やさしいタオルのなかに、
ほかと価格のちがうラインがあります。
それが「ボタニカル・ダイ」。
使う糸や、織り方にちがいはないのですが、
「染め」の工程でとくべつな染料を使っているから。
あらためてこの「ボタニカル・ダイ」のこと、
おしらせします。
最初は「色」への興味でした。
草木染といわれる、植物由来の染料で
色をつけた糸や布は、独特の発色があります。
それは化学的に合成した色とは「なにかがちがう」。
おだやかで、あたたかく、
なんだか呼吸がらくにできるような印象の色。
それをやさしいタオルで再現できたら──、
と考えたのが、はじまりでした。
でも、草木染は、天然染料ゆえに、色落ちもします。
毎日使うタオルの色をつけるには、不向き。
汗をかいたら移染しちゃった、というのでは、
タオルとして役に立ちません。
縁あって知りあった、天然染料を研究している
菱川恵佑さんの「シオンテック」では、
植物由来の天然染料をもとに、
化学的なアプローチも使うことで、
安定して定着させる方法を開発していました。
シオンテックのつくる色は、
私たちが「草木染」と言われて想像するより
はるかにあざやかで、はっきりとした、濃い色を
生み出していたのでした。
何も知らなかった私たちに
菱川さんが教えてくれたのは、
天然の色の複雑さ。
色は「反射」や「透過」によって
私たちの目に届くわけですが、
植物由来の染料は、光を乱反射する。
さらに、ひとつに見える色が、
実際は200くらいの色が混じった色である、
しかもその中には「見えない色」も混じっている、
というような「え? ええっ?!」なお話。
すごくざっくり言えば、
シオンテックの「ボタニカル・ダイ」は、
とても複雑な、深みのある色を
つくることができるのでした。
また、真っ赤な花を絞って色素を抽出しても、
それで染めた布が同じ色になるとはかぎりません。
でもボタニカル・ダイなら、
「理想の色」を植物から抽出して、
再現・定着させることができます。
「この色がほしい」という色を、
植物のなかから取り出すことができる。
魔法‥‥? じゃありません、化学なのでした。
ここでちょっと(理系ではなく)
文系のまじる話になりますが、
花に花言葉があるように、
東西古今の植物には、その土地、その時代につけられた
意味や謂れ、また、長い時間をかけた経験値によって、
効能も知られています。
毒になる植物もあるし、薬になる植物もある。
せっかくタオルに染めをほどこすなら、
「こんな赤」という見た目のイメージだけじゃなく、
「心がうきたつような赤」とか
「恋をしたくなるような赤」なんて考えたほうが楽しい。
そんなリクエストも、植物についての研究を続けている
菱川さんたちは、受けてくださったのでした。
ボタニカル・ダイのやさしいタオルを
つくった当初の、菱川さんへのインタビュー、
こちらからお読みいただけます。
質感も、やさしくなった!
そうして2012年からつくりはじめた
ボタニカル・ダイのやさしいタオルですが、
うれしい「おまけ」がありました。
それは、タオル自体が、ふっくら、やわらかくなること。
もとからふっくらしていてやわらかい性質なのですが、
それが、「あれっ?」と思う肌ざわりになったのです。
なぜか、を説明したいところですが、
じつはその理由は、わかっていません。
わからないのですが、なぜか、「よりやさしく」なる。
いちどボタニカル・ダイのやさしいタオルを使うと、
戻れなくなっちゃう、というひともいますし、
枕カバーがわりに使うなら絶対にボタニカル・ダイ!
というファンのかたもいるほどなんです。
原点回帰。シンプルな色を、植物で。
さて! 今回、ダブルガーゼ+パイルの三重織りに
リニューアルするにあたり、
ボタニカル・ダイのやさしいタオルも、
ぜひつくりたいと思いました。
それも、シンプルに、地味でもいいから、
落ち着いた、やさしい色のタオルを。
そこで私たちが選んだ色は、ベージュ。
肌、ことに顔にふれることが多いタオルですから、
口に入れても大丈夫な植物から色が生まれたらうれしい、
というリクエストも、つけくわえました。
候補にあがった植物の中から選んだのは、ジュニパー。
地中海地域を原産とし、ヨーロッパ、北アメリカ、アジア、
アフリカなど、北半球のほとんどの地域に自生する常緑樹で、
和名は「セイヨウネズ(西洋杜松)」といいます。
その実は、ジンの原料になることは有名ですが、
「人類が最初に発見した有用植物」とも言われ、
先史時代の遺跡からも出土しているとか。
(殺菌効果と芳香を、薫蒸に使っていたらしいです。)
古代ギリシャやチベットでは儀式や医療に、
(魔よけの効果も期待されていたとか!)
アメリカ先住民は風邪薬に、
天然痘が流行した19世紀のフランスでは
病棟でジュニパーの小枝を
ローズマリーの葉といっしょに焚いたそう。
ジュニパーに空気をきれいにする効果があると
いうことなのですね。
いまでもジュニパーの実は
ジンをはじめ、シャルトリューズ(薬草リキュール)、
ハーブティーやパテなどにも使われるため、
大きなスパイスショップでは販売されています。
今回のやさしいタオルのジュニパーは、
とてもおだやかなベージュ。
同じ染料を使っていますが、
ガーゼとパイルでは綿の種類がちがうので、
ガーゼはさっぱりと、パイルはこっくりと、
光沢のある仕上がりになっています。
(次回からは、ゲストデザイナーのデザインを紹介します!)