映画
『滝を見にいく』
 を見にいく。

  ── 試写会、対談、ロケ地レポート ──
その3 「どう?」
糸井 歌の話になりましたが、
「おばちゃん」の話をもうすこし。
沖田 ええ、ええ。
糸井 もともと興味があったんですか、おばちゃんに?
沖田 いや、そんな‥‥
なんかぼく、この映画を撮って、
周りから熟女好きとか言われるんですけど(笑)、
そういうことではないんです。
でも、やっぱり、
キャスティングで自分がわくわくするのは、
おじさんとかおばさんですね。
年上の人を撮りたい癖があるんです。
糸井 何を求めて、そうなるのでしょう。
沖田 それは‥‥
安っぽい言葉かもしれないですが、
「年輪」みたいなものかな、と。
糸井 年輪、うんうん。
沖田 たたずまいを撮ってるだけでおもしろかったり。
今回の映画でも、
山の中で縄跳びするのは
おばちゃんだからおもしろいし。
糸井 若い女の人だと、
たぶんやらされてる感が出ちゃいますよね。
沖田 はい、そうですね。
糸井 おばちゃんだと、自分でやってる感が出ます。
沖田 たしかに。
なんて言ったらいいんですかねぇ‥‥
年配者の方々は、
やる気はあるんですけど、
何かをちょっとだけ諦めてるというか、
達観してるというか。
リラックスしてるから、撮っててたのしいんです。

(C)2014「滝を見にいく」製作委員会
糸井 なるほどねぇ。
ということは、脚本ができる前に、
この映画のムードはわかってたってことですよね。
沖田 そうですね。はい。
糸井 場所も決まってたんですか?
沖田 場所はプロデューサーの人が、
「紅葉スポットでいい所がある」と、
探してくれて。
糸井 妙高ですよね。
沖田 そうです。新潟の。
長野との県境くらいの場所です。

(C)2014「滝を見にいく」製作委員会
糸井 「幻の滝」でしたっけ?
沖田 そう(笑)。
なんかぼく、ちょっと笑っちゃったんですよ。
ほんとに「幻の大滝」って名前で。
「幻の大滝駐車場」って書いてある。
糸井 言語を無にしてますね(笑)。

そういうことでいうと、
原宿に「幻のラーメン」っていう
でっかい看板があります。
沖田 ぜんぜん幻じゃない(笑)。
糸井 『滝を見にいく』は、
そういう矛盾があちこちにある映画ですよね。
で、人物については掘り下げない。
沖田 はい、はい。
糸井 そこがすてきだったんです。
掘り下げてたら、普通ですから。
ぼくはあのくらいが好みです。
沖田 そう言ってもらえるとうれしいです。
糸井 それこそ旅先で
初対面の人に接触するくらいの浅さで。
「袖すり合うも」くらいの。
沖田 そうです、そうです。
糸井 だからそうだ、映画を見終わって、
「いっしょにあの山にいってた感じがする」
って話してたんですよ。
旅から帰ったみたいでした。見終わって。
沖田 ああ、その感想はうれしいです。
糸井 「袖すり合うも」だから、人物を掘り下げない。
でもちょっとはありましたよね、
あの、美容師の人が自分を語るところが。
沖田 そうですね。
女同士がああいう状態でいたら、
まぁ、このくらいのことは話すかなと。
ちょっとはそういう場面があってもいいと思って。
糸井 だからリアルというか、
ドキュメンタリーと錯覚することが所々に。
「あれ? 何見てるんだっけ?」って(笑)。
沖田 そうでしたか(笑)。

(C)2014「滝を見にいく」製作委員会
糸井 沖田さんの趣味っていうのは、
どっちかになろうとすると、
引っくり返しちゃうっていうか、
裏切っちゃうっていうか。
そういうところがあるでしょう?
沖田 うーん‥‥
まぁ、天邪鬼ではあると思います。
糸井 天邪鬼。
やっぱり愉快犯(笑)。
沖田 愉快犯(笑)。
自分でそれを言っちゃうと、
なんか元の子もないような気がしますけど。
糸井 じゃあ、ぼくが言ったことにします(笑)。
沖田 いやいや(笑)、すみません。
なんかでも、そうですよね。
糸井 なんだろう‥‥
表現って、そういうことですよ。
愉快犯的な。
さっきの、なかにし礼さんの話もそうだし。
「これを見せたら、人は何か思うぞぉ」っていう。
なんだってそうでしょう、
奈良の大仏にしたって。
沖田 奈良の大仏。
糸井 「でかいよぉ」って。
ギョッとさせたかったんですよ、愉快犯として。
沖田 「ちょっとこれ見てよ。どう?」っていう(笑)。
糸井 そうそう。
「どう?」っていうのを言いたいんです。
城もそうですよね。
沖田 城。
糸井 権力者という表現者の、
「おれってすごい?」っていう「どう?」です。
賛成する人なんかいないのが原則ですよね。
変なものをつくるに決まってるんですから。
沖田 そうですね(笑)。
糸井 後に残ったときに、
その馬鹿らしさが名物になるわけで。
そこを、
「ぼくのお城はみんなの意見でつくりました」
ってやってたら、残らないです。
人がわざわざ見にいかないものになる。
沖田 ああ‥‥。
糸井 ほんと、表現っていうのは、
「どう?」です。
沖田 「どう?」。
糸井 「どう?」。
沖田 そうですね。
気持ちのいい、「どう?」を言いたいです。
糸井 沖田監督はこの映画で言ってますよ。
おばさんたちが集団でいる場面では、
「少女たちが遊んでる」って、本当に感じました。
そんな映画はありませんから。
で、何度も言いますが、
おばさんが少女に変化したんじゃなくて
おばさんと少女は同じなんだと気づいたときに、
「この映画の監督はすごいことしたなぁ」と。
沖田 ありがとうございます。
糸井 それはすごい、「どう?」ですよね。

(つづきます!)
2014-11-22-SAT
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