『実は ナポリ って名前の男の人だったりして』
モリさんなしでは生きてはゆけぬ
ダメ男の姿を思い浮かべ
そんな話で盛り上がったこともある。
実際 ナポリはモリさんにとって
恋人であり 家族だったのだ。
モリさんの ネコ好きは ナポリに限ったことではなかった。
会社の机には ネココーナーがあり そこには
小さなネコのぬいぐるみや ガラスで出来た子ネコが鎮座し
ペルシャネコが描かれたブローチは絵画のように立掛けられ
トルコ土産のネコ柄キャンディの包み紙は
きちんとシワを伸ばされピンでとめられていた。
ここまでネコ好きを あらわにされると
なにかしたくなるのが あたしの性分で
ネココーナー入り目指し
クッキーの余り生地で2センチほどのネコを焼いたり
小指の爪サイズの ネズミを編んだりしては
朝の掃除の時間に 置き逃げし
遠くからその反応をうかがっていた。
去年の冬
モリさんは14年振りに引っ越した。
ナポリの四十九日を待って
その翌日に引っ越した。
ひさしぶりに会うモリさんは
少しさみしそうではあったけれど
どこかすっきりしたようにも見えた。
巨大オフィス街からの帰り道
『きをつけてね〜』 近所の野良猫たちに
手を振り にやにや声をかけながら
モリさんは今 うんと 都会で暮らしている。
*ネコ好きが高じて
モリさんのコートの裂け目からは
ネコが生えてきた。 |