映画
『滝を見にいく』
 を見にいく。

  ── 試写会、対談、ロケ地レポート ──
「7人のおばちゃん、山で迷う。」
そんなコピーに誘われて、
『滝を見にいく』という映画の試写会にいきました。
それはほんとうに、
7人のおばちゃんが山で迷うだけの映画でした。
でも‥‥なんだか、いいのです。
試写会のあと、糸井重里はこんなツイートをしました。
翌日の「今日のダーリン」には、
こんな文章を記しています。

できる範囲で、この映画を応援します。
まずはちいさな試写会から。
続いて沖田修一監督と糸井との対談を。
最後になぜか、
イラストレーター・福田利之さんとほぼ日・山下が
ロケ地の「滝」を訪れたレポートをお届けします。
(主演の根岸遙子さんが案内してくれたんですよ)
  <監督対談編>    
    その1 40歳以上の女性、演技経験問わず。   2014-11-20-THU
    その2 沖田作品は歌がポイントですから。   2014-11-21-FRI
    その3 「どう?」   2014-11-22-SAT
    その4 7人のおばちゃん、山で迷う。   2014-11-23-SUN
         
    <ロケ地レポート編>    
    前篇 根岸さんのふしぎな思い出。   2014-11-24-MON
    後編 福田利之の熱演。   2014-11-25-TUE

試写会で『滝を見にいく』を見せていただいてから
何日か経ったある日のことです。
沖田修一監督が「ほぼ日」を訪ねてくださいました。

糸井重里との対談です。
全4回の連載を、おたのしみください。
糸井 いや、もう、おもしろかったです(笑)。
沖田 ありがとうございます。
試写を観ていただいたその日に、ツイートまで。
糸井 そうそう、そうでした。
映画を観てすぐ、
ツイッターで言ったんですよ、ぼく。
なんか、名言風のことを。
沖田 名言風(笑)。
糸井 なんて言ったんでしだっけ?
ほぼ日 (その日のツイートを読む)
『滝を見にいく』という奇妙でかわいい映画を
観たのですが、これは当たりでしたよ。
7人のおばさんが、山で迷子になるというだけの話です。
へんでしょ。勝手にコピーをつくりました。
「おばさんと少女はおなじものなんです。」
糸井 そうそうそう。
「おばさんと少女はおなじものなんです。」
ね?
名言風でしょ?
沖田 (笑)ありがとうございました。
糸井 いや、ですからほんとに、
おばさんと少女は同じなんだってことに
感動したんですよ。
おばさんたちを見ているんだか、
小学校のときの自分の子どもが
友だちと遊んでるのを見てるのか、
区別がつかなくなって。
沖田 あぁ、はい。
糸井 同じだ、と思ったんです。
「少女になる」とか、
「少女性を含んでる」とかじゃなくて‥‥
沖田 まったく同じ生き物。
糸井 そう。おんなじ。

ただ、女性には「娘の期間」っていう‥‥
その、いわば、市場に出される期間がありますよね。
結婚適齢期的な。
沖田 はい、はい。
糸井 あの期間だけは、被(かぶ)るんですよ。
ちょっときれいな貝がらみたいなのを。
沖田 あー、はい。そうですね。
糸井 だから、ヤドカリで言えば‥‥
沖田 ヤドカリ(笑)。
糸井 「おっ、動いた!」っていうのは、
貝がらが動いてるわけですよね。
沖田 ええ。
糸井 ヤドカリの、貝がらの部分は「娘」です。
その中にうごめいているのが、少女&おばさん。
沖田 なるほど。
糸井 だから、「娘の期間」が終わると、もう貝がらは‥‥
沖田 要らなくなるんですね。
糸井 脱いで、「はあ~」って言ってる(笑)。
沖田 (笑)
糸井 ‥‥という、その構造を
ぼくはこの映画で悟らされたんです。
それを監督に会ったら、
かならず言おうと思ってました。
沖田 ありがとうございます。
糸井さんのエッセイにも書いていただいて。
糸井 ああ、そうでしたね。
何日かあとで「今日のダーリン」にも、
名文風なものを(笑)。
沖田 (笑)
糸井 「それほどドラマチックではないのに、
 暖まって試写室を出ました」
みたいなことを書いたんですよね。
沖田 ええ。
糸井 おばさんたちが縄跳びで遊んだりしてましたけど、
あれは脚本に書いてあったんですか?

