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美術品のオークション、というと
「サザビーズ」とか
「クリスティーズ」みたいな名前が
まずは、出てきますよね。
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下山 |
どちらも、世界的に有名な
歴史あるオークション・ハウスです。
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なので、オークションと聞くと
なんだかすごく
「西洋の文化」みたいに感じるのですが
日本における
「オークションの歴史」というのは?
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下山 |
まあ、競売や競り売りという方式自体は、
日本にも古くからありますけど。
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ええ、築地のマグロとか。
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下山 |
そう、でも、はじめて日本に
美術品を扱うオークション会社ができたのは
今から30年ほど前のことです。
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あ、予想以上に最近なんですね。
とすると、下山さんみたいに
「オークショニア」を職業にしている人の歴史も
比較的、新しめであると。
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下山 |
日本においては、そうだと思います。
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じゃあ、それまでの日本では
美術品の競売って、どうしてたんですか?
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下山 |
もちろん、取引自体はありましたよ。
明治期には
売立会という売買の場があったようですし、
美術商の間の交換会のような
業者内のオークションも存在していました。
でも、誰でも参加できる
「公開のオークション」という仕組みは
なかったんです。
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なんとなく、以前から
「オークション」に興味あったんですけど、
「ものの価値や値段って何なんだ」
とか、こむずかしいことを考えてたんです。
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下山 |
ええ。
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でも、実際に
オークションのようすを見学して思ったのは
そんなことより
「こりゃ、おもしろい!」ってことでした。
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下山 |
人間模様と言いますか、
「駆け引き」みたいなものが見えることが
ありますよね。
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駆け引き。
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下山 |
あの、ものすごく細かい象牙細工の置物の競り、
あったじゃないですか。
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はい、中国の人がつくった、あのすごいやつ。
たしか「20万円」からはじまったのに
どんどんフダがあがって
最終的には
3人で競って「800万円」を超えてましたね。
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下山 |
あれは、おもしろかったですね。
途中、500万円くらいの段階で脱落した人が
最後のほうで、また参戦してきたりとか。
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そうそう! 復活してましたよね。
とっくに予算オーバーしてるけど
「こんなにも値段が釣り上がるんだったら
やっぱり買っとかなきゃ!」
みたいなふうに、思ったんですかね?
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下山 |
でしょうね(笑)。
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最後、ようやく競り落とされたときには
会場に拍手が起きていました。
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下山 |
あれは、いい場面を見たと思います。
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あ、そうですか。
展開がスピーディだし、
なにか、スポーツの試合を見ているような、
そんな感じもしました。
実際、目の前にいる3人が
「おお!」「さらに!」「まだ行くか!」
みたいな感じで
見ていて、すごくスリリングでした。
競り落とした人も
ガッツポーズでゴール、みたいな(笑)。
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下山 |
たしかに、あそこまで盛り上がることって
なかなかありませんからね。
競っているお客さんどうしで
お互いにギロリと睨みつけたりとか(笑)、
競ってる当人同士は
もちろん「真剣そのもの」ですから
スポーツっぽいんでしょう。
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しかも、オークションって
すごく「ポンポン進む」のが意外でした。
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下山 |
そうですね、うちでは
1時間に「150ロット」くらい捌くので。
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1時間に150品の競りがある、と。
それってつまり「多い」ってことですか?
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下山 |
多いというか、速いというか。
あるとき、フランス人の同業者に言ったら
すごく、びっくりしてましたよ。
なんだか、異様なスピードらしくて‥‥。
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速いってことはつまり、量も多い。
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下山 |
量については、クリスティーズの人が
「お前ら、クレイジーだ!」と。
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おお、世界2大オークション・ハウスの人に
「狂ってる」と言わしめましたか(笑)。
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下山 |
「毎月、この量をやってるのか?」って。
たしかに、1万円からはじまる、
ものすごく細かい競りも扱ってますしね。
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美術品取引のマーケットには
流行というか、
旬の作家みたいなのって、あるんですか。
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下山 |
ありますよ、はっきりと。
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はっきりと。
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下山 |
たとえば、少し前までは
草間彌生さんが大フィーバーしてましたし。
4~5年前なら
だいたい20万円から30万円くらいだった
シルクスクリーンの版画が
去年の夏に
草間さんがルイ・ヴィトンとコラボしたころには
「100万円」を超えていました。
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じゃあ、3倍とか4倍に?
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下山 |
「22.7センチかける15.8センチ」の、
「サムホール」という
ちっちゃいサイズのカボチャの絵なんか、
「400万円」とか。
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値段が急に上がる潮目みたいなものって
どういう理由なんでしょうね。
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下山 |
まあ、いろいろ理由はあると思うんですが、
会場にいたら一目瞭然です。
単純に「反応する人」が増えますから。
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たくさんの人が急に、同時に欲しくなるって、
すごく不思議な感じがするのですが。
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下山 |
きっかけは、さまざま、あります。
草間さんの場合だったら
「そろそろ来そうな感じ」があったところに
ヴィトンの件があったりとか、
過去の作家でも、回顧展が開催されるだとか。
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なるほど。
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下山 |
美術品の業者さんだったら
「ほしい」と言ってくるお客さんも増えるだろうし、
そういう、まわりの雰囲気から
これからこの作家は値段が上がるだろうって
みんな、予測をしているわけです。
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でも、永久に上がり続けるわけじゃないですよね?
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下山 |
もちろん。
いま、ピカソとか
誰もが知ってるビッグネームのマーケットは
すごく成長していて、
値段もどんどん上がってるんですけど、
通常は、どこかで上げ止まって
そこからこんどは、下がっていきます。
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あと、お客さんたちの「フダの上げかた」も、
人それぞれでおもしろかったです。
オークショニアの目の前で
ずっと挙げっぱなしのおじさんもいれば、
会場の端っこに立って
チラッとしかフダを挙げない女性もいて。
あれ、よく見落としませんね?
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下山 |
見落としていたら、オークショニア失格です。
それに、われわれオークショニアのとなりに
何番の人がフダを上げたかを
すべて記録しているアンダービッターがいて、
彼らの目もありますから。
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じゃあ、見落としたことないんですか。
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下山 |
ありますね。
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あ、あるんですか(笑)。
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下山 |
ええ、ものすごく怒られました。
まだ経験が浅いころのことだったんですが
いちばん前の席に座って
フダは挙げず、
胸元で人差し指をピッと立ててる人がいて。
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フダを挙げずに、人差し指。
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下山 |
それを見落としたんです。
フダを上げている人の数もすごく多かった。
椅子に座らず、
会場の隅のほうでフダを挙げる人もいるし、
ずっと
人差し指を立てていたみたいなんですけど、
ぜんぜん目に入らなかったんです。
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でも、となりのアンダービッターさんも
気付かなかったということは
難易度的に、かなり高度だったんでしょうね。
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下山 |
まあ、そうかもしれないんですけど、
もう別の人にハンマー叩いちゃっていますし、
そんな言いわけもできません。
ですからもう、ひたすら謝るしかなくて。
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はー‥‥胸元に、ピッと立てた人差し指。
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下山 |
あれは、勉強になりました。 |
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<つづきます> |