Lesson1042
幸せのカタチ
2022-05-25
幸せとは、
「いま、ここ、に夢中」
ってことなんじゃないか。
という仮説を、私は先日立てた。
いまここに没頭したことが、
いい時間を生み、
次の景色の見え方を変え、
夢中、夢中、であっという間に時がたつ、
それが幸せな人生じゃないかと。
そこで、はっ、と気がついた。
「そういう幸せなら、
自分ひとりでも目指せるんじゃないか。」
なんか社会観念のような、
“結婚して、子どもを生んで、家庭を持って、
家族そろって温かいものを食べて幸せ”
というイメージにとらわれてきた。
けど、それって相手あってのものだ。
偶然や運、出逢い、授かりもの
(それも素晴らしいが)、
そういう他者との関係に頼る幸せは、
自分ひとりではどうにもならないことも多い。
でも、いまここに夢中なら、ひとりでも目指せる。
連休に、
ふるさとに帰省して、
ごはんを食べていたとき、
母が言った。
「しあわせは、
家族いつたり(=5人)いつたりが、
うましうましと、魚を食うとき」
こ、これだー!!!!!
私は、ついに発見してしまった!
長年私を縛ってきた幸福観のルーツを。
社会通念じゃなかった、両親の言葉だ。
私は、物心ついたころからずっと、
この言葉を聞いて育った。
最初は父が言い出したんだと思う。
外国航路の船員をしていた父は、
めったに家族と会えなかった。
だから、たまに家族そろって食事をする時、
決まってこの言葉を言った。
やがて母も言うようになり、私や姉に浸透した。
けど今、家族全員そろって食事、
それができる人がどれくらいいるだろう。
とても少ない。
学生の文章からそう教えられた。
私が初めて大学で授業を持つようになった
2004年には、すでに、
親の単身赴任・離婚・子の進学などで、
そもそも父母きょうだい一緒に
住んでいない学生も多かった。
父母きょうだい一緒に住んでいても、
親の残業や、子の塾通いなど、
別々に食事をとる場合も多かった。
家族そろって食事は、現代では難しく、
だからといって幸せじゃないことはない。
「それにしても父はこの言葉を
どこからとってきたのだろう?」
調べてみたが存在しない。
どうも、橘曙覧(たちばなのあけみ)という人の、
「楽しみは/まれに魚煮て/児ら皆が/
うましうましと/いひて食ふ時」
などいくつかの短歌を、父が覚え違いをして、
言っていたのではと思う。
自分の幸福観を支配していたものの
正体がわかって、
すっきり解放された!
たしかに一家そろってごはんは尊い。
でもそれは、たくさんある幸せのカタチの
1つに過ぎない。
一人で食べるごはんにも幸せはあるし、
私のように親が単身赴任だったり、
私のようにいま親が入院していたり、
家族が欠けた状態で食べるごはんにも、
それぞれの幸せのカタチは見つけていける。
幸せのカタチは多様だ。
若い頃の私は、「達成感」
みたいなところに幸せを求めた。
大学合格とか、企業で目標達成とか。
企業で編集者をし始めたころの私は、
将来の目標を聞かれて、
「歴史に残るような編集者になりたい」
と答えていた。
書き手になってしばらくは、
そこじゃないと言いつつも
知らず知らずに部数にとらわれた。
当時SNSは浸透してなかったけど、
今流にいえば、バズりたいという気持ちが
なかったとは言えない。
けど、1度でも、
バズったことがある人はわかると思うが、
そんなにいいものではない。
「自分でも信じられない」という
ボーッとした感覚、
そこからじわじわ「嬉しい」が
こみあげてきそうになった時には、
もう、批判的なコメントが来ている。
たくさんの好意的なコメントの中の、
ほんのわずかな批判的コメントに「傷つく」。
そうこうしているうちに騒ぎは終わる。
だから、「バズるのが怖い」
「批判コメントがくるから早くおさまってくれ」
と願う人がいてもムリもないと私は思う。
それに、達成感は儚い。
達成の幸せは一瞬で終わる。
燃え尽きて虚脱する人さえいる。
だから、すぐ次の達成感を求める。
だけど次は、もっと大きな達成でないと
満足できない。
デビューさえできればと思っていた人が、
いざデビューできたらそれだけでは満ち足りず、
10万部達成できて喜んで、
でも次、10万では自分も周囲も喜べず、
30万、50万、100万‥‥と果てがない。
私は歳とともに、
そういう意味での「達成」とは別の角度に、
幸せを感じるようになった。言わば、
「いま、ここ、にある幸せ。」
書き手である私にとって、
ひとつ例をあげるとすれば、それは、
「これを書いてるとき夢中になれた」
という幸せだ。
書いてどうこうではなく、
売れてなんぼでもなく、
夢中になれたそのことに幸せを感じる。
「自分の想う世界を表現できる」
という幸せ。
技術が追いつかなくても、
自分でコツコツ磨いていって、
想う世界に、1ミリ2ミリと
近づいていけるって幸せだ。
そこまでいかなくとも、
「いま自分の中に書きたいものがある」
それだけでも幸せだし、
いや、そのもっと手前で、
「書く、それだけで幸せ」
そう感じられるようになると、
もっともっと手前で、
「生きてる、そのこと自体幸せ」
と感じられるようになってくる。
きれいごとではなく、
私はいま家族が病気なので、
生きているそのこと自体に
深い幸せを感じずにはいられない。
そんなふうに、いまここにある幸せは、
ひたひたと満ちてくる。
達成感と比べれば、
地味でジワジワだけど、
そのぶん、カンタンには冷めない。
満たされるので、
貪欲に次々追い求めることもない。
何事かを「成す」のではなく、
すでにここに「ある」、そこに「気づく」幸せだ。
だから他者に依存することなく、
自分ひとりでもコツコツと目指していける。
「何も達成しなくても、いまここにある私」
そこに歓びを見つけていくことが、
いま、私の幸せのカタチだ。
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ラジオで、山田ズーニーが、
『おかんの昼ごはん』について話しました!
