ほぼ日刊イトイ新聞
VOW のこと。2代目総本部長・古矢徹さんと、編集担当・藪下秀樹さんに訊く。

こんにちは、「ほぼ日」の奥野です。
たまたまだと思うんですが、
先日、20代の若者たちと語らった際、
思った以上の若者が、
お笑い投稿コンテンツの元祖である
『VOW』を知らない様子で。
えっ、そうなの? えっ、なんで? 
えーっ、もったいない! ということで、
差し出がましいとは知りつつも、
『VOW』を紹介したいと思いました。
語り部としてご登場いただくのは、
尊敬するふたりの編集者。
『VOW』2代目総本部長・古矢徹さんと、
宝島社『VOW』担当編集・藪下秀樹さん。
文中、とくに脈略もなく、
『VOW』ネタが挟まることがあります。
あらかじめ、ご了承ください。

ただのオマヌケなんだから。

──
個人的な話で非常に恐縮なのですが、
小学校高学年くらいから、
『VOW』を愛読していたんです。

子どもでお金を持ってなかったので、
コンビニとかで、立ち読みで。
古矢
小学生じゃ、
意味わかんないネタもあったでしょ。
──
ええ。わかるのと、わかんないのと。

でも、そのころから、うすぼんやりと、
自分も、学校を出たら
『VOW』総本部の人間になるのかな、
と、思っていたんです。
古矢
ああ、当時は、
そういう小学生が多かったよね。

って、いるかよ、
「なりたい職業/『VOW』総本部の人間」
なんて小学生!
藪下
それに、けっこう大変ですからね。
古矢
そうそう、総本部ったって、
2、3人しかいないんだから、常時。
──
ともあれ、それほど好きだったので、
本日は、製作総指揮を執ってらっしゃる
2代目総本部長の古矢徹さん、
そして担当編集の藪下秀樹さんという、
ある意味あこがれの先輩に、
こうして、お時間を頂戴しまして‥‥。
古矢
「ある意味」ってなんだよ(笑)。
藪下
だめですよ、こんなハゲにあこがれたら。
人生おしまいですよ。
古矢
まぁまぁ、そこまでハゲ‥‥じゃなくて
ヒゲ(卑下)しなくても。
──
思い返しますに、
なぜ『VOW』が好きだったかと言うと、
ネタのおもしろさプラス、
ネタに対して、
2代目総本部長のおつけになるコメント、
けっしてアラ探しではない、
愛あるコメントに感じ入っていたんです。
古矢
奇特な小学生だね。
藪下
あれは、ボケとツッコミの妙ですから。

まず、読者からのおかしな投稿があり、
それに対して、
古矢さんがツッコむ‥‥という形式。
──
そう、ぱっと見1秒でおもしろいネタも、
もちろんありますが、
2代目総本部長のコメントを読んで、
「ああ、このネタは、
こんなふうにおもしろがればいいのか」
と、またひとつ、
大人の階段を登らせていただいたりして。
古矢
ホントかよ。
──
ああ、そのツッコミ。
2代目総本部長のコメントのよう‥‥。
古矢
2代目総本部長のコメントですがね。
藪下
いちばん好きなネタを教えてください。
──
え、いちばんですか。難しいけど‥‥。

パッと思いつくので言えば、
写真ネタで「さんりお」とかですかね。
古矢
ああー、傑作だね。

宝島社『ベストオブVOW』p7より

──
あと、テレビのテロップのまちがいで、
「長介の
スポーツでいい汁かこう!」ですとか。
古矢
あったあった。ドリフ大爆笑のやつ。

宝島社『ベストオブVOW』p158より

──
逆に、2代目総本部長には、
思い出のネタとかって、ありますか。
古矢
「思い出の」って(笑)。

そうだね、苦しいときや辛いときに
かならず思い出す‥‥
ああ、そういう意味では、
なんか、おじいちゃんが若い主婦の
相談に乗ってるやつとか。
──
あ、新聞の投書ですね。
古矢
そうそう、新聞記事で。
主婦の相談に乗ってて、うっかり‥‥。
──
ええ。

宝島社『ベストオブVOW』p19より

古矢
「どこか公園に行き、
軽いキスをしますか」とか言ったら、
怒られちゃったっていう。
──
はい、最後に「私は愚かだった。」で
締めくくられる名投稿ですよね。

反省色の濃い投稿全体のトーンを含め、
ハッキリ覚えています。
古矢
でも、本当に好きなのは
まだ自分も『VOW』読者だったころの
「シーラ・イーストン」とかだけど、
これ、どれだけ今の若い人に通じるか。
──
初期の名作ですよね。

これは、とある音楽ライターの人が、
どちらもミュージシャンである
「シーナ・イーストン」と
「シーラ・E」を混同してしまい、
「シーラ・イーストン」
という
どこにも存在しないミュージシャンについて、
つらつらと、
まるまる1Pの記事を書いてしまい、
しかも、それが、
そのまま掲載されてしまったという。

宝島社『ベストオブVOW』p34より

藪下
愛読者の間では「語り草」になっている、
有名なネタです。
古矢
あれには大笑いしたなあ。
──
随所に「で、誰?」と思いながら読むと、
非常に味わい深いものがあります。
藪下
きっと、よくおわかりになっていると
思いますけど、いまの例みたいに、
『VOW』ネタというのは、
狙ってやってるものじゃないですよね。

本人はウケを狙ってるわけじゃなくて、
大真面目。
つまり天然モノ、自然に生まれた‥‥。
──
そこにただ、存在しているもの。
古矢
そんなたいそうに言わなくても。
──
そうですね。
古矢
単なるヘンな看板、おかしな投稿、
マヌケな誤植なんだから。
藪下
おっしゃるとおりです。
──
そもそも、1970年代に
まだ「Voice Of Wonderland」
と言っていたころは、
街の情報コーナーみたいな感じだったと。
古矢
そう、いまみたいなスタイルは、
初代総本部長の
渡辺祐さんが確立したものなわけだけど、
ちょうど同じような時期に、
香川県の情報誌が
「笑いの文化人講座」ってコーナーで、
「読者投稿にコメントをつける」
という、同じようなことをやりはじめて。
──
え、そうなんですか。同時多発的に?
古矢
オレも「笑いの文化人講座」のほうは
リアルタイムでは知らなかったけど。
──
なんでしょう、
時代の要請‥‥だったんでしょうか。
古矢
そうですね‥‥って、
そんなたいそうなもんじゃないから。
──
そうですよね。
古矢
ただのオマヌケなんだから。
藪下
おっしゃるとおりです。

宝島社『ベストオブVOW』p94より

 ~知ってる人も、知らない人も~ すぐに笑えて、ずっと笑える。それが『VOW』。

ゲエテ『若きウェルテルの悩み』の扉には
「親しい友を見つけられずにいるのなら
この小さな書物を心の友とするがよい」
と書かれていますよね。
もしもあなたが、運命のめぐり合わせで、
親しい友を見つけられずにいるのなら、
このおかしな書物を心の友とするがよい。
人生のくもり空が、日々のモヤモヤが、
すこーし、晴れるかもしれません。
知ってる人も、知らない人も、
すぐに笑えて、ずっと笑える。
これもまた、われら人類のりっぱな営み。
最新刊ですが、やっておられることは
ひとつも変わっていません(←とてもいい意味)。



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