第21回 《 もとワルと草原の花 》 |
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アトリエで唯一の同い年。
たった半年 入社時期が違うだけで
ここまで差が出るものかというくらい
小物の製産管理をしていたトクちゃんは
てきぱきと仕事がよくできた。
外注さんにも厳しくしっかり注意が出来て
褒めることもちゃんと忘れない。
トクちゃんは動作が速い。せっかちとも言う。
ミシンの前に座ったと思った次の瞬間
ガガガーっとミシンの音が鳴り響く。
その早業にミシンが苦手なあたしは驚いた。
トクちゃんは 昔 広島のワルだったらしい。
やはりそうか…はっきりした物言いと
ときどきプスリと刺さる するどい視線に
入社後1年くらい あたしはトクちゃんにビビっていた。
“ももやの公園” での先輩からのかわいがりの話も
お母さんを困らせた若気の至り話も
まさかこのアトリエ内で聞けるとは思えないような
ザ・ワル話でおもしろかった。
トクちゃんの入社は 社風とのギャップが
決め手だったときいたことがある。
あたしたちは いつしか仲良くなり
ひとつ年下のタカヤナギと3人で
独立後も一緒に旅行する仲になっている。
ある日 トクちゃんのはいてきた
古着のニットスカートを見ておどろいた。
笑っちゃうくらい虫喰い穴が ぼこぼこあいていた。
『それ あきすぎでしょ』と指摘すると
『なーおしてー』と近づいてくる。
トクちゃんの声は なんというか ぺちょっとしている。
アトリエでもかわいいと評判だった。
『トクちゃんらしくてそのままでいいんじゃん』といったが
どうしてもというのでお直しをすることに。
本体と同じ色の毛糸で直せばきれいに直せるが
そこはトクちゃんのスカート。
きれいな みどりの草原に色とりどりの花を咲かせた。