向井さん | 本日はご来店ありがとうございます。 |
伊藤 | こちらこそありがとうございます。 どうぞよろしくおねがいします。 きょうは真珠のことを いろいろ教えていただこうと思っています。 わたしは、真珠のピアスをすることがとても多いのですが、 いままできちんと知る機会がありませんでした。 まわりでは、たとえば編集者の岡戸絹枝さんが いつも真珠のイヤリングをしていたり、 お世話になっているかたが還暦を迎えたとき、 旦那さんが真珠のセットを買ってくれたのを、 とても嬉しそうにしていらっしゃるのを見たり。 このごろあらためて「真珠っていいな」と 感じることが増えてきたんです。 |
向井さん | ありがとうございます。 ぜひゆっくりごらんくださいね。 |
伊藤 | こうして拝見していると、 大きさだけでもいろいろな種類があるんですね。 |
向井さん | はい、まず大きさがちがうのが おわかりいただけると思います。 そして同じ大きさでも、 光沢と表面のえくぼの具合で印象が変わりますよ。 |
伊藤 | 微妙なくぼみのことを「えくぼ」っていうんですね。 |
向井さん | えくぼと言いましたのは、 普通に見るとわからないレベルのものなのですが、 よく見ていただくと、針でちょんと突いたような くぼみとか、逆に出っ張りのようなものがあります。 大きなえくぼがある珠(たま)は 使ってないんですけれども。 |
伊藤 | えくぼはどうしてできるんでしょう。 |
向井さん | 真珠は貝が育てるものですので、 えくぼが少ないもののほうが少ないんです。 |
伊藤 | じゃ、一つの真珠につき、何個もある場合も。 |
向井さん | はい。えくぼが少ないものだけを選んで、 こうしてジュエリーにしているわけなんです。 |
伊藤 | えくぼがたくさんあると。 |
向井さん | 評価としてはちょっと下がります。 |
伊藤 | なるほど。真珠は、いまはほとんどが 養殖とききましたが‥‥。 |
向井さん | はい、真珠はもともと、 天然のものが使われてきました。 数百年前のアンティークジュエリーは すべて天然真珠です。 当時の「真珠採り」というのは、海に潜って、 天然の貝から偶然録れる真珠を探す、 過酷な作業でした。 たいへん稀少なため、非常に高価で、 王侯貴族のような身分のひとしか 手にすることができなかったのです。 それを、いまから120年前に御木本幸吉、 私どもの創業者が養殖をはじめたんですね。 人工といっても、 貝に「核入れ」という手術をほどこし、 あとは海の中で育てる、 そういうかたちの養殖に成功したんです。 |
伊藤 | それがあったからこそ! では天然真珠というのは現在は‥‥。 |
向井さん | もうほんとうに数が限られていて、 これだけの数は揃えられないんです。 |
伊藤 | 養殖真珠は、こうして粒ぞろいとはいえ、 まったく同じものはできないんでしょうね。 そこがまた魅力に感じるところかも。 養殖真珠にもいろいろな品質があるんですよね。 |
向井さん | はい。けれども色は あんまり品質に関係がありません。 いちばん違うのは光沢の強さ。 違い、おわかりになりますか。 こちら(価格の高いもの)は、 ちょっと金属的にも感じるような、 鋭い照りの強さがあります。 |
伊藤 | はい。でも、私、この、 まろやかな照りのものも好きです。 |
向井さん | そうですよね、もちろんこちらも 十分きれいなお品物です。 |
伊藤 | ただ、全然違うものっていう感じがします。 |
向井さん | そうですね、伊藤さんのように いろいろなきれいなものを見慣れている方のなかには、 あえてこちらを選ばれるかたもいらっしゃいますよ。 あるいは、そんなに違いがわからないから、 こちらで十分ですねと選ぶ方もいらっしゃいます。 |
伊藤 | こちらはアコヤ真珠ですよね。 |
向井さん | はい、アコヤ真珠は日本の海で養殖しています。 ほかにも、二回りぐらい大きな 白蝶貝とか黒蝶貝というものもあります。 これが白蝶貝ですね。 |
