|
糸井 |
『滝を見にいく』という映画はあと、
テーマの見つけにくさが特徴です。
|
沖田 |
はい、はい。
|
糸井 |
「この映画のテーマはなんですか?」って、
よく聞かれますよね。
|
沖田 |
あと、
「監督がこの映画でいちばん伝えたいものは?」
という質問も。
|
糸井 |
そうそう。
そういうのには答えられませんよね、きっと。
|
沖田 |
そうですね。
|
糸井 |
「ある種の極限状況になった人間の心理を‥‥」
みたいなテーマっぽいことが
何もないですから。
|
沖田 |
ないです(笑)。
|
|
糸井 |
1日で助かっちゃうし。
|
沖田 |
ええ。
|
糸井 |
だから、テーマじゃないかもしれないけど、
この映画をひとことで言うなら、これですよ。
ポスターに書いてある、
「7人のおばちゃん、山で迷う。」
|
沖田 |
そうですね。
|
糸井 |
演じたみなさんは、
どんな感想を言ってました?
|
沖田 |
いままでの人生にはなかったことなので、
たのしかったとは言ってもらっています。
でも案外、自分に厳しかったりもして。
|
糸井 |
そうですか。
「上手にできなかった」とか?
|
沖田 |
「あそこはもうちょっとああしたかった」とか、
いろいろ聞きました。
|
糸井 |
へえーー。いいですねぇ。
演技指導とか演出とか、
役者さんじゃない人に伝える方法が、
なにか特別にあるわけですか?
|
沖田 |
いや、とくに。
それに今回は、
「別人になる」という考え方ではないですし。
本人がそのまま
映画に出てるような感覚でやりたかったので、
あんまりいろいろ言わないようにしました。
|
糸井 |
そうか。
本人が言ってるつもりでしゃべってくれれば
それいいわけですね。
|
沖田 |
そうです。
「自分でやってください」
「自分でいてください」って。
撮影のあいだ、ずっとそれを言ってました。
そしたら、クランクアップのとき、
みんなに一言ずつ挨拶をしてもらったんですけど、
主役の根岸さんが、
「監督から『自分でやってください』と
言われ続けてたんですけど、
自分ってなんだろう?って、ずっと考えてました」
みたいなことをおっしゃって。
|
▲右が根岸さん。 (C)2014「滝を見にいく」製作委員会
|
糸井 |
おお、ジュンジュンが。
(※映画の中で根岸さんがそう呼ばれています)
|
沖田 |
はい、ジュンジュンが(笑)。
「自分ってなんだろう?」と。
それはもう、
ふつうにプロの俳優さんたちが
考えていることだったりするんですよ。
|
糸井 |
俳優として追求させないつもりが、
おもしろいかたちで、追及をしちゃったんですね。
|
沖田 |
そうなんです。
思いがけず、俳優さんと同じ追求に。
|
糸井 |
おもしろいなぁ‥‥。
ぼくは映画の専門家じゃないので
無責任なことも言えないんですけど、
この映画の成功はある程度、
見えてる気がしています。
|
沖田 |
そうですか‥‥。
なぜ、そのように?
|
糸井 |
まず、おばちゃんが集まって
山の中を動いてるっていうのを、
見たい人はぜったいにいると思うんです。
それってつまり、
立ち聞き‥‥盗み聞きのよろこびでしょ?
|
(C)2014「滝を見にいく」製作委員会
|
沖田 |
はい、はい。
|
糸井 |
だから、ユーミンなんですよ。これ。
ふつうの男女がデニーズで、
「それでさ」って言ってるのを
ユーミンが聞いて歌詞にしました
っていうのと構造は同じなんです。
|
沖田 |
ああ(笑)。
|
糸井 |
で、映画としては、
いわゆる、グランドホテルもの?
|
沖田 |
そうですね。
|
糸井 |
いろんなキャラクターが、
ホテルじゃなくて、観光バスに集まって。
|
(C)2014「滝を見にいく」製作委員会
|
沖田 |
ええ。
|
糸井 |
そして、山という「密室」です。
ウケる映画の文法はちゃんとあるんです。
しかも盗み聞きで、
「あのおばちゃんたち、どんな話するんだろう?」
というたのしみもある。
|
沖田 |
そうですね、たしかに。
有名な人が出てるとかじゃないところで、
興味を引けるといいなぁと思ってました。
それはやっぱり、
「このおばちゃんたちの話は、
どうなっていくんだろう?」という部分で。
|
|
糸井 |
そうですよね、
盗み聞きのおもしろさですよね。
なにか「秘密」のあるストーリーじゃないし。
|
沖田 |
ないですね。
|
糸井 |
トリックもない。
|
沖田 |
ないです。
おばちゃんの水筒には、
ほうじ茶が入ってるということぐらいで(笑)。
|
糸井 |
入ってた! ほうじ茶(笑)。
|
沖田 |
どうでもいいことですが(笑)。
|
糸井 |
それを予告しておきましょう。
映画に出てくる水筒の中には、
ほうじ茶が入っています。
|
|
沖田 |
(笑)
|
糸井 |
いまの予告、すごくいい(笑)。
もう、ネタバレとか、
この映画はぜんぜんへっちゃらですよね。
|
沖田 |
ええ、大丈夫です。
|
糸井 |
だって、もうこのキャッチフレーズ、
「7人のおばちゃん、山で迷う。」が、
ぜんぶを言ってますから。
|
沖田 |
それ以上でも以下でもありません。
|
糸井 |
で、全員、生きて帰ってきます。
|
沖田 |
そうなんですよ。
生きて帰ってくるということでいうと‥‥
‥‥これ、書けないことだと思うんですけど、
『ゼロ・グラビティ』を観にいって、
「だいたいストーリー同じだな」って思いました。
|
糸井 |
‥‥ほんとだ!(笑)
|
沖田 |
行って、帰ってくる話だなって(笑)。
|
糸井 |
それは書けないことじゃないです。
だって、ほんとに構造は一緒ですよ。
密室で、時間が決まった中での物語。
でも、『ゼロ・グラビティ』はふたりだけど、
『滝を見にいく』は7人もいます。
こっちのほうが規模が大きい(笑)。
|
沖田 |
(笑)
|
糸井 |
いや、ほんと、おもしろかったです。
うちの読者はね、きっとこの映画を見ますよ。
|
沖田 |
そうですか。
|
糸井 |
だって、このあと、
ロケ地へ取材に行くんでしょ?
|
山下 |
はい、福田利之さんとふたりで、
「幻の大滝」を見にいきます。
|
|
糸井 |
わざわざそこまでさせる何かが、
この映画にはあるんだと思います。
そう。
あの滝を見にいくんだ。
|
山下 |
はい。しかも、
主役の根岸さんが案内してくださるそうです。
|
糸井 |
ジュンジュンが?
|
山下 |
ジュンジュンが。
|
糸井 |
なんですか、その贅沢は‥‥(笑)。
|
沖田 |
滝、気持ちいいですよ。
たのしんできてください。
|
山下 |
はい。
行ってまいります。
沖田監督、
きょうはどうもありがとうございました。
|
沖田 |
こちらこそ、ありがとうございました。 |
|
(監督対談編はここまで。
ロケ地レポート編へとつづきまーす!) |