真珠。
 その5



伊藤 むかし、二十歳の記念ではじめて、
母からパールのネックレスをもらいました。
植野さん 「ファーストパール」ですね!
伊藤 それを先日、知り合いに
留め金をリメイクしてもらった時、
「真珠はすごくデリケートだから、
 もしかしてここの金具を取る時に
 ちょっと傷が入ってしまうかもしれない。
 ダイヤとかと全然違うんです」
とおっしゃってて。
たしかに真珠には硬い印象がありません。
向井さん 人の爪の表面の硬さぐらいって言われています。
伊藤 そうなんですか。
向井さん ですから硬い鋭いものに当たったりすると、傷つきます。
ほぼ日 二十歳にお母様からもらうっていうのは、
「はじめての真珠」に触れるいい機会ですよね。
伊藤 わたしのまわりでも、けっこうよく聞きますよ。
向井さん はい、成人のお祝いでお求めの方は
とっても多いと思います。
伊藤 卒業、入学、成人、就職。
そういう節目のプレゼントに。
その年齢では、自分で買えるものではないですしね。
向井さん なおかつ、その時だけじゃなく、
一生ものとしてずっと使えますので。
伊藤 そういう文化を作ったのも、
ひょっとしてミキモトさんですか。
植野さん そうだとしたらとてもうれしいです。
一般の女性に真珠のネックレスが普及しだしたのは
1950年代ぐらいなのですけれど、
その頃から弊社の広告で、
「結婚式にはパールのネックレスとイヤリングを」
「冠婚葬祭に使えます」ということを
徐々に浸透させていったんですね。
それまでの天然真珠の時代にくらべて
効率よく安定して生産できるようになったので、
バリエーションも増えて、
真珠のネックレスも充実していったものの、
普及という意味ではまだまだでしたから。
また、こういった約40センチの長さを
チョーカータイプと言ってますけれど、
この名称も日本ではミキモトから
始まったものと言われているんですよ。
伊藤 すごく嬉しかったです、大人になった気がして。
植野さん やっぱりいまでも多いですよね。
伊藤 真珠は普遍的な美しさだと思いますが、
それでも流行というのはあるんでしょうか。
向井さん 最近はロングがとても人気ありますね。
小粒のロングがほんとうに、
一時期、品薄になってしまって。
お手持ちのカジュアルなペンダントと
重ねづけもできますから。
伊藤 二重にしたり、そういうふうにも?
向井さん そうですね、こちらは約120センチなんですけれど、
巻くと、三連にもできます。
こちらの約80センチのものは
グラデーションになっておりまして、
粒が大きいとドレッシーになりますけど、
小粒もこんな感じのロングだと、
カジュアルな服装にも合わせられるんですよ。
伊藤 すごくきれい!
光沢にも奥行きがあって。
植野さん ダイヤモンドは暗闇で輝きが出ないんですけれども、
真珠はちょっと薄暗い中でも柔らかい光を放ちます。
伊藤 そうか、ダイヤは光が当たらないと輝かないけれど、
真珠は自ら輝く印象ですね。
知らないことがいっぱい。
植野さん 硬い宝石と違って、穴をあけて糸を通すだけで
いろんな形を作れるのもいいところですよね。
お手持ちのネックレスに真珠を足して長くしたりとか、
カラーストーンなどのパーツを足してアレンジしたりとか、
最近はそういう方もいらっしゃいますね。
伊藤 一生使うことができるというお話でしたが、
糸は定期的に替えたほうがいいんですよね。
向井さん 私どもは絹糸を使っておりまして、
それは絹糸に汗や湿気を吸わせることで
真珠にダメージが行かないようにするためなんです。
ただその代り、ワイヤーとちがって、伸びてきますので、
使う頻度にもよるんですが、
できれば1年とか2年に1回、
糸のお取替えをおすすめしています。
伊藤 絹糸だとしなやかさがありますよね。
からだに沿うというか。
向井さん そうですね、ラインも柔らかく、
からだに馴染むと思います。
最初はちょっときつめにぎゅっと糸を張るんですが、
使われるうちにすぐしなやかに。
伊藤 わたしは年間300日ぐらい、
真珠のピアスをつけているんですが、
そんなふうにふだんからつけられるものだという
印象とともに、
真珠には冠婚葬祭のイメージもありますよね。
フォーマルで使うときのために買っておく、みたいな。
植野さん はい、それが私たちとしてはすごく残念で。
もっとふだん使いしていただきたいっていう
思いがあるんです。
以前、統計を取ったんですね、国内の女性に、
どれぐらい真珠のネックレスを使いますかって。
そうしたら年に1回から3回ぐらいしか着けない。
たぶん結婚式、お葬式、
入学式とかになってしまうんですね。
それがもったいない。
白いだけあって、何のお洋服でも合わせやすいので、
もっと気軽に使っていただきたいっていう
気持ちがあります。
年齢も選ばないですし、
最近はロングが流行っているとはいえ、
一般的なファッションのような
大きな流行はありませんし。
そんななか、伊藤さんのように、
ピアスはふだん使いにむいていますから、
初めて着けるパールがピアスという方が
とても多いんですよ。
伊藤 服を選ばないですものね。
カジュアルなTシャツにも!
けっこう大きなピアスも素敵ですよね。
向井さん ピアスの穴をあけている方だと、
ちょっとしずくのように、
こぼれ落ちるように傾くのがすてきなんですよ。
中には、お着物のときにできるぐらいの、
シンプルな一粒はどうかしら、
という方もいらっしゃいます。
伊藤 お着物もパールだったら大丈夫ですか。
向井さん はい、大丈夫ですよ。

(つづきます!)

2014-03-28-FRI

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(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN
 取材協力:ミキモト 写真:有賀傑