Ｌｅｓｓｏｎ９２５わかりやすく態度を変える人

Ｌｅｓｓｏｎ９２５
わかりやすく態度を変える人

2019-06-05

まるで手のひらをクルッと返すように
わかりやすく態度を変える人がいる。

どう接したらいいんだろう？

マンションのエレベーター、

挨拶してもあまり返事のない「お姉さん」がいる。
ふだんは、迷惑そうに顔をふせたまま、
会釈したかしないかくらいのリアクションをくれる。

しかし、その日。

「こんにちはーーー！！！！！」

と満面の笑顔、
高くうわずった声で私に挨拶してくる人がいた。
見るとあの「お姉さん」だ。
めんくらった私がエレベーターに乗り込むと、
お姉さんは、

「何階ですか？」

と、満面の笑顔、高い声で、私をのぞきこんで聞き、
１階です、と答えるとボタンを押してくれ、
１階につくと、開くボタンを押したまま、
「お先にどうぞ！」と、うわずった声で私を通してくれた。

そのとき、お姉さんは男と一緒だった。

男の前で態度を変える女のことを話には聞くが、
こんなにもわかりやすく180度別人になるものかな。

「私は利用されたな。」

しかし、先週のコラムに、
「何がどれくらいコワいかは人によって驚くほど違う」
と書いたところ、

読者からこんなおたよりをいただいた。

＜ひと言で態度を変えた後輩＞

私には、なかなか思いが汲み取れない後輩がいる。

さんざん話し合いをしようとしても、
彼女は全くやろうともせず、意見も出さない。
私が決めて、彼女は乗り気でない様子でついて来ない、
この繰り返しだった。

ある時、あまりにも負担感が大きくなり、
イライラしてつい、

「この仕事頼んでいいかな。〆切に間に合わなかったら、
○○さん(上司の名前)にあなたのこと
相談するつもりだから。」

と、大人げないことを言ってしまった。
まるで小学生が先生に言いつけるようだと、自分に驚いた。
しかし、本当に驚いたのはその後だった。
彼女が、真面目な顔で、

「はい、わかりました。やります。」

と答えたのだ。

？？？！！！　初めて聞いた返事。
今まで私が、彼女と仲良くやっていこうと思いを伝えても、
一緒に飲みに行ったりしても、
全く思いが通じなかったのに。
こんな方法で通じるなんて！

その後も何かするときは
「その上司の考えを汲んでの事」と
一言そえるとすぐやってくれるようになった。

私と彼女が噛み合わないのは
コワいことが全く違ったからなんだ。

私は組織やグループが仲良く回っていない時が一番コワい。
でも彼女は違うんだ。

彼女は自分のコワいものに立ち向かっていくために、
これから昇進していくのかもしれない。
彼女の部下になる日を想像し、それもまたコワい。

（ハナシ・アイ）

「コワい」、

あのお姉さんもコワかったのではないか？

エレベーターが１階に着くまでのわずか数十秒も、
別人を演じなきゃいけないほどに。
１分１秒、気を抜かず、「いい女」をアピールして
点数を稼ぎ続けなきゃ、いてもたってもいられないほどに、

つまんない女だと思われることが、
それで彼の心が離れることが、
ついには彼が自分のもとを去っていってしまうことが、

コワくて、コワくて、
心は悲鳴をあげていたのかもしれない。

他人の想いは完全にわかることはできない。
だから上記もまったくの私の憶測にすぎない。だけど、

「コワかったのかも」、と思った瞬間、心に風が通った。

お姉さんを、私を利用する計算高い人間には
思えなくなった。
彼と一緒にいる間は、神経をつかい、すり減らし、
クタクタで。

その緊張とプレッシャーの反動で、もう他の人に対しては、
心遣いする余裕も一滴も残ってないほどに、
疲れ切り、弛緩しきっているのかもしれない。

人間性を疑うとまでに思っていたお姉さんだけど、
そう考えると不思議に憎めない。
また見かけることがあったら、
私が心の中で、かけたい言葉はきっと、これだ。

「だいじょうぶ！　自分に自信を持って。」

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『17歳は２回くる―おとなの小論文教室。III』
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『理解という名の愛が欲しいーおとなの小論文教室。II』
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『おとなの小論文教室。』
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『考えるシート』講談社

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内容紹介（PHP新書リードより）
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
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