平野レミさんと、和田誠さんのことを話そう。 平野レミさんと、和田誠さんのことを話そう。
イラストレーター、映画監督、
グラフィックデザイナー、そしてエッセイストとして、
さまざまな活躍をした和田誠さんが
2019年10月に逝去されました。

糸井重里もほぼ日も、
和田さんにはとてもお世話になりましたが、
思い出を大きく語ることをしませんでした。
ご家族をはじめまわりのみなさんもほとんど、
そうしていたのではないかと思います。

あんなに偉大な仕事を数多くのこし、
憧れている人も感謝している人も山ほどいるのに、
みんなを大袈裟にさせない「和田さん」って
いったいどんな人だったの? 

いま、たっぷり話したいと思います。
平野レミさんといっしょに、和田誠さんのことを。
第7回 それはあんまりよくないよ。
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糸井
映画の話、多少は、
和田さんもしたかったんじゃないでしょうか。
レミ
私と?
糸井
うん。たぶん。
昔はよく誘ってたじゃん、
「お母さん、この映画おもしろいから一緒に観よう」
って。
糸井
たぶんそうだと思うんですよ。
レミさんはそれを聞いてくれなかったんじゃ‥‥
レミ
え、そうかな。
糸井
きっと、ほかの話をしはじめたり。
レミ
和田さんが家で映画観てるときにさ、
「お父さん、これ、いい人、悪い人、どっち?
悪人なの善人なの?」
なんて訊くと、必ずパシャっと止めちゃって、
巻き戻すんですよ。
糸井
わはははは。
レミ
映画というのは一字一句、
ちゃんと真剣に観てないとダメなんですね。
私は軽く見てればいいんだと思ってた。
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糸井
どっちとも言えないような気もする(笑)。
レミ
和田さんは、絶対に巻き戻すの。
だから質問なんてできなくなっちゃうでしょう。
そもそもお母さん、映画観てると寝ちゃうもんね。
レミ
ああそうね、寝ちゃう。
糸井
いや、まずは世の中の女房は
男の趣味の話は聞いてくれないですよ。
レミ
ああ、そうかもね。
糸井
「それで、どうするのお味噌汁は?」
レミ
そっちですよね。
糸井
うん。
夫婦で映画の話を細かくしてるようなのって、
ちょっとめんどくさそうですよ。
レミ
そうですよね。だから、よかったんです。
糸井
よかったと思います。
レミ
私ね、さいごのさいごのほうにね、
和田さんの口からほんとうのこと聞きたくて
「私と結婚して、合ってたの?」
「結婚してどうだった? どうだった?」
って訊いてみたんです。
そしたら和田さんは
「よかった」って言ってた。
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糸井
へえぇ。
「よかった」という言葉なんですか。
レミ
うちの息子たちも
和田さんのこと、
ビデオでたくさん撮ってくれてたから、
きっと残ってますよ。
お父さん、いろんなこと言ってたよ。
レミ
なんて言ってた?
お母さんにそうとう困らされた、という話も
息子には語ってた。
レミ
あー、そうなんだ、
わっはっは。
かわいそうに。
一同
(笑)
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糸井
それがなければ、
思い出も減るわけだから、
よかったと思います。
レミ
それはもう、ずいぶん思い当たりますよ。
最初に住んでた家が道路沿いで、
鏡が排気ガスやなんかでベタベタしたの。
私がいやがるもんだから、
引っ越そうってことになって、
地方に土地を買ってくれました。



設計して模型も作って、土地を訪問してみたら、
風が冷たくて寒いところで、私が
「やっぱりダメだ、住めない」
ってことになっちゃった。
和田さん、かわいそうに、せっかく買ったのにね。
また都心にマンションをかまえて
「ここで生活しよう」と言ってくれた。



