試写会で『滝を見にいく』を見せていただいてから
何日か経ったある日のことです。
沖田修一監督が「ほぼ日」を訪ねてくださいました。
糸井重里との対談です。
全4回の連載を、おたのしみください。 |
|
糸井 |
いや、もう、おもしろかったです(笑)。 |
沖田 |
ありがとうございます。
試写を観ていただいたその日に、ツイートまで。
|
糸井 |
そうそう、そうでした。
映画を観てすぐ、
ツイッターで言ったんですよ、ぼく。
なんか、名言風のことを。
|
沖田 |
名言風(笑)。
|
糸井 |
なんて言ったんでしだっけ?
|
ほぼ日 |
(その日のツイートを読む)
『滝を見にいく』という奇妙でかわいい映画を
観たのですが、これは当たりでしたよ。
7人のおばさんが、山で迷子になるというだけの話です。
へんでしょ。勝手にコピーをつくりました。
「おばさんと少女はおなじものなんです。」
|
糸井 |
そうそうそう。
「おばさんと少女はおなじものなんです。」
ね?
名言風でしょ?
|
沖田 |
(笑)ありがとうございました。
|
糸井 |
いや、ですからほんとに、
おばさんと少女は同じなんだってことに
感動したんですよ。
おばさんたちを見ているんだか、
小学校のときの自分の子どもが
友だちと遊んでるのを見てるのか、
区別がつかなくなって。
|
沖田 |
あぁ、はい。
|
糸井 |
同じだ、と思ったんです。
「少女になる」とか、
「少女性を含んでる」とかじゃなくて‥‥
|
沖田 |
まったく同じ生き物。
|
|
糸井 |
そう。おんなじ。
ただ、女性には「娘の期間」っていう‥‥
その、いわば、市場に出される期間がありますよね。
結婚適齢期的な。
|
沖田 |
はい、はい。
|
糸井 |
あの期間だけは、被(かぶ)るんですよ。
ちょっときれいな貝がらみたいなのを。
|
沖田 |
あー、はい。そうですね。
|
糸井 |
だから、ヤドカリで言えば‥‥
|
沖田 |
ヤドカリ(笑)。
|
糸井 |
「おっ、動いた!」っていうのは、
貝がらが動いてるわけですよね。
|
沖田 |
ええ。
|
糸井 |
ヤドカリの、貝がらの部分は「娘」です。
その中にうごめいているのが、少女&おばさん。
|
沖田 |
なるほど。
|
糸井 |
だから、「娘の期間」が終わると、もう貝がらは‥‥
|
沖田 |
要らなくなるんですね。
|
糸井 |
脱いで、「はあ~」って言ってる(笑)。
|
|
沖田 |
(笑)
|
糸井 |
‥‥という、その構造を
ぼくはこの映画で悟らされたんです。
それを監督に会ったら、
かならず言おうと思ってました。
|
沖田 |
ありがとうございます。
糸井さんのエッセイにも書いていただいて。
|
糸井 |
ああ、そうでしたね。 何日かあとで「今日のダーリン」にも、
名文風なものを(笑)。
|
沖田 |
(笑)
|
糸井 |
「それほどドラマチックではないのに、
暖まって試写室を出ました」
みたいなことを書いたんですよね。
|
沖田 |
ええ。
|
糸井 |
おばさんたちが縄跳びで遊んだりしてましたけど、
あれは脚本に書いてあったんですか?
|
(C)2014「滝を見にいく」製作委員会
|
沖田 |
一応、ホンに書きました。
|
糸井 |
‥‥なぜ、それを書こうと思ったんですか(笑)?