伊藤 | すごーい。 |
向井さん | 二回りどころじゃないですね、もっとですね。 こちらの黒蝶貝は黒い真珠が採れます。 白蝶貝は同じように白い色。 あとは、ゴールデンパールといって、 もう少し黄色みがかった白蝶貝もあって、 金色の真珠になります。 これらの貝は、オーストラリアとか、 インドネシア、フィリピン、 一部、日本の石垣島などでも養殖されています。 |
伊藤 | レスリングの吉田沙保里選手が 国民栄誉賞の副賞で希望されたのは金色の‥‥。 |
向井さん | はい、そうですね。 金色も濃かったり薄かったり、いろいろとあるんですよ。 真珠は他の宝石と違って、後から加工をしないので、 もう生まれたままの色合いなんです。 |
伊藤 | 削ったりしないですものね。 |
向井さん | こちらは「ザ・ベスト・オブ・ザ・ベスト」といいまして、 それぞれのサイズの中で、えくぼが最も少なく、 光沢も美しく、最上級の真珠だけで揃えたものです。 |
植野さん | こちらについては、100個の真珠が採れる中で、 1個できるかどうか、というものを集めています。 アコヤ真珠は貝が小さいので、大きい真珠を育てるのに、 ひじょうに貝は苦しむわけですよね。 たとえば10ミリ以上などの大きいサイズは 採れにくくなります。 |
伊藤 | 苦しむ? |
植野さん | はい。核入れを施しても、じつは 養殖期間に核を吐き出してしまって 育たないものもあるんです。 残念なことに貝が死んでしまうこともあります。 核入れを施した数のうち 全てが美しい真珠になるわけではないんです。 生き物から採れる宝石なので。 |
伊藤 | そうなんですね。 基本的な質問なのですけれど、 真珠の粒の大きさというのは 生育の期間によるものなのか、 たとえば海の状況で 年によって変わるものなんでしょうか? |
向井さん | 基本的には、もともとの核入れの 核のサイズを反映するんですよ。 |
伊藤 | 核のサイズ! |
向井さん | 小粒のものだと、一つの貝に一つじゃなくて、 複数育てることもできるんです。 ただその分、貝にはやっぱり負担なので、 かなり技術の高い養殖技術になりますね。 |
植野さん | 人の手を経て手術をするんですけれど、 大きな核を入れるというのは、 貝にとってはお腹の中に サッカーボールを入れられるようなものだと言います。 |
伊藤 | じゃ、大変! |
植野さん | 手術としてもとても大変で、 120年前の発明としてはすごく特殊だったと思います。 最初はいろいろ苦労があったようです。 |
伊藤 | 御木本幸吉さんは、どうして思いつかれたのかしら。 |
植野さん | もともと御木本幸吉の故郷、 三重県でアコヤガイから天然真珠が採れていたんです。 もちろん数が少ない。 けれども当時から天然真珠は人気があり、 乱獲されて数が激減してしまっていたんです。 それを何とか養殖したいっていう気持ちから、 まず始めたといいます。 貝が殖やせるなら 真珠も作れるんじゃないかということで、長年苦労して。 いまはどういう品質の真珠が どういう貝から採れるかという遺伝的な研究ですとか、 貝の病気の研究もしています。 また、ある意味、漁業でもあるわけです。 生き物なので、赤潮が来て全部死滅してしまうと、 真珠どころじゃなく貝自体も‥‥。 |
伊藤 | そうですよね、生き物なんですよね。 |
植野さん | そういう意味で、ダイヤモンドですとか、 ルビーとかとちょっと違いますよね。 |
向井さん | 宝石と申しましても、石ではありませんから。 |
植野さん | 無機物でもありませんし。 |
伊藤 | こうしてお話をきくと、 真珠がとても可愛らしく思えます。 愛おしいですね。 |
向井さん | そうですね、それがいちばんの魅力です。 (つづきます) |
2014-03-26-WED
取材協力:ミキモト 写真:有賀傑 |
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