第8回 《 アメリカンな古着屋 》 |
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もう15年以上も昔の話。
アメリカ人と日本人の
ハーフのともだちと 時々会っては
ファーストフードを食べ
他愛のないおしゃべりをたのしみ
ウィンドショッピングに付き合った。
渋谷にあるお気に入りのお店を
はしごするのが恒例で
そのすべてがアメリカンな古着屋だった。
どのお店も 若干の違いはあれど
同じような洋服が並び
同じようなにおいがした。
ホコリのような カビのようなにおい。
それをきついお香でごまかそうとして
ごまかしきれずに混ざりあってしまった
あの独特な古着屋のにおいが
あたしは苦手だった。
最初のうちは我慢して
一緒のものを見ているんだけど
そのうち耐えられなくなって
少しでも新鮮な空気を吸い込もうと
押し寄せる無数のネルシャツの
波をかき分け 入り口付近に移動。
その辺りに並んでいる服から
なるべく触り心地の良さそうなものを選び
その服の記憶を探るように
撫でまわして過ごす。
しかし最終的には頭痛が始まり
外で待つことになるのだった。
それでも行きたくないとは言えなくて
毎回我慢して付き合っていた。
昭和初期日本人顔代表のようなあたしには
アメリカンな古着はもちろんのこと
においさえも あわなかったのだ。
あれから ずいぶんと大人になり
いまでは躊躇なく古着屋に入ることができる。
むしろ真新しい洋服が並ぶお店より
古着屋に入ることの方が多いかもしれない。
こんなあたしにも似合う古着があること
あのにおいがしない古着屋もある
ということを知ったから。
着物のスタイリストである内田さんは
“こんなの着こなせるのあなただけよ”と
周りに言わせるほどの むずかしい服も
なんの気負いも感じさせず さらりと着こなす。
内田さんから依頼されるお直しは
やっぱりだいたいが古着だった。
シミ取りのため 漂白剤につけておいたら
糸がやせ細って 生地が薄くなったり
穴が開いてしまったという
刺繍が施されたロングスカート。
やせた糸には刺繍に合わせた色の添え糸を
大きな穴の上には レース編みのポッケをつけた。 |