第19回 《 ナカコさん 》 |
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『初めまして。
“央” の字がいっしょですね』
ナカコさんと初めて会った時のこと。
『この人は林央子(ナカコ)さん。
ナカコさんは“here and there”という
雑誌を作っている人です。
そしてこの人はこういうの作ってる人』
共通の友人が差し出した あたしの本を手に取って
ナカコさんが発したその一言が
なんともいえずうれしかった。
その後すぐに ナカコさんの本の中で色々な人の
お直しをする企画をたててもらった。
ナカコさんの海外のおともだちの服が主な題材で
これまで特別 日本とか海外とかを
意識したことはなかったけれど
遠い国からあたしに直されるためだけに
わざわざやってきた ブラウスやワンピースを
目の前にすると 少しの緊張が走った。
思い過ごしかもしれないが
いつも触るお直し依頼の服よりも
肌なじみのよい服という気がしたのは
それらの服に着込んでいる感が
色濃く出ていたからかもしれない。
こんなに汚れているのを渡すのは恥ずかしいとか
申し訳ないとか そういった気持ちを持たず
この服が大切で着続けたいから直して欲しい。
そんな気持ちを強く感じた。
空をとび 海を越えてやってきた服と共に
ナカコさんの服もいくつか
お直しさせてもらうことにした。
そのひとつ 不揃いな編み目のニットベスト。
おともだちの手編みだ。
そのおともだちはアーティスト。
つまりこれは作品である。
あたしも好きなそのアーティストの作品に
お直しをしていいものかと躊躇した。
『もしよかったらきれいにも直せますよ?』
やんわり提案してみたが とびでた糸を見つめ
『…これを生かしたお直しで お願いします』
といわれてしまう。
ナカコさんの言葉は静かなのに とても強い。
おしゃべりしながら 髪の毛をまさぐる女の子のように
ひっかけて とびでてしまったいくつかの糸を
くるくると くるくる もてあそびながら考える。
輪っかだった糸が ねじれて束になる。
その束を 変わり糸でまとめてみたら
フリンジになった。とてもいい。