糸井 |
鶏郎さんは ディズニーの最初の
日本版の「白雪姫」「ダンボ」
「わんわん物語」を監修した、
って聞いたんですが、
何をしたんですか? |
竹松 |
日本語版の音楽監督です。
本国ディズニープロから
送られてきた音楽に
日本語の歌詞を付けて。
当時はキャスティング部と
いうものが無いので、
キャストを決めて‥‥ |
糸井 |
吹き替えを? |
竹松 |
‥‥吹き替えですね。
だから、ディズニー映画の
日本語の初めての吹き替えは、
三木鶏郎が音楽監督ということなんです。 |
糸井 |
ハァーッ‥‥それ、すごい!
ハリウッドと仕事をしてるんですよね、当時。 |
竹松 |
そうですね。向こうから
レコードを送ってきて、
それを聞いて‥‥
スコアもこの間、出てきたんですけど、
そこに日本語の歌詞を入れていくんです。
ご覧になりますか? |
糸井 |
はい。 |
大瀧 |
原盤じゃないですかね‥‥ひょっとすると、
そのレコードって。昔、みんな、
テープじゃなくて、
原盤で音を入れていたんだよね。 |
竹松 |
これが、「ダンボ」のものですけど、
この‥‥ |
糸井 |
えーっ、「ダンボ」! |
竹松 |
スコアがこういうふうにあって、
ここに‥‥(台詞を読む)、
「驚いた。誰だ」
「こりゃ、驚いた」と
歌詞を付けていくわけですよね。 |
大瀧 |
へぇー‥‥これはすごいや。 |
糸井 |
「象が空を飛ぶってよ。ダンボだ」
‥‥(笑)! |
竹松 |
ちょうどこの間、字幕文化を
研究されている人が、
「何か資料がないですか」と。
で、「たしか、あそこらへんに」
と見ていたら、
「LADY AND THE TRAMP」という
「わんわん物語」の脚本が
向こうから送られてきていて、
それを日本語に書き換えたものが
見つかったんですね。
その字幕の方にお話を伺ったら、
その訳は田村幸彦さんといって、
「モロッコ」という映画の‥‥ |
大瀧 |
ああ、「モロッコ」ね。スタンバーグの。 |
竹松 |
‥‥最初に字幕を書いた人は、
その田村幸彦さんなんですって。 |
大瀧 |
あれが日本最初の字幕なんだよ。 |
竹松 |
そうなんですって。その田村さんが、
このときに鶏郎先生に日本語吹き替えを
お願いした人なんですね。 |
大瀧 |
ああ、そうなの! |
竹松 |
ですからその田村さんが
これを訳しているんだろうと。
多分、これは田村さんの
字ではないか‥‥
というお話でした。 |
大瀧 |
やっぱり、そういう‥‥
字幕だったらあの人だろう、
というのがあったんだ。あの頃は。 |
竹松 |
鶏郎先生は、
「オリジナル版を見て、
これを日本語版にするのはとても無理」
と、一度は断ったそうです。
でも、やっぱり、
「子供たちが、英語で見ても
わからないだろうから‥‥」と。
「日本語吹き替えというものがないと
楽しめない」ということで、
「是非、やってくれ」というので。
でも、人を集めるのに困って。
それで、外国語版制作の
ベテランであった
カッティングさんという
総指揮をとる方が来日して、
「日本はキャスティング部もないのか!」
と言って(笑)。 |
大瀧 |
ないんだよなぁ。 |
竹松 |
「わんわん物語」の場合は、
犬役の声優さんを集めるわけですが、
どの方をオーディションをしても、
カッティングさんの気に入らなくて。 |
大瀧 |
気に入らないんだ。
‥‥栗貫、一人いりゃあ、よかったんだな。 |
一同 |
アッハハハハ! |
竹松 |
それで面白い話が‥‥
カッティングさんがラジオを聴いていたら、
「一人、ブルドッグ役にすごくいい人がいた」
と言うんですって。 |
大瀧 |
ほぉー、誰? |
竹松 |
それが、社会党の浅沼委員長(笑)。 |
大瀧 |
うまいっ! そりゃ、いいわ。
粋な計らいをするねぇ! |
糸井 |
あっ! そうです、そうです。
そうでした! それ、俺、覚えている! |
大瀧 |
そう?! |
竹松 |
でも、映画のときは鶏郎先生も、
「浅沼さんには頼めない」と。 |
大瀧 |
さすがにね。いくらなんでも‥‥ |
糸井 |
でも、それ、ニュースとして、
僕、覚えてます! |
竹松 |
その後日談があるんです。
鶏郎先生が浅沼さんと対談したとき、
「じつは、カッティングさんが、
あなたをブルドッグの役に是非に、
と言っていたんです」とお話したら、
「そう言ってくれたら喜んで出たのに」
と応えてくださったそうで、
ラジオで「わんわん物語」を
やったときには‥‥ |
大瀧 |
やったの? 実際に? |
竹松 |
そうなんです、浅沼さんに
やっていただいたんです。
その年に、浅沼さん、
亡くなられちゃうんですよね。 |
大瀧 |
1960年。 |
竹松 |
これが、そのときの 声優陣のキャストです。 |
糸井 |
三木鶏郎‥‥いた! |
大瀧 |
あっ、大平透、いるね。いると思ったよ。
三津田健もいるんだよ。あっ、
小林桂樹もいるの!