|
沖田 |
なんでですかね(笑)。
おもしろかったんです、なんか。
自分の家とか身の周りのことから隔離された世界で、
おばさんたちが集まって、
女の子の遊びをしてたら、なんていうか‥‥
楽園のようにも見えるなぁと。
|
糸井 |
うん。
小学校の校庭ですよね、放課後の。
あとは遠足でご飯を食べるときとか。
|
沖田 |
ええ、そうです、その感じ。
|
糸井 |
いま、ふと思い出したんですけど、
中村メイコさんが、
美空ひばりさんと遊んだ思い出を
『徹子の部屋』で話してたんです。
黒柳さんがメイコさんに、
「ふたりで何をしてたの?」って訊いたら、
「私の部屋に来て、ベッドに横になって、
らくな格好して、天井を見て、
かわりばんこに歌を歌うんです」って。
|
沖田 |
へええーー。
|
糸井 |
それも、「おばさんと少女は同じ」です。
|
沖田 |
はい、そうですね。
|
糸井 |
沖田監督はきっと、
そういうムードに気付いていたんですよね。
|
沖田 |
自覚していたのかどうか‥‥
でも、そういうおもしろさが、
あるだろうとは思っていました。
あと、そもそもこういうキャストで
映画が1本できるっていうことが
機会としてたぶんないので、
この7人といろいろ遊びたくて、
ああいうシーンができたのかもしれません。
|
|
糸井 |
なるほど。
みなさん、一般の方なんですか。
|
沖田 |
演劇をされている方もいらっしゃいますが、
ほぼ一般の人です。
|
糸井 |
たとえば主役の、根岸さんという女性。
この人は、ふつうに暮らしてた方ですよね。
|
沖田 |
はい。根岸遥子さん。
ロケ地の妙高市で
地域サポート人をされている方です。
ロケハンでお世話になったときに、
「オーディション受けませんか?」って言ったら、
ほんとに受けてくれて、
それで主役になっちゃったんです。
|
▲沖田監督と根岸遥子さん (C)2014「滝を見にいく」製作委員会
|
糸井 |
はあー。そういうことがあるんですねぇ‥‥。
あえて、そういうキャストを募集した。
|
沖田 |
ええ。全員オーディションで、
募集要項は「40歳以上の女性、演技経験問わず」。
|
糸井 |
それだけ。
|
沖田 |
それだけです。
映画として不利な条件でやったほうが、
おもしろいんじゃないかと思いまして。
|
糸井 |
不利な条件。
|
沖田 |
やっぱりその、若いイケメンの俳優とか‥‥
|
糸井 |
はい、はい。
|
沖田 |
それを見たいっていうのは
観客としてはもちろんあるわけで。
|
糸井 |
たしかに、ぼくもこの試写に出かける前に、
「物好きだな」って自分で思いました(笑)。
知らないおばさんが出てくる映画を見にいく。
|
|
沖田 |
そうですよね(笑)。
|
糸井 |
その意味では、
最初っからイケメンやらアイドルが出てくるのは
あきらめてますから、
減点法じゃなくてね、加点法になるんですよ。
|
沖田 |
ああ(笑)、なるほど。
|
糸井 |
映画がはじまってすぐにぼくは、
「最後にこの7人を好きになれてたらいいな」
って思ったんですけど、
それは思った通りになりましたもん。
|
(C)2014「滝を見にいく」製作委員会
|
沖田 |
よかったです。
|
糸井 |
この映画自体が、
ちょっとした愉快犯なんですよね。
|
沖田 |
そうですね(笑)。
「40歳以上の女性、演技経験問わず」
でつくった映画を、
ふつうに映画館で上映してもらうという。
|
糸井 |
そんなことは、なかなかないでしょう。
|
沖田 |
すくないと思います。
|
糸井 |
なんていうんだろう‥‥
あるジャンルの表現の可能性を増やしたもの
っていうのは、出来不出来の他に、
すごい高得点をあげられると思うんですよ。
|
沖田 |
ああ‥‥。
|
糸井 |
しかもこれはおもしろかったんですから、
もう、言うことないじゃないですか。
|
沖田 |
なんか、すみません(笑)、
そんなふうに言っていただいて。
ありがとうございます。 |
|
(つづきます) |