「Why Camp?」を考えながら、
					キャンプに行ってきた。
					石川直樹、小杉敬、KIKI、こいしゆうか、
					そして、ほぼ日キャンプチーム
					With唐突描き下ろし
					和田ラヂヲのWHY CAMP?

安全と冒険の両方を。
					石川直樹さんと
					小杉敬さんのキャンプ談義

「Why Camp?」
どうしてキャンプをするんだろう?

ほぼ日がキャンプのプロジェクトを
スタートさせるにあたって、
最初に向き合ったテーマがそれでした。

何人かの方に取材したあと、
私たちはその問いかけを抱えたまま、
実際にキャンプに行ってきました。
そこでもまた、キャンプについて話します。

今回、お届けするのは、写真家の石川直樹さんと
ゼインアーツの代表を務める小杉敬さんの対談です。
ふたりのキャンプ経験はまさに正反対。
いままで一度もキャンプ場に
来たことがないという石川直樹さんと、
キャンプ場でのキャンプをくり返し、
そこでつかうギアをつくり続けている小杉敬さん。

天候にめぐまれた五光牧場オートキャンプ場で
収録したキャンプ談義をどうぞ。

profile

第2回自然に触れる入り口として

──
「登山」と「キャンプ」は
まったく別物だということでしたが、
アウトドア経験があまりない人には、
その違いがわからないかもしれないです。
小杉
そうかもしれないですね。
アウトドアショップに行くと、
登山用品とキャンプギアの売り場が
ワンフロアの中に混在してたりするので。
石川
まあ、そうですよね。
ぼくにとっては、混在しているのが
当たり前ですけれど。
小杉
極端にいうと、登山用品って、
「ケガや事故リスクの高い環境」
に行こうとする人たちが使うものです。
一方、キャンプ場は、基本的に、
「ケガや事故リスクの低い環境」なので、
やっぱり根本的な考え方が違うんですよね。
運搬方法もそれぞれ違うので、
キャンプ場でつかうギアはぎりぎりまで
重さを切り詰める必要はないし、
登山用品の機能を盛りだくさんにして
重くなっていくのは絶対におかしいし。
──
小杉さんのように
登山とキャンプをどちらもたのしむ人って、
あんまり多くないのでしょうか?
小杉
そうですね、多くはないと思います。
先ほどお話ししたように、
以前のキャンプは、登山から派生した
サバイバル感が残っていたのですが、
キャンプの在り方が変わって
登山をやる人とキャンプをやる人が
明確に分かれてしまったような気がします。
石川
だから、キャンプ場っていう施設は、
どんどんこういう「快適な」方向に。
小杉
はい。ただ、登山とキャンプは
特性が違うものではありますけど、
ぼくはキャンプギアをつくる側として
どちらの人の気持ちも理解したいと思っています。
登山好きの人には命を守れるものを、
キャンプ好きの人には快適でおしゃれなものを。
それぞれの価値観をちゃんとわかっておかないと、
彼らから求められているものはつくれませんから。
また、両者には共通する部分もあるんですよ。
「きれいな自然が見たい」とか、
「都会の喧騒から逃れて、
朝、小鳥の声で起きたい」とか。
そういう気持ちはどちらにもあると思っています。
石川
うーん、そうか‥‥?
そうなのかなあ(笑)。
──
登山のレベルにもよるのかもしれません。
ヒマラヤとか、年間100泊は特別です(笑)。
小杉
そうですね(笑)。
まあ、でも、登山をする人が
「キャンプなんて」と思う気持ちも、
十分にわかっています。
ぼく、前の会社に在籍していたころ、
その地域の山岳会に入っていたんです。
そこはゴリゴリの縦組織で、
キャンプ向けのギアをつくっていると言うと、
先輩たちからバカにされるわけですよ。
オートキャンプに対して
「車の隣で飯食って何がおもしろいんだよ」
みたいに言われて。
石川
まあ、そうですよね。
ぼくも、そちら側の意見です。
ガチな自然を知ってるからこその
本音かもしれません。
小杉
そうなんですよね。それもわかります。
だけど、キャンプの意義って絶対あって、
たとえば身体がどこか悪かったり、
高齢で体力が落ちたりして、
山の世界に入りたくても入れない人って
じつはたくさんいるんです。
石川
ふむふむ。
小杉
あと、子どもも本格的な登山は難しいですよね。
だから「子どもに自然を体験させたい」と
キャンプ場に来るファミリー層はすごく多くて。
「自然のなかに入りたい」という欲求を
登山よりは簡単に満たしてくれるんです。
石川
キャンプ場の「自然」は自然なのか?
っていう疑問はありますが、
入門編としては、
オートキャンプはたしかに最適ですよね。
こういう快適なテントだったら、
誰でもぐっすり寝れそうですし。
正直、ぼくにとって、自然というのは、
「強くて怖いもの」なんですけど、
ここでは、そういった恐怖を味わうことなく
自然をたのしめるんでしょうね。
小杉
それがよい入り口になればいいなと思います。
ただ、なんというか、キャンプの本質って、
自然のなかで本能的に芽生える冒険心だったり、
災害があってもある程度自力で生きられる
スキルを培うことだと思っているんです。
最近、そこらへんを理解しないまま
キャンプをしている人が多いのも事実です。
ただかっこよくレイアウトしたいとか、
道具をきれいにそろえるだけ、
みたいになっている側面もあって、
それがだめだというわけではないですが、
なんか、ちょっともったいないなと思います。
石川
うん、うん。
小杉
せっかく大自然のなかに来たんだったら、
ちょっと散策してみるとか、
テントから離れて探検することで、
本当の意味での自然のたのしみを
知れるんじゃないかと。
それが、自立にもつながると思っています。
──
自立というのは?
小杉
都会で安定した生活をしている人って、
いろんなものに依存してると思うんです。
たとえば、ぼくが仕事で
よく行っていたバングラデシュでは、
みんな掘っ立て小屋みたいな家に住んでるんです。
雨季になると洪水で家が流されていくから、
立派な建物を作っても意味がないんですね。
「家が流されたらまた建てればいいじゃん」
という発想で。
石川
どこかに移ることが前提なわけですよね。
だから、余計なものを持たない。
小杉
そうそう。余計なものを持たない人は、
ものに依存していない強さがあって、
自分で自然に対抗する術をちゃんと持っている。
そういうことが自立だと思うんです。
一方で、日本に住む人の多くは
誰かが作った家に住んで
誰かが作ったインフラのうえで生きていますよね。
それがなくなった瞬間に、すごく慌てる。
そんなとき、自然のなかで生き抜くスキルがあれば、
それが希望にもなると思うんです。
ぼくは、アウトドア、野外活動することの
意味のひとつは、そこにあると思っていて。
石川さんのように、最初からひとりで、
山の世界でドーンと冒険ができる人は、
それでまったくいいんですけど、
できない人にとっては、自然に触れる入り口として
キャンプはとてもいいと思っているんです。
(つづきます)

