映画
『滝を見にいく』
 を見にいく。

  ── 試写会、対談、ロケ地レポート ──
その4 7人のおばちゃん、山で迷う。

糸井 『滝を見にいく』という映画はあと、
テーマの見つけにくさが特徴です。
沖田 はい、はい。
糸井 「この映画のテーマはなんですか?」って、
よく聞かれますよね。
沖田 あと、
「監督がこの映画でいちばん伝えたいものは?」
という質問も。
糸井 そうそう。
そういうのには答えられませんよね、きっと。
沖田 そうですね。
糸井 「ある種の極限状況になった人間の心理を‥‥」
みたいなテーマっぽいことが
何もないですから。
沖田 ないです(笑)。
糸井 1日で助かっちゃうし。
沖田 ええ。
糸井 だから、テーマじゃないかもしれないけど、
この映画をひとことで言うなら、これですよ。
ポスターに書いてある、
「7人のおばちゃん、山で迷う。」
沖田 そうですね。
糸井 演じたみなさんは、
どんな感想を言ってました?
沖田 いままでの人生にはなかったことなので、
たのしかったとは言ってもらっています。
でも案外、自分に厳しかったりもして。
糸井 そうですか。
「上手にできなかった」とか?
沖田 「あそこはもうちょっとああしたかった」とか、
いろいろ聞きました。
糸井 へえーー。いいですねぇ。

演技指導とか演出とか、
役者さんじゃない人に伝える方法が、
なにか特別にあるわけですか?
沖田 いや、とくに。
それに今回は、
「別人になる」という考え方ではないですし。
本人がそのまま
映画に出てるような感覚でやりたかったので、
あんまりいろいろ言わないようにしました。
糸井 そうか。
本人が言ってるつもりでしゃべってくれれば
それいいわけですね。
沖田 そうです。
「自分でやってください」
「自分でいてください」って。
撮影のあいだ、ずっとそれを言ってました。
そしたら、クランクアップのとき、
みんなに一言ずつ挨拶をしてもらったんですけど、
主役の根岸さんが、
「監督から『自分でやってください』と
 言われ続けてたんですけど、
 自分ってなんだろう?って、ずっと考えてました」
みたいなことをおっしゃって。

▲右が根岸さん。 (C)2014「滝を見にいく」製作委員会
糸井 おお、ジュンジュンが。
(※映画の中で根岸さんがそう呼ばれています)
沖田 はい、ジュンジュンが(笑)。
「自分ってなんだろう?」と。
それはもう、
ふつうにプロの俳優さんたちが
考えていることだったりするんですよ。
糸井 俳優として追求させないつもりが、
おもしろいかたちで、追及をしちゃったんですね。
沖田 そうなんです。
思いがけず、俳優さんと同じ追求に。
糸井 おもしろいなぁ‥‥。

ぼくは映画の専門家じゃないので
無責任なことも言えないんですけど、
この映画の成功はある程度、
見えてる気がしています。
沖田 そうですか‥‥。
なぜ、そのように?
糸井 まず、おばちゃんが集まって
山の中を動いてるっていうのを、
見たい人はぜったいにいると思うんです。
それってつまり、
立ち聞き‥‥盗み聞きのよろこびでしょ?

(C)2014「滝を見にいく」製作委員会
沖田 はい、はい。
糸井 だから、ユーミンなんですよ。これ。
ふつうの男女がデニーズで、
「それでさ」って言ってるのを
ユーミンが聞いて歌詞にしました
っていうのと構造は同じなんです。
沖田 ああ(笑)。
糸井 で、映画としては、
いわゆる、グランドホテルもの?
沖田 そうですね。
糸井 いろんなキャラクターが、
ホテルじゃなくて、観光バスに集まって。

(C)2014「滝を見にいく」製作委員会
沖田 ええ。
糸井 そして、山という「密室」です。
ウケる映画の文法はちゃんとあるんです。
しかも盗み聞きで、
「あのおばちゃんたち、どんな話するんだろう?」
というたのしみもある。
沖田 そうですね、たしかに。
有名な人が出てるとかじゃないところで、
興味を引けるといいなぁと思ってました。
それはやっぱり、
「このおばちゃんたちの話は、
 どうなっていくんだろう?」という部分で。
糸井 そうですよね、
盗み聞きのおもしろさですよね。
なにか「秘密」のあるストーリーじゃないし。
沖田 ないですね。
糸井 トリックもない。
沖田 ないです。
おばちゃんの水筒には、
ほうじ茶が入ってるということぐらいで(笑)。
糸井 入ってた! ほうじ茶(笑)。
沖田 どうでもいいことですが(笑)。
糸井 それを予告しておきましょう。
映画に出てくる水筒の中には、
ほうじ茶が入っています。
沖田 (笑)
糸井 いまの予告、すごくいい(笑)。
もう、ネタバレとか、
この映画はぜんぜんへっちゃらですよね。
沖田 ええ、大丈夫です。
糸井 だって、もうこのキャッチフレーズ、
「7人のおばちゃん、山で迷う。」が、
ぜんぶを言ってますから。
沖田 それ以上でも以下でもありません。
糸井 で、全員、生きて帰ってきます。
沖田 そうなんですよ。
生きて帰ってくるということでいうと‥‥
‥‥これ、書けないことだと思うんですけど、
『ゼロ・グラビティ』を観にいって、
「だいたいストーリー同じだな」って思いました。
糸井 ‥‥ほんとだ!(笑)
沖田 行って、帰ってくる話だなって(笑)。
糸井 それは書けないことじゃないです。
だって、ほんとに構造は一緒ですよ。
密室で、時間が決まった中での物語。
でも、『ゼロ・グラビティ』はふたりだけど、
『滝を見にいく』は7人もいます。
こっちのほうが規模が大きい(笑)。
沖田 (笑)
糸井 いや、ほんと、おもしろかったです。
うちの読者はね、きっとこの映画を見ますよ。
沖田 そうですか。
糸井 だって、このあと、
ロケ地へ取材に行くんでしょ?
山下 はい、福田利之さんとふたりで、
「幻の大滝」を見にいきます。
糸井 わざわざそこまでさせる何かが、
この映画にはあるんだと思います。

そう。
あの滝を見にいくんだ。
山下 はい。しかも、
主役の根岸さんが案内してくださるそうです。
糸井 ジュンジュンが?
山下 ジュンジュンが。
糸井 なんですか、その贅沢は‥‥(笑)。
沖田 滝、気持ちいいですよ。
たのしんできてください。
山下 はい。
行ってまいります。
沖田監督、
きょうはどうもありがとうございました。
沖田 こちらこそ、ありがとうございました。
(監督対談編はここまで。
 ロケ地レポート編へとつづきまーす!)
2014-11-23-SUN
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