第7回 《 赤貧ひとり合宿 》 |
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条件1 東京より寒くないところ
2 夜行バスで行けるところ
3 身近な人から評判がいいところ
『ひとり合宿をしに三週間高知に行ってきます』
仕事先や友人に告げると皆
“へ? ”という顔をするので 聞かれる前に
『たまりにたまったお直しをやりに』
と 合宿の意図を説明する。
それでもやっぱりなにかひっかかるのか
腑に落ちないような顔をする。
ほんの少しの空白があって
『で、なんで高知?』
見えない手が肩の辺りをはたいた気がするツッコミに
『この条件に当てはまったのが高知だったから』
と答えた。
あたしは極度の冷え性で
細かい作業をしていると指先が氷のように冷えてくる。
赤貧ひとり旅は夜行バスと相場が決まっているので
(いつからか自分がそう決めただけのことだけど)
夜行バスで無理なくいける 11月でも暖かいところ。
しかも母や友人が何度か行っていて
すごくいいところだと言っていた。
だから高知にした。
ここの期間だけは絶対になにも入れない。
その間にかかる締め切りのものは
前倒しで提出しようと
出発の1時間前まで作業をしていた。
三日間ほぼ徹夜状態で飛び乗ったおかげで
夜行バスでは熟睡できて
11時間の長旅も苦ではなかった。
そう 夜行バスに乗る前は徹夜した方がいい。
お直し合宿のひとつ目はこれと決めていた。
なんせいちばん古いのだ。
持ち主になんと謝ったらいいのか…
会社を辞める直前に預かったから かれこれ…
ひどいにもほどがある…7年近くたっている。
『はっ! ニルスの不思議な旅!』
口の縫い目が裂けていたこのバッグの
お直しをお願いされた瞬間 完成図が浮かんだ。
しかしなかなか手を付けなかった。
ニルスがどんな格好をしていたか
思い出せなかったから。
小さい頃に読んでいた絵本が
どこかにあったような気がしたが
度重なる引っ越しの間に
そんなものはとっくになくなっていた。
『ニルス どんな格好だったか覚えてますか?』
職場の人に聞いみたけど みんな覚えていなかった。
“なんか帽子かぶってたような…
茶色っぽい格好だったような…
今度本屋さんで調べてみよう”
そんなことを考えながら
『全然いつでも大丈夫だから』
という言葉を鵜呑みにして
そして同僚ということに甘えて
気がつけば約7年
お直し待ちダントツトップの
古株となってしまった。
持ち主の華ちゃんはその間に
結婚をし プレスチーフにまでなっていた。
“このお直しをやるために
高知に来たと言っても過言ではない”
そう自分に言い聞かせるようにつぶやき
せまいせまいビジネスホテルのベッドの上で
バッグと持ってきた大量の糸を交互に眺め
“もうニルスの格好なんかどうでもいいわ”
なんて思いながらもやっぱりちょっと気にして
自分で勝手に作り上げたニルス風人形を編み
ちょうど裂けてまつった鳥の背ににまたがせた。 |