真珠
 その5



向井さん 本日はご来店ありがとうございます。
伊藤 こちらこそありがとうございます。
どうぞよろしくおねがいします。
きょうは真珠のことを
いろいろ教えていただこうと思っています。
わたしは、真珠のピアスをすることがとても多いのですが、
いままできちんと知る機会がありませんでした。
まわりでは、たとえば編集者の岡戸絹枝さんが
いつも真珠のイヤリングをしていたり、
お世話になっているかたが還暦を迎えたとき、
旦那さんが真珠のセットを買ってくれたのを、
とても嬉しそうにしていらっしゃるのを見たり。
このごろあらためて「真珠っていいな」と
感じることが増えてきたんです。
向井さん ありがとうございます。
ぜひゆっくりごらんくださいね。
伊藤 こうして拝見していると、
大きさだけでもいろいろな種類があるんですね。
向井さん はい、まず大きさがちがうのが
おわかりいただけると思います。
そして同じ大きさでも、
光沢と表面のえくぼの具合で印象が変わりますよ。
伊藤 微妙なくぼみのことを「えくぼ」っていうんですね。
向井さん えくぼと言いましたのは、
普通に見るとわからないレベルのものなのですが、
よく見ていただくと、針でちょんと突いたような
くぼみとか、逆に出っ張りのようなものがあります。
大きなえくぼがある珠(たま)は
使ってないんですけれども。
伊藤 えくぼはどうしてできるんでしょう。
向井さん 真珠は貝が育てるものですので、
えくぼが少ないもののほうが少ないんです。
伊藤 じゃ、一つの真珠につき、何個もある場合も。
向井さん はい。えくぼが少ないものだけを選んで、
こうしてジュエリーにしているわけなんです。
伊藤 えくぼがたくさんあると。
向井さん 評価としてはちょっと下がります。
伊藤 なるほど。真珠は、いまはほとんどが
養殖とききましたが‥‥。
向井さん はい、真珠はもともと、
天然のものが使われてきました。
数百年前のアンティークジュエリーは
すべて天然真珠です。
当時の「真珠採り」というのは、海に潜って、
天然の貝から偶然録れる真珠を探す、
過酷な作業でした。
たいへん稀少なため、非常に高価で、
王侯貴族のような身分のひとしか
手にすることができなかったのです。
それを、いまから120年前に御木本幸吉、
私どもの創業者が養殖をはじめたんですね。
人工といっても、
貝に「核入れ」という手術をほどこし、
あとは海の中で育てる、
そういうかたちの養殖に成功したんです。
伊藤 それがあったからこそ!
では天然真珠というのは現在は‥‥。
向井さん もうほんとうに数が限られていて、
これだけの数は揃えられないんです。
伊藤 養殖真珠は、こうして粒ぞろいとはいえ、
まったく同じものはできないんでしょうね。
そこがまた魅力に感じるところかも。
養殖真珠にもいろいろな品質があるんですよね。
向井さん はい。けれども色は
あんまり品質に関係がありません。
いちばん違うのは光沢の強さ。
違い、おわかりになりますか。
こちら(価格の高いもの)は、
ちょっと金属的にも感じるような、
鋭い照りの強さがあります。
伊藤 はい。でも、私、この、
まろやかな照りのものも好きです。
向井さん そうですよね、もちろんこちらも
十分きれいなお品物です。
伊藤 ただ、全然違うものっていう感じがします。
向井さん そうですね、伊藤さんのように
いろいろなきれいなものを見慣れている方のなかには、
あえてこちらを選ばれるかたもいらっしゃいますよ。
あるいは、そんなに違いがわからないから、
こちらで十分ですねと選ぶ方もいらっしゃいます。
伊藤 こちらはアコヤ真珠ですよね。
向井さん はい、アコヤ真珠は日本の海で養殖しています。
ほかにも、二回りぐらい大きな
白蝶貝とか黒蝶貝というものもあります。
