- 古矢
-
そもそも『VOW』の基本姿勢って、
投稿人も俺たちの側も、
基本的には「ツッコミ」っていうかさ、
「間違ってるよこいつ」
みたいな、
ちょっといじわるな感じのイメージで、
捉えられてると思うんだけど。
- ──
- ええ。
- 古矢
-
もともと、読者がボケてくれたネタに
いっしょになってボケる、
悪ふざけみたいなものだと思うんだよ。
だから「間違ってる」とツッコんでる
っていうより、
なんか、ありがたいなあ‥‥みたいな。
- ──
- そういう心境でしたか。
- 古矢
-
「間違えてくれてありがとう!」
みたいな、感謝の気持ち。
- ──
- じゃあ、この作品なんかも。
- 古矢
-
すごいよ。
本当に、ありがたい誤植だよね。
案外誤植じゃなかったりしてね。
- ──
-
その可能性については、
考えたこともありませんでした(笑)。
- 藪下
-
たしかに、言われてみれば、
僕ら、前後のコマを知らないわけだし。
- 古矢
-
俺たちは「誤植だ誤植だ」という固定観念で
ついつい見ちゃうけど、
辻褄の合ってるセリフかもしれないよ。
- ──
-
じゃ、この長髪の御仁も、
決して「おちこんでる」わけじゃなく。
- 古矢
- 「なんで笑われなきゃいけないんだ!」
- ──
-
だとしたら、もう謝るしかないですね。
ちなみにですが、『VOW』には、
名シリーズというのが、ありますよね。
- 藪下
- シャウトねえちゃんシリーズとか。
- ──
-
何かを叫んでいる女性モデルの写真が、
さまざまな広告に使われていて、
それが全国から
陸続と郵送されてくるんですよね。
「ここにもいました!」とか言って。
- 藪下
- 「叫ぶ女性」って需要があるのかな。
- 古矢
- 一連の「とまれ」の間違いとかもね。
- 藪下
- あれも、全国津々浦々から来ますね。
- ──
- なんで間違っちゃうのか‥‥。
- 藪下
-
いっぱいやんなきゃいけないから、
ハイ次ハイ次って感じで、
間違えちゃうんじゃないですかね。
- ──
- でも、終わったあとに見ますよね?
- 藪下
-
次に行かなきゃいけないから、
わかるだろって感じなんじゃないかな。
- ──
-
「あー、間違っちゃった。
でも俺たちには次の現場がある」と?
- 古矢
-
みんなで軽トラか何かに乗って、
1日に何箇所も回んなきゃなんないし。
- 藪下
- そういうことですね。
- 古矢
- ホントかよ。ちゃんとやれよ!(笑)
- ──
-
あとは「落書き」というジャンルも、
ひとつ、確立していますよね。
- 古矢
-
俺が好きなのは、「まさる死ろす」。
「殺す」じゃなくて「死ろす」。
- ──
-
ああ、覚えてます。
書いた人の
「まさる」にたいする地獄の憤怒が、
あふれ出てしまってるやつ。
- 藪下
- 短冊とか絵馬も、いい投稿あります。
- 古矢
-
でも最近は、絵馬に
シールかなんか貼られちゃうってね。
- ──
- シール?
- 藪下
- ほら、個人情報の時代ですから。
- ──
- それは、つまり「保護シール」的な?
- 古矢
-
つまんなくないのかなあ。
絶対に人に見られない絵馬って。
そのうち、
七夕の短冊もそうなったりして。
- ──
- 何の風情もなくなりますね。
- 古矢
-
風情で思い出したんだけど、
携帯電話が普及しはじめたころの
新聞投稿で、いいのがあった。
携帯電話にたいして、
えんえん、
文句を書き連ねてるおばさんが‥‥。
- ──
- あー。
- 古矢
-
最後の最後で
「近々、手に入れるかもしれません」
って「おい!」という(笑)。
- ──
-
最後の1行で全部ひっくり返すって、
ある意味、文学的ですらあります。
- 古矢
-
で、これはね、俺、
ほぼ日の取材だから言うわけだけど、
糸井さんが1983年に出された
『牛がいて、人がいて。』って本が、
本当に好きなんですよ。
- ──
- あ、そうなんですか。
- 古矢
-
あれ、なんて言ったらいいのかなあ、
ものすごい「ライブ感」じゃない。
- ──
-
うまく言えないのですが、
前の一行が、
次の一行を生んでいくみたいな感じ?
- 古矢
-
そう、文章がね、
はじめから決められている結論に
向かっていくんじゃなくて。
書いてるうちに、
どんどん思いが移ろっていったり、
どんどん意見が変わっていったり。
- ──
- ええ。
- 古矢
-
結果、書いている本人も、
まったく思ってもいなかったところへ
たどりついちゃうみたいな。
- ──
- はい。
- 古矢
-
エッセイでも何でも、
そういう文章にドキドキしちゃうし、
そういう原稿が、
読んでておもしろいじゃないですか。
- ──
-
はじめからわかっているところに
たどりついても、つまらないと。
- 古矢
-
そういう意味で言うと、この投稿も
最後の最後で
「近々、手に入れるかもしれません」
って、もう最高だよ。
- 藪下
-
読んでる人からすると、
ガクッと膝から落ちるわけですけど。
- 古矢
- それも含めて、もう、最高だよ。
2017-09-30 SAT