あー、馬風だよ。先代の馬風! |
糸井 |
鈴々舎馬風。‥‥今輔。 |
大瀧 |
今輔! ばあさん落語の。 |
糸井 |
永六輔さんが声優でいる! |
大瀧 |
へぇー!‥‥ 坊屋三郎がいて‥‥ |
糸井 |
市村俊行。“ブーちゃん”だったんですよね。
この人はピアノも弾くんだよね、たしかね。 |
大瀧 |
弾く。だって、元ジャズピアニストだもの。 |
糸井 |
あ、そうなんだ。 |
竹松 |
これが、本国から送られてきた
レコードです。 |
|
大瀧 |
あっ、そうだ! 原盤でしょ。
原盤なんだよねぇ!
あの頃はテープじゃないんだよ。
FENのラジオ番組が原盤なんだよ。
だから、ラジオなのに音が引っかかるんだ。 |
糸井 |
おかしいよね。 |
大瀧 |
ね! ずーっと引っかかっていて、
ズルズルっという音がするんだよね(笑)。 |
糸井 |
じゃ、「ウルフマン・ジャック」なんかは、
こういう形で残っているんだ。 |
大瀧 |
これが、渋谷の恋文横丁で
売られていたわけだよ。GIが売りに来て。
それを俺が買ったんだよ。 |
糸井 |
俺が買った(笑)‥‥の?! |
大瀧 |
買ったんだよ。
で、どっかに行っちゃったんだよ。
もう‥‥残念だな。FENの放出。 |
糸井 |
へぇー! |
大瀧 |
うん。天皇陛下の玉音放送も、
この原盤なんですよ。
これをスタンパーでとって、
そこからレコードができるの。 |
糸井 |
ほんとうの原盤なんだ! |
大瀧 |
僕、1枚目から最後のまで
自分で持っているんですよ、じつは。 |
糸井 |
自分の原盤を? |
大瀧 |
自分のを。今も音が出る。
まだ。‥‥すごい、いい音なの。
こうだよ‥‥絶対、こうだと思った。
(原盤を見て)
‥‥うわぁー、すげぇーなぁ! |
糸井 |
すごいものだねぇー‥‥ |
大瀧 |
すごいものだよ。これは! |
竹松 |
そうですね。 |
大瀧 |
これは世界各国に出したんだよね、
ローカルカバーで。ディズニー世界戦略。 |
糸井 |
それを、船便じゃなくて
飛行機で誰かが持って来る‥‥とか、
したのかな? |
竹松 |
カッティングさんが
持って来たんですかね? |
糸井 |
送る方法がないもんね。 |
竹松 |
それで、日本で録ったのも、
まずレコードを再生し、
メロディー通りに歌と合唱を入れて、
さらに台詞を録ったものを編集、
そのテープをまたアメリカに輸送し
それに伴奏を付けたものを
サウンド・トラックへ焼き直すという‥‥
行ったり来たりをしていたみたいですね。 |
大瀧 |
じゃ、再生と録音と2トラックにして、
後で向こうで合わせたんだ。 |
竹松 |
ええ、そうですね。 |
糸井 |
永さんが声優をやっているなんて、
永さん自身、覚えているかなと
いうぐらいの‥‥
このメンバーでの「わんわん物語」、
見てみたいですねぇ!
さすがに、それは残っていないんですか。 |
竹松 |
でも、この間来られた方が、
「あると思いますよ」なんて言っていたので。 |
糸井 |
どういう関係の人ですか? |
竹松 |
字幕文化の研究をしているかた。
‥‥“パチ文字”って、ありますよね。 |
大瀧 |
パッチ? |
竹松 |
字幕の手書き文字のことをカタカナで
“パチ字幕”と言うんですって。 |
大瀧 |
フランスの一番最初の映画会社が
「パテー」というんだけどね。
横田永之助が輸入してきた映写機の会社は。 |
竹松 |
そうなんですか。 |
大瀧 |
それと“パチ文字”と
関係があるかどうかは知らないけど、
この間、レトロ調の
フォントを出した会社かな? |
糸井 |
驚くなぁー‥‥しかし、これ、
江戸時代の話をしているわけでも
なんでもないんだけど、
そういう感じになってきたね。 |
大瀧 |
つい最近の話なんだけどね。 |
糸井 |
鶏郎さんは、ディズニーを何作か? |
大瀧 |
鶏郎さんは、飽きっぽいから、
一回やって、「あ、こんなものか」と
思ったんじゃない? |
竹松 |
5作、三木鶏郎が続き、
「シンデレラ姫」では、
田村幸彦さんが日本語版監督を
務めることになりました。 |
大瀧 |
本家に戻したんだね。それね(笑)。 |
糸井 |
そうだよね。 |