これが白蝶貝ですね。
伊藤 すごーい。
向井さん 二回りどころじゃないですね、もっとですね。
こちらの黒蝶貝は黒い真珠が採れます。
白蝶貝は同じように白い色。
あとは、ゴールデンパールといって、
もう少し黄色みがかった白蝶貝もあって、
金色の真珠になります。
これらの貝は、オーストラリアとか、
インドネシア、フィリピン、
一部、日本の石垣島などでも養殖されています。
伊藤 レスリングの吉田沙保里選手が
国民栄誉賞の副賞で希望されたのは金色の‥‥。
向井さん はい、そうですね。
金色も濃かったり薄かったり、いろいろとあるんですよ。
真珠は他の宝石と違って、後から加工をしないので、
もう生まれたままの色合いなんです。
伊藤 削ったりしないですものね。
向井さん こちらは「ザ・ベスト・オブ・ザ・ベスト」といいまして、
それぞれのサイズの中で、えくぼが最も少なく、
光沢も美しく、最上級の真珠だけで揃えたものです。
植野さん こちらについては、100個の真珠が採れる中で、
1個できるかどうか、というものを集めています。
アコヤ真珠は貝が小さいので、大きい真珠を育てるのに、
ひじょうに貝は苦しむわけですよね。
たとえば10ミリ以上などの大きいサイズは
採れにくくなります。
伊藤 苦しむ?
植野さん はい。核入れを施しても、じつは
養殖期間に核を吐き出してしまって
育たないものもあるんです。
残念なことに貝が死んでしまうこともあります。
核入れを施した数のうち
全てが美しい真珠になるわけではないんです。
生き物から採れる宝石なので。
伊藤 そうなんですね。
基本的な質問なのですけれど、
真珠の粒の大きさというのは
生育の期間によるものなのか、
たとえば海の状況で
年によって変わるものなんでしょうか?
向井さん 基本的には、もともとの核入れの
核のサイズを反映するんですよ。
伊藤 核のサイズ!
向井さん 小粒のものだと、一つの貝に一つじゃなくて、
複数育てることもできるんです。
ただその分、貝にはやっぱり負担なので、
かなり技術の高い養殖技術になりますね。
植野さん 人の手を経て手術をするんですけれど、
大きな核を入れるというのは、
貝にとってはお腹の中に
サッカーボールを入れられるようなものだと言います。
伊藤 じゃ、大変!
植野さん 手術としてもとても大変で、
120年前の発明としてはすごく特殊だったと思います。
最初はいろいろ苦労があったようです。
伊藤 御木本幸吉さんは、どうして思いつかれたのかしら。
植野さん もともと御木本幸吉の故郷、
三重県でアコヤガイから天然真珠が採れていたんです。
もちろん数が少ない。
けれども当時から天然真珠は人気があり、
乱獲されて数が激減してしまっていたんです。
それを何とか養殖したいっていう気持ちから、
まず始めたといいます。
貝が殖やせるなら
真珠も作れるんじゃないかということで、長年苦労して。
いまはどういう品質の真珠が
どういう貝から採れるかという遺伝的な研究ですとか、
貝の病気の研究もしています。
また、ある意味、漁業でもあるわけです。
生き物なので、赤潮が来て全部死滅してしまうと、
真珠どころじゃなく貝自体も‥‥。
伊藤 そうですよね、生き物なんですよね。
植野さん そういう意味で、ダイヤモンドですとか、
ルビーとかとちょっと違いますよね。
向井さん 宝石と申しましても、石ではありませんから。
植野さん 無機物でもありませんし。
伊藤 こうしてお話をきくと、
真珠がとても可愛らしく思えます。
愛おしいですね。
向井さん そうですね、それがいちばんの魅力です。

(つづきます)

2014-03-26-WED 
 

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 取材協力:ミキモト 写真:有賀傑