キャンプ場であれこれ思った
							ほぼ日キャンプチーム
							今日の雑感コーナー

なんか、キャンプに行くといろいろ思いますよね。
ほぼ日キャンプチームも、あれこれ思うし、
誰かに話したくもなるし、写真も撮ったりするので、
そういうのを載せておくことにしました。
みんなで書くよ。外部スタッフも書くよ。
いっしょにキャンプしたらチームだからね。

明るいということ。
							今日の担当:タナカ(ほぼ日)

わたしはキャンプ初心者で、今回はキャンプ5回目くらい。
東京の住宅街育ちのわたしにとって、
空が広いとか、すぐ近くに山があるとか、
キャンプ場というほぼ外にいるような状況は、
とても新鮮な体験です。

すくないキャンプ経験の中でも毎回思うのは、
明るいことのすばらしさ。
キャンプ場の夕方はきれいで、
日が沈むにつれてだんだんと
空の色が変わっていくのを見ているのは
素敵な体験です。そしてふと気が付きます。

「おや、周りが見えにくくなってきたぞ?」と。
周囲にあった木もテントも色を失って、夕闇に包まれます。
そうなると、ちょっとした不安とともに、
いそいそと、ヘッドライトの準備です。

ヘッドライトは限られた範囲を照らしてくれて、
トイレに行くときや、
テントの中で探し物をする時には便利だけど、
数メートル先は真っ暗でよく見えません。

キャンプ場は守られた空間なので、
不安にはならないし、星はきれいに見えて、
それはそれでキャンプに来た醍醐味ではあるのですが、でも。

朝起きたときの、すべてが丸見え、遠くまでよく見える、
そのときの、自分の目が機能している感じ、
「見えるぞー!」って感じは、爽快です。
明るいってすばらしい。
太陽の時間に合わせて生活していた
昔の人の暮らしについても、
心からわかる、と思うようになりました。

写真は夕方の美しい時間帯。
夜に向けたスイッチが入る瞬間です。
2023-08-23(wed)

STAFF

編集 : 金沢 俊吾
動画撮影 : 石渡 樹
撮影協力 : 植田 慧祐