第5回 太りやすい人、太りにくい人。

高橋 ひとくちに「太る」と言いましても、
「太りやすい人」と
「太りにくい人」が、いらっしゃいます。
糸井 はい、いますね。
高橋 このことについて詮索した研究者が
アメリカにいるんですが、
「NEAT」(ニート)といいまして、
非常におもしろいコンセプトを、
お出しになっている。
糸井 みんなが知ってる「無業者」のほうの
「ニート」ではなくて。
高橋 ちがいます。
「Non Exercise Activity Thermogenesis」
の頭文字をとって「NEAT」。
日本語では「生活強度」とでも訳せるでしょうか。
糸井 生活強度、ですか。
高橋 ふだん、ふつうに生活している人って
そんな目を三角にして運動してませんな。
糸井 してないでしょうね。
高橋 実際、われわれがエネルギーを消費しているのは、
マラソンや重量挙げじゃなくて、
基本的に「日常生活」の活動を通じて、ですよね。
糸井 立ったり座ったり、という。
高橋 そうそう、一日のエネルギー消費のうち
その「立ったり、座ったり」の
「日常生活の活動」の部分に相当するのが
「NEAT」なんです。

糸井 ははぁ。
高橋 たとえば、
職種として日常的に立っていることが多い人は
座りっぱなしの人よりも、
エネルギーの消費量が多くなります。

具体的に言うと、「立ってする軽労働」の場合、
NEAT部分の一日のエネルギー消費量は、
1400キロカロリーほど。

もちろん、その他にも
基礎代謝で1000キロカロリー以上は必要ですが。
糸井 はい、はい。
高橋 で、そのような人のことを
「NEATが高い人」と表現するんです。
糸井 じゃ、デスクワークで座りっぱなしな人は、
「NEATが低い人」?
高橋 そうです。

おなじ「座りっぱなし」でも、
ちょこまか手を動かすのと、
ぜんぜん動きのないような仕事では、
差が出てきますけどね。
糸井 じゃあ、やはり
意識的に、立ったり、座ったり、歩いたり、
階段を登ったりしたほうが、
NEATが高まるということですね。
高橋 そのとおりです。

で、このNEATを提唱したアメリカ人は
さらに突っ込んで調査すべく
「痩せている人」と「太っている人」を集めて、
ある実験をしたんです。

どんな実験かというと、
8週間の間、毎日毎日「1000キロカロリー」を
オーバーロードするんです。
糸井 オーバーロードというのは‥‥よぶんに食べる?
高橋 そうです。

1日に1000キロカロリー余分に食べることを、
8週間、続ける。

今まで、1日に2000キロカロリー摂ってたら
毎日、3000キロカロリー摂取する。
糸井 うわー‥‥すごいというか、怖いですね。
高橋 でも、たくさん食べてるからといって
いつもやらない運動をしちゃうと
実験になりませんから、
ふだんの生活は、そのままキープします。
糸井 監視してるんですね。
高橋 つまり立ち仕事の人は、立ち仕事のまま。
座りっぱなしだった人も、そのまんま。

で、8週間、経ちました、と。
糸井 ‥‥はい。
高橋 結果としては、
「1キロくらいしか太らなかった人」と
「7〜8キロ太っちゃう人」と、
バラバラの結果が、出てきたんです。
糸井 それは‥‥なんでですか?
高橋 全員について
どのぐらいの時間、立っていて、
どのぐらいの時間、座っていて
どのくらいの時間、寝ているかをチェックしました。

そしたら、まぁ、予想どおりと言いますか、
「あまり太らなかった人」は
立ってる時間がすごく長かった人だったんです。

で、太っちゃった人は、ちょうどその逆。
座ってる時間が、すごく長かった。
糸井 ははー‥‥。
高橋 そういう結果を受けて、人間のなかには
生来的に
「立ちがちな人」と「座りがちな人」が
いるんだろうと、
このNEATの研究者は、考えたんです。
糸井 ええ、ええ。生まれつきに。
高橋 ようするに、
座りがちな人、つまりNEATの低い人が
太ってるんだろうし、
立ちがちな人、つまりNEATの高い人が
痩せているんだろう、と考えた。
糸井 ‥‥今後、あらゆる場面で
人が「立ちがち」になる可能性が(笑)。
高橋 つまり、この研究者が導き出した結論は、
「肥満に対抗するには、
 意志を持って
 NEATを高くすべきである」と‥‥。
糸井 なるほど。
高橋 そういうことになります。

確かに「立つ」という行為には
何らかの意思が必要です。
つまり、何らかのことを考えているわけです。
糸井 なるほど、頭も使ってるんだ。
高橋 その一方で「座る」について言うと、
もちろん「考えてる」ことだってありますが
ぼんやりして、
パソコンをカチカチやってても、
まぁ‥‥バレやしないですよね。
糸井 ええ、たしかにそうですね。
高橋 つまり、ぼんやりしてるだけで
脳を働かせていなくても、
「座る」という行為は、許容されてしまう。
糸井 周囲からね。うん、そうですね。
高橋 ‥‥というふうに考えてくると、
少なくとも「肥満」の問題について言うなら、
NEATの高い人のほうが、
絶対にいいのは、確かだということです。

たとえば、糸井さんが太らないのって、
NEATが高いせいなんですよ。

まあまあ、どう表現すればいいか
わからないけど、
いろいろ考えて、ちょこまか動き回るから。
糸井 うーん、自分では
座りがちな人間だと思ってるんですけど‥‥
そうなのか。
高橋 まぁ、立ち仕事ほどではないにしろ、
座っていても、あたまを使って考えてれば
NEATは高くなります。

ただね、
そうやってNEATの高い人のほうが、
絶対にいいのであれば
進化の過程において、
過去になぜ、
そういう「セレクション」が起きなかったのか。
糸井 つまり、なぜNEATの低い人が、
淘汰されなかったのか‥‥という意味ですね?
高橋 理由はさまざまあるんでしょうが、
ともかく現実には、淘汰されていない。
糸井 実際、となりの席に「座ってる」し。
高橋 つまり、生来的に「座りがち」である
それらNEATの低い人たちが
現代の
いつでも、何でも、好きなだけ食べられる状態に
置かれたら?

「どうしようもなく太ってしまうのは、
 避けられない」

これが、そのアメリカ人研究者の結論なんです。
  <つづきます>
2010-10-14-THU