私は好き勝手で、
和田さんをとっても困らせてたと思う。
いまになって、ほんとに和田さんに、
ごめんなさいね、って思う。
糸井
それは、困ってもないんじゃないのかな。
みんな似たようなことを
してると思いますよ。
レミ
ほんとに?
そういうもんですか?
糸井
どこも、内なる和田さんがいるんですよ。
みんなけっこう和田さんです。
レミ
ふーん、そうなんだ、
みんな和田さんなんだ。
糸井
家でそんなに話を聞いてももらえないし、
たいてい同じです。
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父を見ていると、
割り切り方がすごかったですよ。
母のわがままには
ぜんぶ目をつぶっていました。
ただ、仕事はちがう。聖域です。
糸井
やっぱりそうなんだ。
ぼくはいま形式的に、和田誠事務所の
責任者という立場になってしまったんですが、
亡くなってからもすごく仕事が来るんですよ。
糸井
そうだろうね。
意思決定しなくてはいけない立場に
なってしまったので、
「親父だったらこれをどう判断するんだろう」と
いつも想像しています。
もちろん判断の仕方なんて教わってこなかったので、
困ったときはいつも、
父の著書や作品を参考にしています。



「ああ、このときはこうやってたんだ」
「本の裏表紙にバーコード入れちゃダメなんだ」
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糸井
そうですよね。
親父だったらいまこう言うだろうな、ということを
ぼくなりに考えて、みなさんと話しています。
親父はそうとう厳しいことを言っていたようだし、
それをいま、ぼくも伝えなきゃいけない。
糸井
そうでしょうね。
「和田誠ルール」ってありますから。
そうなんです。
糸井
顔は穏やかにしてるけど、
「それは、やんないほうがいいよ」
「あんまりよくないよ」
なんて言ってね。
怖い印象は一回もなかったけど、
厳しいということは、思います。
(明日につづきます)
2020-09-07-MON
和田誠さんの「ほぼ日手帳2021」
2021年のほぼ日手帳のラインナップには
和田誠さんのイラストレーションをデザインした
カバー「時を超える鳥」と
weeks「星座を抱いて」が仲間入りしています。



「時を超える鳥」は、
和田さんが1977年より描きつづけている
「週刊文春」の表紙絵の第1作。
コンセプトは「表紙は読者へのおたより」です。
写真
「星座を抱いて」は、
2002年11月7日号の表紙絵。
和田さんが400年前の星座図を参考に
描いたものだそうです。
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和田誠さんのほぼ日手帳について、
くわしくは「ほぼ日手帳2021」のページ
ごらんください。

また、40年以上にわたって描かれている
「週刊文春」の表紙絵の初期作品をあつめた画集
『特別飛行便』も、ほぼ日ストアで販売しています。
※『特別飛行便』は完売いたしまして、再販売はございません。
(9月2日追記)
和田誠さんの
メッセージカードが届きます。
このコンテンツへの感想や、
和田さん、レミさんにむけたメッセージを
ぜひ「往復はがき」でお寄せください。
返信はがきに和田誠さんのスタンプ
(生前にご自身で作られたものと、
今回のために和田さんのイラストレーションで
和田さんのご家族とほぼ日が作成したもの、
ふたつのスタンプを捺します)
の返信はがきをお送りいたします。
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※往復はがきとは、
往信と返信がつながったはがきです。
必ず「往信」と「返信」の両方の宛先をご記入ください。
返信の宛先が未記入の場合、
スタンプを捺したはがきはお手もとに返ってきません。
ポストに投函するときには、
往信の宛名が外側になるようにふたつ折りにしてください。
往信はがきの裏面には、ぜひコンテンツの感想や
和田さん、レミさんへのメッセージをお書きください。
<ご注意>返信はがきの裏面には何も書かないでください。



※いただいたはがきの内容は、
平野レミさん、ご家族、ほぼ日が拝見します。
ほぼ日刊イトイ新聞で内容を公開することがあります。
返信はがきに記載された個人情報は、
はがきを返信するためにのみ使用します。



※返信はなるべくはやめに
お出しするようにいたしますが、
みなさまからいただく数によっては
時間をいただくことがあります。
また、郵便事情等による不配につきましては、
責任を負うことはできかねます。
どうぞご了承ください。
往信の宛先:

107-0061

東京都港区北青山2-9-5-9階

株式会社ほぼ日

平野レミ様



返信の宛先:

ご自身の住所、お名前



締め切り:

2020年10月7日消印有効