録音版をぜひお聞きください。
●「ラジオ版学問ノススメ」(2012年12月30日~)
インターネット環境があれば、だれでもどこからでも
無料で聴けます。
聴取サイトは、http://www.jfn.co.jp/susume/
(MP3ダウンロードのボタンをクリックしてください)
または、iTunesからのダウンロードとなります。
ほんとうにおかげさまで本になりました!
ありがとうございます!
▲『おかんの昼ごはん』河出書房新社
「親の老い」への哀しみをどう表現していいかわからない
私のような人は多いと思います。
読者と表現しあったこの本は、思い切り泣けたあと、
胸の奥が温かくなり、自分の進む道が見えてきます。
この本が出来上がったとき、おもわず本におじぎをし、
想いがこみ上げいつまでもいつまでも本に頭をさげていました。
大切な人への愛から生まれ、その先へ歩き出すための一冊です。
『「働きたくない」というあなたへ』河出書房新社
「あなたは社会に必要だ!」
ネットで大反響を巻き起こした、おとなの本気の仕事論。
あなたの“へその緒”が社会とつながる!
『新人諸君、半年黙って仕事せよ』
―フレッシュマンのためのコミュニケーション講座(筑摩書房)
私は新人に、「だいじょうぶだ」と伝えたい。
「あなたには、コミュニケーション力がある」と。
――山田ズーニー。
▲『人とつながる表現教室。』河出書房新社
おかげさまで「おとなの小論文教室。II」が文庫化されました!
文庫のために、「理解という名の愛がほしい」から改題し、
文庫オリジナルのあとがきも掲載しています。
山田はこれまで出したすべての本の中でこの本が最も好きです。
『おとなの進路教室。』河出書房新社
「自分らしい選択をしたい」とき、
「自分はこれでいいのか」がよぎるとき、
自分の考えのありかに気づかせてくれる一冊。
「おとなの小論文教室。」で
7年にわたり読者と響きあうようにして書かれた連載から
自分らしい進路を切りひらくをテーマに
選りすぐって再編集!
▲文庫版でました!
あなたの表現がここからはじまる!
『おとなの小論文教室。』 (河出文庫)
ラジオ「おとなの進路教室。」
http://www.jfn.co.jp/otona/
おとなになっても進路に悩む。
就職、転職、結婚、退職……。
この番組では、
多彩なゲストを呼んで、「おとなの進路」を考える。
すでに成功してしまった人の
ありがたい話を聞くのではない。
まさに今、自分を生きようと
もがいている人の、現在進行形の悩み、
問題意識、ブレイクスルーの鍵を
聞くところに面白さがある。
インターネット、
ポッドキャスティングのラジオ番組です。
「依頼文」や「おわび状」も、就活の自己PRも
このシートを使えば言いたいことが書ける!
相手に通じる文章になる!
『考えるシート』文庫版、出ました。
『話すチカラをつくる本』
三笠書房
NHK教育テレビのテキストが文庫になりました!
いまさら聞けないコミュニケーションの基礎が
いちからわかるやさしい入門書。
『文庫版『あなたの話はなぜ「通じない」のか』
ちくま文庫
自分の想いがうまく相手に伝わらないと悩むときに、
ワンコインで手にする「通じ合う歓び」のコミュニケーション術!
『17歳は2回くる―おとなの小論文教室。III』
河出書房新社
『理解という名の愛が欲しいーおとなの小論文教室。II』
河出書房新社
『伝わる・揺さぶる!文章を書く』
PHP新書
内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの痛みと歓びを問いかける、
心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)
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