなビートルズを聴いてたけど、
誰も彼もが聴いてるかというと、
じつはそうでもない。
たとえば『Hard Day’s Night』の
映画がやってくるわけだけど、
もう、ワーのキャーで、地方の映画館なんか
満員になるんじゃないかと思ったら、
お客なんかいやしない。

乗組員Ａ

え、そうなんですか。

糸井

ちっとも騒がれてなかったよ。
オリオン座っていう映画館だったんだけど、
ぜんぜんお客がいなくて、冷房も寒くてさ。
そんなところで、「ジャーーン！」。

乗組員Ａ

『Hard Day’s Night』の出だしの音です。

糸井

もちろん、自分自身は、
「わぁー！」って感動して帰ってきたんだけど、
ちょっと年上の姉ちゃんとかは
「あんなの観たんだ。好きだねえ」
みたいな反応で。
だから音楽を聴かない人にとっては、
わりとどうでもいいことだったんですよ。

乗組員Ｂ

クラスで何人くらいが聴いてる感じですか？

糸井

クラスで‥‥10人ぐらいかな。
だいたいのクラスメートは
舟木一夫とか、橋幸夫とか聴いてる感じで。
だから、「ビートルズも聴くよ」っていう人が
いちばん多かったんじゃないかな。

乗組員Ｃ

ビートルズだけに夢中！
っていう感じじゃなかったんですね。

糸井

で、高校になって、
東京から転校してきたやつが混じったりすると、
さらに話がややこしくなるんだよ。
「音楽的に高度なのはビーチ・ボーイズだ」
とか言い出すんだよ。

乗組員Ａ

ややこしい（笑）。

糸井

ややこしいんだよ。
で、さらにやっかいなことに、
エレキギターを買った人にとっては、
ビートルズじゃなくて、
ベンチャーズが台頭してくるわけ。

乗組員Ｂ

ベンチャーズ！

乗組員Ａ

あ、それは、課題として強い。

糸井

そうそうそう、エレキギターの課題として
ベンチャーズはわかりやすいんだよ。
結果、ビートルズのために買ったギターは
ベンチャーズを演奏するために使われることになる。

一同

わははははは！

糸井

『パイプライン』とか演奏しちゃうわけだよ。
しかも、なんていうんだろう、
ちょっと大人っぽく見えたりするんだ。
「オヤジなぶんだけ技術が確か」みたいにも
見えるんだよ、ベンチャーズは。

乗組員Ｂ

なんとなくわかります（笑）。

糸井

『急がば回れ』とか、やるわけだよ。
だから、『This Boy』ではじまったバンドが
気づけば『急がば回れ』をやっていたという。
もう、それこそが「急がば回れ」だよ！

一同

わはははは！

（つづきます）

2017-09-14-THU

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