(C)2014「滝を見にいく」製作委員会
沖田 一応、ホンに書きました。
糸井 ‥‥なぜ、それを書こうと思ったんですか(笑)?
沖田 なんでですかね(笑)。
おもしろかったんです、なんか。
自分の家とか身の周りのことから隔離された世界で、
おばさんたちが集まって、
女の子の遊びをしてたら、なんていうか‥‥
楽園のようにも見えるなぁと。
糸井 うん。
小学校の校庭ですよね、放課後の。
あとは遠足でご飯を食べるときとか。
沖田 ええ、そうです、その感じ。
糸井 いま、ふと思い出したんですけど、
中村メイコさんが、
美空ひばりさんと遊んだ思い出を
『徹子の部屋』で話してたんです。
黒柳さんがメイコさんに、
「ふたりで何をしてたの?」って訊いたら、
「私の部屋に来て、ベッドに横になって、
 らくな格好して、天井を見て、
 かわりばんこに歌を歌うんです」って。
沖田 へええーー。
糸井 それも、「おばさんと少女は同じ」です。
沖田 はい、そうですね。
糸井 沖田監督はきっと、
そういうムードに気付いていたんですよね。
沖田 自覚していたのかどうか‥‥
でも、そういうおもしろさが、
あるだろうとは思っていました。

あと、そもそもこういうキャストで
映画が1本できるっていうことが
機会としてたぶんないので、
この7人といろいろ遊びたくて、
ああいうシーンができたのかもしれません。
糸井 なるほど。
みなさん、一般の方なんですか。
沖田 演劇をされている方もいらっしゃいますが、
ほぼ一般の人です。
糸井 たとえば主役の、根岸さんという女性。
この人は、ふつうに暮らしてた方ですよね。
沖田 はい。根岸遥子さん。
ロケ地の妙高市で
地域サポート人をされている方です。
ロケハンでお世話になったときに、
「オーディション受けませんか?」って言ったら、
ほんとに受けてくれて、
それで主役になっちゃったんです。

▲沖田監督と根岸遥子さん  (C)2014「滝を見にいく」製作委員会
糸井 はあー。そういうことがあるんですねぇ‥‥。
あえて、そういうキャストを募集した。
沖田 ええ。全員オーディションで、
募集要項は「40歳以上の女性、演技経験問わず」。
糸井 それだけ。
沖田 それだけです。
映画として不利な条件でやったほうが、
おもしろいんじゃないかと思いまして。
糸井 不利な条件。
沖田 やっぱりその、若いイケメンの俳優とか‥‥
糸井 はい、はい。
沖田 それを見たいっていうのは
観客としてはもちろんあるわけで。
糸井 たしかに、ぼくもこの試写に出かける前に、
「物好きだな」って自分で思いました(笑)。
知らないおばさんが出てくる映画を見にいく。
沖田 そうですよね(笑)。
糸井 その意味では、
最初っからイケメンやらアイドルが出てくるのは
あきらめてますから、
減点法じゃなくてね、加点法になるんですよ。
沖田 ああ(笑)、なるほど。
糸井 映画がはじまってすぐにぼくは、
「最後にこの7人を好きになれてたらいいな」
って思ったんですけど、
それは思った通りになりましたもん。

(C)2014「滝を見にいく」製作委員会
沖田 よかったです。
糸井 この映画自体が、
ちょっとした愉快犯なんですよね。
沖田 そうですね(笑)。
「40歳以上の女性、演技経験問わず」
でつくった映画を、
ふつうに映画館で上映してもらうという。
糸井 そんなことは、なかなかないでしょう。
沖田 すくないと思います。
糸井 なんていうんだろう‥‥
あるジャンルの表現の可能性を増やしたもの
っていうのは、出来不出来の他に、
すごい高得点をあげられると思うんですよ。
沖田 ああ‥‥。
糸井 しかもこれはおもしろかったんですから、
もう、言うことないじゃないですか。
沖田 なんか、すみません(笑)、
そんなふうに言っていただいて。
ありがとうございます。
(つづきます)
2014-11-20-THU
  このコンテンツのトップページへ 次へ

2014年11月22日(土)より、
新宿武蔵野館(東京)ほか全国順次公開。

監督・脚本:沖田修一
  (『南極料理人』『キツツキと雨』『横道世之介』)

出演:根岸遙子、安澤千草、荻野百合子、
   桐原三枝、川田久美子
   德納敬子、渡辺道子、黒田大輔
製作・配給:松竹ブロードキャスティング
      ピクニック パレード キングレコード

公式ウェブサイトはこちら。

映画の公開にあわせて、
沖田監督による
おばさん小説(?)が出版されます。

『おんなのかぶ』

著:沖田修一
絵:古谷充子
大和書房/1512円(税込)

沖田修一監督が、
『滝を見にいく』の公開と同時期に出版する小説は、
「おばさんたちが、大きなかぶを抜く話」
なのだそうです。
『滝を見にいく』のポスター画を描かれた
古谷充子さんのイラストが、
ストーリーに合わせてたっぷり掲載されています。
小説のような、絵本のような一冊。
沖田監督の「おばさん映画」に魅了されたあなた、
そのつづきは「おばさん小説」でどうぞ!

amazonでのご購入はこちらからどうぞ。

感想をおくる ツイートする ほぼ日ホームへ
(C) HOBO NIKKAI ITOI SHINBUN